農業振興地域なのに… 苦情でやる気減退の農家も
稲刈りが終盤を迎えた。10月の秋祭りを前に、自治会の組ごとに分かれ、土手の草を刈り、お堂や石碑周辺、公民館などの公共の場所を清掃する。地域総出で。と言いたいところだが、地域の総人口は増えているのに、参加者が年々、減っているのが気にかかる。
自治会 未加入住民増える
高齢者のみの世帯で作業に出られない。それは、仕方ない。若い人が同居しているのに参加しない。自治会費や定期的な清掃参加を嫌がり、自治会に入らない。そんな世帯が増えてきた。
総務省「自治会等に関する市区町村の取組についてのアンケート調査」によると、自治会等の加入率(平均)の推移は、平成 22 年に 78.0%だったが、令和2年では 71.7%。10年で6.3 ポイント低下したという。全国的に同じ傾向のようだ。
井戸端会議 地域を知る「情報源」
2時間弱の清掃がひと段落すると、井戸端会議が始まる。これが、結構、地域を知る「情報源」となる。そこで耳にしたことに、「農業が衰退している原因は、高齢化や後継者不足だけじゃないのかも」と思ってしまった。
「トラクターで畑を耕していたら、『土煙で車が汚れた』と苦情を言われた」
「もみ殻燻炭を作っていたら、『洗濯物が臭くなった。洗ってもにおいが取れないから、クリーニング代を出せ』と言われた」
「『畑の草が伸びているから家に虫が入ってくる』と苦情を言われた後、『仲良くしたかったら、できた野菜を持ってこい』と言われた」
一人が口火を切ったら、出てくる、出てくる、農家の日ごろの不満。共通しているのは、従来からの農家と、新たに移り住んできた住民という構図。
農地転用、原則禁止の「農振地域」
この辺りは農業振興地域。「長期にわたり農業振興を図る地域」と定義されている。原則、農地転用はできない。住宅を建てられるのは、既存宅地のみ。農地に建てる場合、農家やその後継者の世帯に限定して許可されることもあるが、農振地域の住宅建設は、かなり規制が厳しい。それでも、新築は増えている。なぜ、転用許可が下りたのか、と疑問に思う事例もある。
もちろん、自治会に加入し、地域行事や清掃活動に積極的に参加し、地域に溶け込んでいる新規住民も多い。一方で、自治会役員が入会を勧誘しても「加入してもメリットがない」「お金を払いたくない」「地域行事には参加しない」「役員をしたくない」などを理由に断られることが増えてきたという。
苦情に「やる気が萎える」
未加入の世帯とは、交流やコミュニケーションが希薄になる。そんな状況下で、苦情を言われたことがある農家女性は、「やる気が萎える」とこぼす。ただでさえ、収益性が低く、きつい。そこに「トラブル要因のある土地」となると、耕作したくない、借り手も嫌がる、と敬遠されるようになってしまう。
耕耘、もみ殻燻炭作り、堆肥や農薬散布などは、農業には欠かせない作業。多少の臭いやほこりは「お互い様」。水路や公園の清掃に参加するのは住民としての義務。草むらには虫もいるし、蛇などの小動物がいるのは当たり前。この地域に生まれ育った身としては、それが「常識」なのだが。
一般論として思う。考え方や価値観が異なる人が地域内に混在し、コミュニケーションが断絶すれば、トラブルが起きるのではないかと。
食料生産の場に理解を
米、麦、野菜、果物など、日本の食料生産のほとんどは、「農業振興地域」が支えている。せめて、この農振地域は、将来にわたり農家が安心して農業生産できる場所であり続けなければ、農業は成り立たなくなり、食糧不足に陥ってしまうと、井戸端会議を聞きながら、危機感さえ覚えた。
(あぐりげんき)
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