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「区別」される世界で生きる僕ら
僕が保育園に通っていたころ「カッちゃん」という、クリックリッの瞳で青いスモッグを着たアンパンマンのような友達がいた。
「かくれんぼ」でカッちゃんがオニになると癇癪を起こしてパンチが飛んで来ることがあったが僕は大好きだった。
小学校に上がった時、カッちゃんの姿が見えなくて隣のクラスにも探し回ったが結局見つからない。ただ「わんわん」と泣いている僕の側で、40才くらいの女性の先生が困った顔をして慰めていた。
ある日、クラスの男子の母親がカッちゃんのことを話している。
「保育園であんたと一緒だったカッちゃんって子、知恵遅れで別の学校に行ったんだって…」
僕は、この時初めてカッちゃんが特別支援学校にいることを知った。なぜだかその時から頭の中にずっとモヤモヤがへばりついている。
何かの「区別」で線引きをしている基準がよく分からない。僕が小学校に行けたのは運が良かったのか、それともカッちゃんがまた暴力を振るってしまったのか…
……
「今日から新しい仲間が加わるから、しっかり面倒見てくれよ」
僕が教育担当をすることになった「サキちゃん」は近くの養護学校を卒業した知的障害者だった。
彼女は一言でいうと小学生のようだ。その日の出来事をなんでも話してくれるが、保護者のような人がついていないとすぐに手が止まる。それでもすぐに、彼女が僕よりもずっと記憶力が良いことに気づいた。エクセルの表はキッチリ作れるし、細かい数字も全部頭の中に入っている。
1年ほど経った頃、彼女は頭の病気が悪化し会社に来られなくなった。どうやら頭に抱えた時限爆弾のようなものが、少しづつ肥大化することで脳に悪さをして心の成長が止まったらしい。
なぜだか、僕の心にポッカリと穴が空いた。
それから暫くして僕は上司に「ある」お願いをした。その場で「ダメだ」と言われたが、何度も資料を作り直して半年後のある日。
「うちの会社に特例子会社を作ることになった」
上司が上の人をずっと説得してくれていた。社会的に良いことかわからないが、障害者の方ばかりが働ける会社を作り、そこには小さな教室も設けた。
隣同士で仲良く座る2人の後ろ姿がカッちゃんとサキちゃんに少しだけ似ているような気がした。
なんだか、ずっと僕の心に残っていたモヤモヤが少しだけ晴れて、そこから一筋の光が差し込んでいる。
「多様な個性を組織の競争力の源泉に」
上司がつけてくれた立派な理念を、僕はとても気に入っている。