《感想》アンメット
【アンメット ある脳外科医の日記】
▶連続ドラマ
杉咲花主演なんて見る前から当たりでしかないけど、予想をはるかに超えた良さ。
映画を見ているかのような感覚になるドラマだった。
重めの映画っぽい映像とサーッと時間が流れゆく音の静けさが刺さる。
杉咲花と若葉竜也の淡々とした掛け合い、杉咲花の自然な感じと若葉竜也のボソボソっとした声がめちゃくちゃに良い。
井浦新や岡山天音のただならぬ者感、掴めない感満載の雰囲気も最高。
脇を固める全員が素晴らしすぎた。
一言で言い表すとあまりにも軽いけど、本当に素晴らしいという一言に尽きる。
唯一良い意味で裏切られ驚きだったのは千葉雄大のウリである可愛さを一切活かすことのできないこの作品で勿体なさもなく浮くこともなく新たな千葉雄大の顔を見れたこと。
他のメンバーは予想を超えた良さ、彼だけは予想していなかった良さを残した。(あくまで私の予想だから千葉雄大を見くびっていたわけではないです。)
食べる、話す、歩く、など日常にありふれている動作が本当に自然でそしてその描写が多くてそれがものすごく心地よい。
とくに食べる姿が印象的だった。
食べながら話す姿をなんて綺麗に映すドラマなんだろう。
ミヤビ(杉咲花)は医師として命(脳)に隣合わせの現場に居ながら、自らも日々の記憶が残らないという脳に疾患を抱えた患者である。
それはものすごく残酷なことなのに、その残酷さを感じ落ち込み考えたことさえ毎日忘れゆく。
人間は辛い記憶を忘れるという能力があるから生きていけるという考え方がある。
彼女はあまりにも記憶をなくすスパンが早いが昨日感じたミヤビ自信の絶望を忘れているから昨日がどんなに絶望した日でもミヤビは新たな今日を病院で過ごせる。それはそれで捉え方を変えて割り切ることさえすれば幸せにもなるのだけど、その忘れている仕組み全てを脳外科医であるミヤビは知っている、そう思うと脳外科医である現実が1番苦しく思えた。
だけど全てが分かり三瓶(若葉竜也)目線になった時、三瓶がどんなに苦しかったかと思うと改めて記憶が蓄積してしまうということのむごさを考えさせられた。
記憶があることは当たり前だけど覚えているって素敵でもあり凄くもあり、時に怖く惨いことでもある。
とてつもなく綺麗な物語だけど、とてつもなく人間らしく現実的な物語でその美しさと現実感という相反することを物語として、生身の人間が演じて映像にするということにキャストもスタッフも全神経を使って全身全霊で今持つ技術を惜しみなく使って作られた作品なのだなとひしひしと感じた。
あくまで日常を大切にして組み立てられたから、ミヤビの手術が物語の山のようにはならなかったしミヤビだけが主人公の物語にならなかったんだと思う。
ミヤビには描かれた期間だけでなくそれまでとそれからの人生があることを、そしてミヤビ以外の全ての人物にもそれぞれの人生があること(1番グッときたのはミヤビが執刀した手術で星前先生が左手を使っていることを成増先生が気付いてくれたところ)を当たり前に想像させてくれる。
生きていたらそれぞれの人間にその数だけ過去現在未来があるなんて当たり前だけどドラマでそれを表現して面白くするのは難しいから日常の当たり前を創作上の当たり前にするって本当にすごい努力なんだと思う。
人が気付くか気付かないか分からない細部まで愛を宿らせることがどれだけ大切かがよくわかる作品だった。一つ一つは地味で細かいことだけど、それが集結したときに大きな大きな愛や力になるんだと感じた。
終わり方が素敵すぎて、続編を見たいけどこのもうちょっと見たかったという物足りない気持ちのまま終わりたい気もする。
そんな心に大切にしまっておきたい作品。