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地域課題解決ラボ in 長野県喬木村② そこでしか得られない気づきを 【後編】

こんにちは!ミライ研の本間です。
前編中編につづき、後編では「地域内外の交流がもたらす新たな気づき」に関して、お話しします。


地域内外の交流が新たな気づきをもたらす

今回のフィールドワークでは、村の方々から一方的に喬木村の概要や課題について話を聞くだけでなく、双方向のコミュニケーションが実現しました。交流を通じて地域にどのような効果がもたらされるのか、具体的なエピソードを3つご紹介します。

①最中種(もなかの皮)製造業者 株式会社ふくやまの福山社長

「ローカル企業は人材確保が目下の課題だが、若者が地域で働きたいと思えるポイントや壁は何だと思う?」

これは、喬木村に本社を構える最中種製造の株式会社ふくやまの福山社長が生徒たちに投げかけた質問です。

(株)ふくやまが製造した最中をつかったアイス@ITANEカフェ

生徒たちからは次のような意見が挙がりました。

  • 地域コミュニティの入りにくさや、チェーン店やコンビニ、交通アクセスなどの利便性の欠如。

  • 移住にかかる準備やハードルの高さ。

  • 地方企業と都内のサラリーマンでは、後者のほうが「かっこいい」という印象がある。ドラマや漫画などのメディアによるイメージを改革する必要があるのでは。

お話いただく福山さん

生徒たちの意見を深く頷きながら丁寧に聞いてくださった福山さんは、「リニア新幹線開通により『子育て』が喬木村の活性化のキーになる。子育てがしやすいのどかな場所を望む若い世代をいかに地域へ呼び込めるか。企業の成長は人の力(知力)であるため、感性が活かせる企業づくりをしていきたい。」と語っていました。都会の生徒たちの視点からの意見が、今後の若い世代の人材採用に何らかのヒントとなっていれば嬉しいです。

地域型探究学習を通じて、外からの視点で地域の新しい価値や課題を発見・アセスメントすることは、受け入れる地域にとっても新たな発見が得られ、地域活性化の一助になると感じました。

②大島地区住民との交流

大島地区は、人口減少と高齢化が課題で、31世帯のうち高齢化率はなんと85%です。空き家や遊休農地、後継者不足などの問題も抱えています。
そんな大島地区ですが、「自然との共生」「助け合いの精神」「伝統文化の継承」といった価値観を大切にされており、大島地区の未来を創るために、今回生徒との交流を受け入れてくださいました。

【大島区長はじめ集落の方々と意見交換】

集落最高齢の方も参加されました

【大島地区で二拠点居住をされている北川さんのクラインガルデン見学】

北川さんの畑を見学する生徒たち

【BBQでの交流会】
少し前までは時折学生の受け入れも行っていたという大島地区。
今回、久しぶりの若者の訪問にあたって、地区内の住民が何度も話し合いの場を設定し、女性ボランティアによる田舎料理の提供など、多くの準備を重ねて迎え入れてくださいました。

自家製こんにゃくをつくる集落の方
内山副区長と記念撮影


少子高齢化が進む中、様々な課題はありますが、どこか懐かしさや温かさを感じられた大島地区訪問でした。
地区の皆さんからは「少子高齢化が進む大島地区において、高校生と交流し、地場の食材を食べてもらえたことは嬉しく、刺激にもなった。今後も若い世代と交流する機会をつくりたい」「外から大島地区を考えるいい機会になり、ヒントが見つかった。自分の活動に生かしたい」といった声が上がりました。フィールドワーク直後には、「次回は川魚をつかむ体験をしたらどうか」と役場に提案もあったようで、今回の受け入れは地区住民と役場の間のコミュニケーションの活性化にも寄与したのではないかと思います。


③古民家活用カフェしろくま座の塩澤さん

「将来的に移住したいと思うか?」

星が好きで東京から長野県飯田市に引っ越し、その後、喬木村の築94年の元廃診療所をカフェに改修することを決意し移住された塩澤さん。

移住について意見交換

移住について意見交換した際、2名の生徒が「移住したい」と手を挙げ、次のように話してくれました。

この自然に囲まれ、優しい村の人がいる環境で移住したいと思ったが、いきなり移住するにはハードルがある。村の存続のために、二拠点居住と移住の壁の解消や、どう喬木村の特徴を活かすことで定住を促進できるか考えていきたい。」

