出奔旅行記1(ギリシャ/スパルタ編)
今年の春、恩師が死んだ。恩師は私に酒の美味しさを教えてくれた、すごく大事な人だったが、(おそらく)酒の飲み過ぎで留学中に急逝してしまったのだった。
そして夏。恩師を介して親しくしている後輩が、一人で海外旅行に行くと言い出した。後輩まで海外で急逝したら嫌だと(何をとち狂ったか)思い、後輩の旅行に私もついていかせてもらうことになった。
9月下旬の旅行だが、行くと決めたのは一月前で、それからチケット等を取った(ほとんど後輩が取ってくれた。ありがとう)。
これは、旅行中にいろいろ調べるなかで、いかに先人達の旅行の情報がありがてぇかを学んだので、今後ギリシャやトルコに旅行する人たちの助けになればと思い記録する旅行記である。なお価格等の表記は旅行時の2023年9月のものである。
激ヤバトランジット耐久24時間超移動
困窮学生なので、行きは成田→シンガポール→アテネのチケットでギリシャへ向かった。シンガポールエアラインのお姉さんの素敵な制服が見たいという邪な心とともに出発。
成田からシンガポールまでは、6時間程度で着くので、呑気に過ごした。隣にすわっていたインドネシア人は、日本に出稼ぎに来ていたが、コロナが落ち着いたことで8年ぶりに国へ戻るために飛行機に乗っていた。家族と会えるのを楽しみにしていて、なぜかツーショットを求められたので、後輩が映らないようにどうにか隠しつつ、それに応じておいた。今頃インドネシアで、飛行機に乗る異国の美女の写真が出回っていたらそれが私である。
シンガポール→アテネ間はスクート(Scoot:シンガポール航空グループのローコストエアライン)だった。14時間ものフライトを、このスクートで移動するのはとてつもなく大変だった。格安飛行機は、水すら有料(350ml程度で300円)で、食事もプランによっては出ない。
私の移動方法では本来であれば食事が出されたはずだったが(参照:
https://www.singaporeair.com/ja_JP/jp/plan-travel/partner-airlines/scoot/)、乗っている当時はそのことを知らず、追加でお金を払っていないから食事が出ないのだと思い込み、何も食べずに14時間のフライトを耐え切ることになった。エネルギー温存のために、ただただ寝て、起きて、トイレに行き、寝てを繰り返した虚な記憶しか残っていない。
あまりに苦痛だったので、神に縋ろうとスマホに入れていた聖書アプリをひらいたら、隣に座っていたオーストラリア人男性から声をかけられた。彼のスマホをのぞいたら、彼も賛美歌を聞いていて、なるほど考えることは同じかと笑えた。
私もクリスチャンで、彼もクリスチャンだったので、お互いの国の宗教の事情についてで盛り上がり、最終的になぜか台湾はとても良い国だという結論に至った。台湾はとても良い国である。
アテネについた頃にはヘロヘロだったが、速やかに入国審査を抜けると(アテネの入国審査官、片耳にイヤホンをしてyoutubeを見ながらスタンプを押してくれて、ギリシャの風を感じた)、そこからはバスで移動。
後輩がめちゃくちゃギリシャ語が喋れたので(この時まで知らなかった)、おんぶに抱っこでチケットを買うのついていく。後輩曰く乗るバスを知っていたからスムーズに買えたとのこと。
空港から向かった先は、アテネのバスターミナル。日本でいうバスタ新宿みたいなところか。
ここからいろいろな長距離バスが出ているのでそれに乗る。目的地はスパルタ。
予約していたバスのチケットは、チケット売り場で交換してもらえないと乗れないやつだったので注意が必要だった。そんなに面倒くさくはないけれど、ギリシャはかなりバスが時間通りに来て時間通りに出発するので、時間の余裕を持ったほうがいい。
ギリシャではKTELというバス会社が大手の会社らしく(詳しくは知らない)、どこに行ってもKTELのバスに乗っていた。
古典ギリシア語を学んでいたので、なんとなく文字は読めるのだが、大文字をほとんど覚えていなかったので最初は苦労した。小文字は覚えているから読めるけれど、肝心な情報は大体大文字で書かれている。
行く国の「こんにちは」「ありがとう」とアルファベットくらいは覚えて旅行に行くことの大切さを感じた。ギリシャは「かりめーら!」と「えはりすとー」。ありがとうの発音はもっと複雑で(“Ευχαριστώ ”「エフハリスト」と日本語表記するらしい)、正直あまり聞き取れない。
そういえば、後輩はよく「パラカロー」と言っていたが、それは「お願いします」に当たるらしい。今知った。
バスターミナルでサンドイッチを買って、バスに乗る。お腹が空いていたので、何を食べても美味しい状態だったが、サンドイッチ自体もちゃんと美味しかった。何サンドイッチだったかは全く覚えていないけれど、チーズとハムは入っていたはず。というか、これサンドイッチっていうんだろうか、何とかロールみたいなやつかもしれない。
