「かわいい」と一緒に生きていく
何年ぶりかにiPhoneの機種変更をした。
本体の色は迷わずピンクにしたけど、ケースを選ぶのは丸4日かかった。何かを選択するということは、著しく脳のエネルギーを消費する。
iPhoneを便利に、快適に使いたい。
それ以上に、絶対にかわいいものを身につけたい。
誰にどう思われるかということはどうでもよく、来る日も来る日もiPhoneを目にする度に「は〜わたしのiPhoneかわいい!最高!」と思っていたい。
夫はものの数分でケースを購入し(黒くて丈夫で本体を360°保護してくれればなんでもいいらしい)、「そんなに迷うんだったら、まずはどれか1つを買ってみて、飽きたら途中で違うものに変えたら?」と言った。
とても魅力的な提案だったけど、たとえ途中でケースを変えるのだとしても、最初の選択を妥協する理由にはならない。
だいたいiPhoneというものは、寝るとき以外ほぼずっと身につけている。結婚指輪と同じくらい身につけている。結婚指輪は何軒もお店をまわって、時間をかけて慎重に選ぶ。iPhoneケース選びに時間がかかるのは必然だ。
悩みに悩んだ結果、わたしのiPhoneはこうなった。
は〜かわいい!最高!
すぐさまケースの購入元のAmazonレビューに「最高です」と書いて投稿した。
そしてふと、この「かわいいものを身につけたい」「かわいいものに囲まれて暮らしたい」と願う、執念のような気持ちはなんなのだろうと思った。
大阪大学大学院の入戸野宏教授によると、「かわいい」は、対象との関係性によって脳の中で作られる感情なのだそうだ。
感情だから人によって感じ方に差が出る。対象をかわいいと感じるかどうかは、その対象と自分の関係性によって変わる。それで、誰もが経験するように、同じものを目にしても「かわいい」と感じる人と感じない人が出てくる。見た目では「こういうものがかわいい」とは定義できないらしい。
かわいいものを見ると、ドーパミンが放出される。
ドーパミンは「快楽物質」ともいわれていて、脳に快楽や高揚感といった「報酬(=快感覚)」をもたらす。その結果、その行動への動機づけ(もっとやりたいという気持ち)が生じ、ますます行動が反復されるようになる。
ギャンブルやアルコールなどの依存性にもこの神経回路が強く関わっているが、「かわいい」については接しても興奮の度合いは高まらず低いままで、適度に前向きな気持ちにしてくれるということが分かっているそうだ。
さらに「かわいい」は、「リラックス」や「ワクワク感」といった他のポジティブな感情に比べ、笑顔になりやすいことが研究結果として示されているという。
ここまで調べてみて、自分がかわいい持ち物にこだわる理由がよくわかった。
この生きづらくてストレスフルな世の中で笑顔でい続けるのに、かわいいものほど手軽で心強いアイテムはそうないだろう。
定義づけのできない自分自身の感情なのだから、誰にも気兼ねすることなく、立場や年齢に後ろめたさを感じることもなく、自分の考える「かわいい」を思いっきり楽しめばいい。
何歳になってもかわいいものを慈しむ。
そこにはいつも心地いい高揚感が待っている。