これに対して、塩澤さんは「地方に行くと壁があるのではという印象を持たれがちだが、意外と住んでみると程よい距離感で過ごせる。カフェをオープンする際も近隣住民から応援や感謝の言葉をたくさんいただいた。嬉しいことに、今ではここって地域内外の人を繋ぐHUBみたいな場所だよねとか、しろくま座さんのおかげで移住者の方と仲良くなれたと言ってくれる人もいる。人とのコミュニケーションには地域も世代も関係ない」と語ってくださいました。

塩澤さんのコメントは、移住実践者ならではの視点だと思います。
まさに塩澤さん自身が、外からの視点で地域に新しい風を吹き込み、活性化を進める架け橋となっているのではないでしょうか。また、地域の活性化を担う人に居住年数は関係ないとも感じました。


今回、フィールドワークにご参加いただいた地域参加者の皆様には、その後のアンケート調査にもご協力いただきました。その結果、今回の探究学習の取り組みが、地域に対してポジティブな影響を与えていることが分かりました。特に地域住民の地域理解が深まり、自身の抱える課題への対応や今後の活動へのヒントになったことが明らかになりました。

地域参加者向けアンケートより抜粋①
地域参加者向けアンケートより抜粋②

これらを踏まえると、地域型探究学習の取組みは、受入側地域にとっても自分たちの居住地域の魅力や課題の掘り起こしに繋がるとともに、住民間のコミュニケーションや交流活性化を図れる施策になりえるのではと思います。今後、全国的に探究学習を受け入れていく地域が増えれば、地域の課題解決・活性化に有効であると言えるのではないでしょうか。

地域型探究学習がもたらす学びや生徒の変化は?

学習効果を測定するために、本カリキュラム開始以降、定期的に生徒に対してのアンケート調査も実施しています。今回のフィールドワークの前後に実施したアンケートの回答結果から、既に地域型探究学習がもたらす教育的な学びの効果や、本施策の社会的価値ともいえる効果が伺えます。

ドルトン東京学園生徒向けアンケートより抜粋


フィールドワークを通じて生徒たちも変化し、社会的価値にも繋がる新しい行動を起こしています。例えば、夏休みを利用しての農業インターンへの参加や、インスタグラムでの喬木村に関する情報発信など、学びを通じて地域との新しい繋がりが生まれています。

まとめ~今後の調査・研究に向けて~

今回の地域型探究学習のフィールドワークを通じて、以下のことが分かりました。

• 地域型探究学習が生徒の学びに資するだけでなく、当該地域のシビックプライド醸成や将来的な関係人口創出に繋がり得ること。
• 精力的に活動している「人」(移住実践者や二拠点居住者、新規就農者など)が探究学習の優良なコンテンツになり得ること。
• 活動に関心を持つ域外の学生との交流が、今後の活動のヒントを生み出し、地域の活性化に繋がる可能性があること。

一方で、地域型探究学習の効果を最大化するための課題も見えてきました。学習者のより深い関係人口化を目指すためには、参加者のニーズをより意識したプログラム設計が必要となりますが、学校と地域を繋ぐコーディネーター組織の存在(今回私共が担ったところ)が重要となります。また、地元の学校との継続的な接点の創出や、旅館・ゲストハウスといった地域内インフラの整備も重要な要素と言えるでしょう。

ドルトン東京学園の生徒の探究学習も佳境となってまいりましたが、授業は9月末まで続きます。
今回のフィールドワークで、生徒達は、人口約6,000人の村の1/300にあたる約20名の方々と交流をしました。普段都市部で生活していたら、どのような人達がどのような想いで生活しているのか見えてなかった部分を、実際に目で見て、肌で感じて、生の声を聞くことで大きな刺激になったのではと思います。

現在生徒たちは、最終発表会にむけて、「新規就農者のコミュニティづくり」「地元の心地よさと活性化の両立」「健康寿命とコミュニティの在り方」「関係人口を創出するには」「阿島傘を後世に長く継承するには」「地域の魅力を高めて若者人口の増加を目指すには」など、より具体的なテーマをもって取り組んでいます。

「あなたは喬木村に住みたいと思うか?」

事前授業で喬木村役場職員から問いかけられたこの言葉に、生徒たちが何を感じ、どのような答えを見出すのか。

引き続き、地域型探究学習を通じた若手世代の関係人口化・地域活性化に繋がるモデルとしての有効性や課題を見極め、発信していけたらと思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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