その後、スパルタに到着して、スパルタのバスターミナルから徒歩でホテルへ移動。スパルタは小さな街なので、ホテルがあるところまではバスターミナルから徒歩で移動ができるが、街の中心地までけっこう坂が長くてきついので、お金に余裕があり体力を温存するならタクシーが吉。
いくつかスーパーがあるので、そこで食糧を調達して移動終了。ギリシャのスーパーはいくつかあるけれど、安定安心はAB(アルファベータ)。たくさんお世話になりました。
世界遺産ミストラ攻め
中世城塞都市遺跡、ミストラ(ミストラスとも)に向かう。スパルタの街からはバスがほとんど出ていない。そもそもガイドブックなどにバスの時刻表の情報が乗っておらず、誰かのブログの情報も皆口々に違うことを言っていて特に参考にならない。
ミストラにバスで行くのであれば、予めチケット売り場(スパルタ考古学博物館の公園の真向かい、教会の目の前の公園の隣)で時間を確認しておくと良いと思う。タクシーで行っても5-10€くらいしかしなかったはずだから、タクシーもあり。っていうかタクシーめっちゃあり。ただギリシャ語喋れないと呼ぶのがちょいムズってくらい。街のレストランで食事をして呼んで貰ったりするのもありだと思う。
私たちは朝9:30のバスでミストラへ。ミストラ行きのバスは1.6€だった。チケット売り場の隣にツーリスト インフォメーションがあるので、そこで諸々の紙類をいただく。重くてちょっと困った。小さな街なのに丁寧なガイドブックがあって感心した。
ミストラのバスは遺跡入り口までは上がらないので、バスを降りてから10分ほど山を登って、遺跡にイン。バスの本数の少なさから、こういう田舎の世界遺産は車で観光をすることが前提なのかもしれないと感じる。
EU外のUnder25(定義は25歳3ヶ月らしいが曖昧)だとこういった類の施設はチケットが半額になる。該当しているので6€で入れた。
ミストラは、とにかく高いところに立てた要塞の朽ちた姿だった。一番上まで登るのはもちろん徒歩。なお遺跡の中にはトイレがないから、先に済ませておくこと。夏には水を持って行くのも重要。ヨーロッパでは珍しいけれど、日傘を差してもいいくらいギリシャの日差しは強かった。
頂上へ行くにつれて足場が悪くなるので注意。サンダルではなくスニーカーを推奨。
遺跡の中には説明が書いてあって、商人たちが商売をしていただとか、ここが門だったとかがわかった。宮殿があったけれど現在工事中で入れなかったのが残念。
ちなみに、アジア人はほとんどおらず、ヨーロッパのおじいさんおばあさん(子供が成人してそうなカップルたち)が多くいた。出会う人に山登りの要領(?)で挨拶をすると、「頂上まであとこれくらいだよ!」を教えてくれるけれど、降りてくる人は登って行くときの苦労をすっかり忘れているらしく、まったく「これくらい」では到着しなかった。
日陰が少ないので、執拗に日焼け止めを塗り直した。まだ若くてシミの心配がない後輩は、強迫的に日焼け止めを塗る私を不審な目で見ていた。
頂上から見た景色はすごく綺麗だった。登ってきた斜面の逆側の壁から見下ろすと、急な斜面になっていて、とてもそちらからは攻められない地形になっていた。さすが要塞。立地条件SSR。
ここまできたから何かお土産くらい欲しいと思い、ミュージアムショップでマグネットを購入し、街へと降りて(ミストラから20分くらい歩いたらある)、ギリシャ飯を食らう。
田舎の観光地なので、後に訪れた観光地に比べて食事代がアホほど安かった。
その後、ホテルのマグカップが汚かったので旅行中の自分用のマグカップを買いたいと思い、イコン作家の土産屋に入りマグカップを購入。
結局、すごく丁寧に梱包されたのでそのマグカップはお土産になった。
ホテルで紅茶飲むために使いたかったんだけどな……。
脳筋最強ポリス・スパルタの跡地
スパルタの市内には、スパルタ教育の語源にもなっている古代ポリス・スパルタの遺跡があったのでそちらも訪問。
広場のようになっていて、入場は自由。一応すこし説明があったが、手の込んだ展示という雰囲気ではなかった。ちょっぴりがっかり。
スパルタのポリスは、その後いろいろな用途で使われたらしく、当時のポリスの雰囲気はほとんど感じられなかった。これは、何かの跡地に教会が建てられた遺跡で、中央奥のドーム状にみえるのがおそらくアプス。多分。しらんけど。
教会になる前はギリシャ神話に出てくるスパルタの王、ラケダイモーンの神殿だったのでは、と考えられている。
スパルタの厳しい生活が営まれた場所を見られるとわくわくしていたのだが、あまり期待通りではなかった。とある文明があって、その次に起こる文明が前の文明の建物を壊したり利用してしまうことはよく起きる。が、それにしても悔しい。耶蘇め……。
けれど、空が住んでいたし、小高い場所にあるので見晴らしも良かった。
劇場もあったけれど、現在は工事中らしく立ち入り禁止だった。
