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《感想》市子

【市子】

▶映画


賛否がかなり分かれる作品らしいが
個人的には好みだった。


杉咲花をはじめとするキャスト陣の演技と丁寧に撮られていると推測できるひとつひとつのシーンにひたすらに惹かれる。
言わずもがな杉咲花が醸し出す雰囲気はとてつもないし若葉竜也や森永悠希の存在感もとてつもない。

それから賛否両論の要因となった物語の曖昧さ。それが視聴者側の解釈に委ねられている感じがするし考える余地があって私は舞台を見ているみたいで結構好き。だからこそ物語に分かりやすいはっきりとした設定や答えを求める人にとっては刺さらないということもなんとなくわかる。


市子(杉咲花)はひとつでなく様々な社会問題と言われる問題を抱えながら生きてきた女の子である。無戸籍で貧困で母親は男にだらしないし、母親の彼氏からの暴力も受けているだろうし、ヤングケアラーでありながら自らはネグレクトを受けている状態。
映画としては盛りだくさんすぎて何を主軸に伝えたいのかわからないという意見も多いみたいだけど、この盛りだくさんな問題が詰め込まれている市子の人生はリアルに存在する問題に近い気がする。
生きていく中で色んな悩みや壁はあるけれど、物理的にどうにもこうにもならない環境にいる人はいくつもの問題が積み重なって八方塞がりになっていることがしばしばある。積み重なっているというよりは連鎖してしまっているというほうが近いかもしれないが。
市子の人生において1番壁になってしまっているのは"戸籍がないこと"だけどそうなってしまった原因は母親・なつみ(中村ゆり)にある。ただ、なつみにもそうせざるを得ない理由があって、もしかしたらなつみもそうならざるを得ない幼少期があったかもしれない。そのせいで市子には戸籍がなくて戸籍がないことによって学校も仕事も、いわゆる社会に所属するということができなくて自立して親から逃げるという選択肢さえなくて貧困であることからも抜け出せない。これからも市子の負の連鎖は続いてゆく。
市子はその負の連鎖の中に生きているが、妹を殺したとき母から感謝され初めて存在を認められた。瞬間的な思いつきによる殺人だったかもしれないが、母からの愛を受けていない市子にとってはこのことがきっかけで殺人に対して悪いとわかっていてもどこかで良い思い出にすり替わっていたのかもしれない。その後、母の恋人・小泉(渡辺大知)を殺したとき初めて生きる希望を見つけ新たな自分で生きていく決意もした。
この時、本格的に市子にとっての殺人は人生を切り開く手段になったのかもしれない。
市子にとっての負の連鎖を断ち切る方法は殺人。悲しいけれど、そう思ったのかな。

市子が長谷川(若葉竜也)と過ごした時間は本当に幸せだと感じたと思う。欲しかった愛を注いでもらえて、そんなにお金はないけど"ふつう"の生活を送れるだけの衣食住が与えられていたから。
でも、長谷川が抱くどんな市子でも味方でいてあげたい、守りたいと思うような気持ちを市子は長谷川に対して持ち合わせていなかったはず。
欲しかった幸せを目に見える形で共有した相手なだけであって、市子にとっては長谷川も北(森永悠希)と同じく自分の人生をより良くするための道具でしかないのだと思う。
愛されていないから愛し方なんて知らなくて当然だろう。

市子はまた誰も自分を知らない土地を見つけて生きていく。
戸籍がないから簡単に逮捕もできないだろう。
でも戸籍もお金もないからまた行き詰まったら犯罪を犯すのだろう。
本当の意味で負の連鎖を断ち切るために早く逮捕されますように。

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