地域課題解決ラボ in 長野県喬木村② そこでしか得られない気づきを 【前編】
こんにちは!ミライ研、研究員の本間です。
この度、私が携わっているドルトン東京学園の「地域課題解決ラボ」という探究学習の授業で、長野県喬木村へフィールドワークに行ってまいりました。私はミライ研の研究員としてだけでなく、コーディネーターとしても三日間同行し、喬木村の方々と生徒たちの交流を見守りながら、さまざまな角度から喬木村の魅力や課題、住民の方々の想いに触れることができました。
この取り組みが村と生徒にとってどのような価値をもたらすのか。「関係人口の創出や地域活性化のカギ」に繋がる以下の気づきがありました。
今回は、この気づきについて、フィールドワークの模様も交えながらお話ししたいと思います。(かなりの長編になったので、前編・中編・後編に分けてお届けします)
私自身も昨年度、社外研修で大阪府のとある自治体をフィールドとした越境学習プログラムに参加しておりました。その際、「実際に目で見て、肌で感じて、生の声を聞くこと」がいかに当事者意識の醸成に繋がるかを体感しました。
私が高校生だった頃は、まだ探究的な学習は行われておらず、馴染みのない地域に出向く機会は修学旅行くらいしかありませんでした。修学旅行でも、訪問先の地域の概要や歴史などは学ぶことができましたが、多くの訪問先は教科書に記載のある、いわば著名な観光地です。今回の取り組みでは、長野県喬木村という、私自身も存在を知らなかった長野県南部の人口約6,000人の村をフィールドとしています。
今回、生徒一人ひとりが「探究学習」をきっかけに、これまでの人生で何のルーツも接点もなかった地域に関わり、社会課題に対する興味・関心を深めながら、地域と向き合う姿に、純粋に驚きと感動を覚える場面が多くありました。
探究学習のテーマとして、若い世代が特定の地域を学び、その地域との交流を図ることが、単なる教育的な学びの効果だけでなく、地域愛を醸成するための有効な手段となり得るのではないか、また、地域にとっても新たな発見が得られ、シビックプライドの醸成や活性化の一助になるのではないかと考えています。ぜひ皆さまも、ご自身の住んでいる地域やこれまで訪れた地域、関わった方々を想像しながら読んでいただけると幸いです。
フィールドワークにあたって
本題に入る前に、フィールドワークの概要についてお伝えします。
事前授業の気づきから生まれたテーマ
生徒達は、5月31日(金)の事前授業にて喬木村の職員から村の概要や課題について学びました。その際の対話から得られた気づきを踏まえ、以下のテーマが設定されました。
フィールドワークの行程
今回のフィールドワークは6月14日〜16日の3日間で、以下のように盛りだくさんの内容になっています。行程の策定にあたっては、喬木村役場の方々に多大なご協力をいただきました。事前に生徒の関心事項として「地域の産業振興」「社会インフラ」「観光促進」「地域コミュニティ」といったキーワードをお伝えしていましたが、幅広いテーマ設定にもかかわらず、実質2日間のフィールドワークの中で、生徒たちの学びの効果が最大限に深まるよう、訪問先の調整やインタビュイーの選定等にご尽力いただきました。
フィールドワークの模様はこちらの動画をご覧ください。
(ドルトン東京学園の先生が編集されたダイジェスト動画)
フィールドワークを通じて得られた気づき
人こそ地域の財産
今回、コーディネーターとして都会の学生と地方の交流の仕掛けづくりを行う中で、喬木村役場の職員の皆さま、ドルトン東京学園の先生方と何度も打ち合わせを行いました。現時点でフィールドワークの実施まで完了していますが、「人」というコンテンツが、生徒と地域双方にとって重要な要素であり、効果をもたらしたのではないかと感じています。
特に、喬木村役場の皆さまには、地域の資源や課題を整理する中で、モノ・コトだけでなく、地域で熱い想いを持って活動されている「ヒト(人材)」の掘り起こしをしていただきました。 (フィールドワーク当日に対応いただいた方は10数名ですが、その選定に当たっては、40名ものユニークなバックグラウンドを持つ方々をリストアップしてお声掛けいただいたそうです。)
今回の引率を通じて、生徒たちと地域住民とのコミュニケーションを間近で観察しましたが、最近、東京に戻ってきた生徒たちに芽生えた意識や行動の変容を目の当たりにし、以下の仮説が私の中に生まれました。
より具体的な内容をご紹介します。
地域活性化は「人」の想いから始まる
今回、私自身がコーディネーターとして心掛けたことは、今回の探究学習プログラムを生徒のこれからの人生にとって有意義なものにすることはもちろんですが、生徒を受け入れてくださった喬木村の地域活性化にも寄与するものにしたいということでした。活動を通じて感じたのは、地域活性化の取り組みは最初は一人の個人の想いから始まるということ。そして、その想いを汲み取り、繋げて、束ねて、イノベーションを起こしていくことが大切だということです。
そう強く感じたのは、喬木村でサテライトオフィス建設という新たな試みに挑戦しているりんごや市瀬さんと生徒たちの意見交換の時でした。
「行政任せの体質に一石を投じたい。」
今年70歳を迎える市瀬さんに対し、生徒たちが「なぜサテライトオフィス開設という新しい事業を始めようと思われたのですか?」と、その背景にある想いに迫った際に出てきた言葉です。
「サテライトオフィス?なんでそんなリスクのあることをするの?」と周囲から言われることがあると話す市瀬さん。リニア開通を見据えて収益が見込める事業を始め儲けたいわけではなく、地域の課題解決・活性化に貢献したいという想いから一念発起したとのこと。
校長先生や公民館長として村での仕事に関わってきたが、地域課題解決に対して、地域住民の「行政任せ」の考え方や姿勢が強いと感じていた。もっと個人や民間が積極的・具体的に動く必要があるのではないか。この取り組みを通じて、「行政任せの体質」に一石を投じたい。
サテライトオフィスを核にさまざまな個人・企業が連携・協働すれば、地域の活性化が図れるのではないか。都会の方の移住や二拠点居住の促進につながる取り組みにしていきたい。
市瀬さんの想いに触発されたのか、生徒たちからは「他の地域とは違う、喬木村ならではの差別化が図れれば、もっとこの場所を使いたいと思うようになるのではないか」「都会のサテライトオフィスに求めるものは、利便性とか効率だと思うけど、喬木村なら田舎の良さ、自然とか穏やかな雰囲気を全面に出した方が良いのでは」といった具体的な意見があがりました。市瀬さんとの意見交換も予定時間を超えて盛り上がり、当日の夜まで「自分なら改装中の和室は和室のまま残すなー」など生徒同士が熱く議論を交わしていたのが印象的でした。
まさに、市瀬さんの想いは、生徒たちの探究心にも火をつけたわけですが、市瀬さんの想いから、この先の喬木村の未来を担う施設が生まれようとしています。旗を揚げた市瀬さんの想いに共感し、参画する地域住民や事業者が増えていくことで、今後さらに大きな取り組みとなっていくのではないかと感じました。
(【中編】に続く)