スパルタ遺跡には、レオニダスの像があって、一緒に記念撮影をしてきた。かなりでかいし強そう。こういうところ、スパルタは観光客を喜ばせるのに余念がない。さすがだ。
レオニダスは、ペルシャ戦争の中のプラタイアの戦いでめちゃくちゃカッコよく戦った英雄で、現代の英雄像にも強い影響を与えている人物である。彼に関することは、以下の考古学博物館でも展示されていた。
激狭スパルタ考古学博物館
スパルタの考古学博物館は街の中心地にある小さな博物館である。見るからに小さかったが、実際に入ってみると予想以上に小さく展示部屋は6部屋しかなかった。たしか学割で2€。
スパルタのポリスの特徴を説明しつつも、やはりペロポネソス戦争でのレオニダスを中心とした展示になっていた。
口髭がないのがどうやらラコニア(スパルタ)人の特徴らしく、また顔まわりの武具の装飾から地位の高い人物だとわかり、レオニダスだと判明しているそうだ。
出土した場所は上述のアクロポリスで、写真のある教会よりももう少し登ったところにある聖域(神殿のようなもの)かららしい。
スパルタはとにかく強靭な戦士たちのイメージが強いが、モザイク画なども残っている。文武両道というわけか。
スパルタというポリスは、たくさんの奴隷によって支えられていた。ヘイロータイという奴隷身分の人々は反乱を起こすが、スパルタ人が強すぎてすぐに制圧され、支配が強くなってしまうのを繰り返したようだ。可哀想なヘイロータイたち。
ちなみに、こういった都市は城壁で守られていることが多い。なのにそういった遺跡がないのでなぜなのか調べてみたら、スパルタは最強の都市国家だったので壁が必要なかったらしい。最強と周りのポリスから認知されていたのも面白い。
そんなスパルタに関するわかりやすい映画がこちら。最初の10分しか見れていないけれどおすすめしておく。(少なくとも最初の10分は考古学博物館と同じようなことを示す内容だった)。
たった兵隊が300人でペロポネソス戦争の重要な戦いに挑んだことから、このタイトル。カッコ良すぎる。
街の端っこオリーブ&オリーブオイル博物館
スパルタ考古学博物館では物足りなかったので、オリーブについて学ぶためにオリーブ&ギリシャオリーブオイル博物館(The Museum of the Olive and Greek Olive Oil)を来訪。正式名称ちょっとだるい感じある。(以下オリーブ博物館)
というより、スパルタにはもう他に行く場所がなかった。二泊三日でゆったりするならちょうど良いが、フルで使えば一泊二日でもスパルタ観光は十分かもしれない。
オリーブ博物館は、とにかくオリーブの話が丁寧に紹介されていた。
オイルの保存方法、使用法から、作り方など、読むのが大変だったが面白かった。屋外にも展示があり、触れるので面白い。かなり新しい建物だった。
なお今更だけれど、こんな辺鄙な場所で日本語の翻訳はない。旅を通して日本語を読んで理解した展示はなかったので、展示系を見に行くのであればそれなりに覚悟が必要。
オリーブ博物館を出ると、その向かいにはよさげなお土産屋さんがある。
オリーブオイルが種類豊富に置いてあって、店員さんもすごく詳しかった。通販もあると言っていたので、荷物になる場合は通販するのも良いかもしれない。
ギリシャのオリーブオイルはすごく美味しいので、サラダにかけるだけで美味しさが倍増する。ちなみに手荷物に持ち込むと没収されるから気をつけたい。
スパルタ街ご飯
スパルタの街の大通りは、飲食店が並んでいて、どのお店からもすごくいい匂いがしていた。これは美味しいそうな看板だったから入ったら、本当に美味しかったお店。
おばあちゃんが目の前でサンドイッチを作ってくれて、アットホームな感じだった。ギリシャは朝ごはんも外で食べる文化がそれなりにあるので、こういうお店で朝ごはん食べると爽やかな一日が始まるのかもしれない。
これは、ふらりと入ったお菓子屋さん(おそらくパン屋さん)。ジェラートも売っていて、いただく。暑かったのですぐに溶け出した。
美味しかったのは覚えているが、これ何味だったんだろう?
田舎町スパルタ最高
こんな感じでスパルタを楽しんだ。街は小さく、時間がゆっくりと流れる感じがして、かなり楽しく滞在できた。
街の中心にはギリシャ正教の教会があり、壮大。時報が1分ずつ毎回ずれていたのがルーズでよかった。スパルタの街自体がそれほど古くはない(新しい街だというのは地図を見た時に区画整備がうまくなされていることからもわかる)ので、教会も新しい方なのかもしれない。
ちょうど観光した頃に、考古学博物館の庭園では地元イベントなどもやっていた。ギリシャ語は本当に何もわからないので、異世界転生みたいな気分だった。これほど何もわからなくても、不安にならないのは、街の温かさみたいなもののおかげかもしれない。
スパルタ、アテネからもすごく遠くて、ミストラに行かない限り観光地としては少し弱いけれど、素敵な滞在ができた。スパルタ万歳!
出奔旅行記2(ギリシャ/ナフプリオ編)へ続く。