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《感想》虎に翼

【虎に翼】

▶連続ドラマ


子役時代から始まらないスタート、新鮮。
そして寅子(伊藤沙莉)が男女という性差によって発生する違和感を社会に対して抱き法律に目覚めるまでの第1週が、ひとつひとつ丁寧なのに怒涛の勢いがあってこれは好きになる作品だと確信し一気に惹き込まれた。

法曹界での女性の活躍は可能になったし、当時の女性差別の色濃い法律を現代の法律に関わらない一般人が見ても有り得ないと思えるくらいの社会にはなっている。
でも、実際のところはまだ賢い女性ってすごく嫌がられる社会だなと思うことがある。
(年代やそれぞれの価値観にもよるけど。)
寅子が小さな我が子を横目に夜中に仕事をしていた描写が何度もあったけど、現代の人たちが見て「お母さんなのに、子どもがかわいそう」と思わないだろうか?
そんな父は多くの家庭に今もまだ当たり前に存在しているはずなのに。
男が仕事に精を出せば褒められて、女が仕事に精を出せば未婚なら結婚を、既婚なら家庭を、子持ちなら育児を心配される。
そんな社会がいまだに残っていないか?
寅子の生きた時代から大きく変わりながらも大きく変わっていなかったりして、寅子を大変だと思いながらも共感できたりして。
あぁ、この感情は最終回の寅子が桂場(松山ケンイチ)に向けて伝えた気持ちとして重なるなと思えた。

小さな気付きってすごく身近なあれ?ってことから始まる。
寅子が第1週で「はて?」と疑問に思っていたなんてことない小さなことがものすごくリアルだった。
その「はて?」は今の時代においてもなおフェミニストや法律家じゃない限りおかしいと断言したり間違っていると確信を持つことなどないまま通り過ぎてしまう。
法律を知らない、社会に出てもいないましてやそんな考えをもつ人が周りにいない時代に疑問を持った寅子にとってはこの社会がおかしいのか馴染めない自分がおかしいのか分からなくて当然だったはずだから「はて?」からの1歩がものすごく大きな1歩だったのだと思う。

物語上、みんながみんなお金持ちというわけではなかったが、基本的にこの作品に出てくる寅子はじめ寅子の家族や女子部の人たちや同僚たちは正直、誰が見ても家柄や金銭面に恵まれた人たちがほとんどである。
何か新しいことを始める時、それを続ける時、勇気が必要であるのは前提でありながらも(とくに寅子の時代は)地位や財力がものいうことを隠さないことがこの作品において社会の不平等さを鮮明にし法律と法律を使う者こそが平等を実現すべきなのだということも感じられた。

寅子は時代が変わっていく中の先頭を歩いた人。
時代が変わっていく中で、女性の社会進出が注目された中で社会に出た女性たち(作品中でいうと寅子の後輩たち)とはまた少し違うから寅子は誰とも本当の意味では分かり合えなかっただろうなとも思った。
どうしても注目を浴びたり賞賛を得たりするのはみんなが正解だとある程度理解したうえで変わりつつある時代の中、目立った人だろう。
まだ誰も知らない世界へと1歩踏み出していく寅子は今となればすごいけど、当時は理解できない人のほうが圧倒的に多くて変な人・変わり者というレッテルが貼られてしまっていただろうし、女性や母親としての当たり前をこなせない人という批判的な見方のほうが多かったのだろうと想像してしまう。
そういうことから守ろうとしたのが、母・はる(石田ゆり子)や穂高先生(小林薫)そして桂場だったのだ。
だから、寅子にとってはみんな保守的に思えたかもしれないけど3人とも寅子(ひいては女性たち)への愛情が深かった人たちなのだ。

法律の世界にいながらも否、いるからこそ寅子の生き方を認めなかった桂場が最後、時代の変化とともに寅子たちの生き方を認めたことこそが本当の意味で時代が変わり個人の自由意志の元に歩いていく人生を決めることのできる時代となったことを象徴していたように思えた。
法律が変わることは社会の変革においてとても大きなことである。憲法14条ができたことは日本にとってとてつもなく大きなことである。
けれど、それは文字が羅列されているだけに過ぎないから真に法律が変わり社会が変わるということは桂場が寅子の生き方を認めたような小さな小さな世界から始まるのだ。

そして嬉しかったのは、寅子の強い生き方を見て悩んだことのある「家庭に入って女性らしく」生きる道を選んだ花江(森田望智)が幸せそうなおばあちゃんになっていて、法律の道から勇退した朋一(井上祐貴)が別の道で満足そうに暮らしていて、優未(川床明日香)は社会的に偉大な母に縛られることなく優未の道を見つけていたことである。
法律と法律を仕事にする人たちを主軸にして仕事に邁進し正義の道を強く歩き社会を変える力のある人たちがたくさん出てくる物語ではあるけど、法律だけが正義なわけでも仕事を頑張ることだけが幸せになれる手段でもないからね。
寅子の生き方だけが良いわけじゃないことをちゃんと示してくれている。
「はて?」と疑問を持って進むことも、「なるほど」と受け入れて進むこともどちらも正しい。
どんな道を選んでも何を仕事にしてもしなくてもちゃんと幸せになれる。



いちばんはじめの法廷での法律を絡めた実務的な描写がわかりやすくかつ丁寧に細かく作られているのを見てこだわられているなあと感じた。
もちろん現実とは違うところも多々あるけれど、法律を主軸にした作品でこんなにも丁寧に裁判に馴染みのない人が見てもわかりやすくかつ派手な演出を入れずある程度現実に近い静かな法廷が描かれていることはなかなかないので気合いが入っていることがよくわかった。
だからこそ最終週に平和に寅子の晩年を描くのではなくて尊属殺重罰規定について日本国憲法施行以来はじめての憲法違反判決を最高裁で言い渡すまでの物語をもってきたことに合点がいったし最後まで軸がぶれない【虎に翼】という言葉通りの作品だなと思った。



内容は重いし勉強になる、涙もたくさん流したし暗い話が続くことも多かったけど、ユーモアたっぷりだったのは寅子の人柄が基本ポジティブだったこととその寅子を演じた伊藤沙莉が寅子にぴったりハマっていたからだろう。
優三(仲野太賀)の出征シーンは寅子の変顔でボロッボロ泣いたけど、変顔であんなに泣くのは後にも先にもきっとないと思う。

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