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「もったいない」は被害拡大のもと そら豆栽培、潔さが肝心
それは、突然やってくる。順調に育っていたそら豆の葉が、萎び始める。2、3日もしないうちに、ひと株全体がしな垂れた状態に。他にも、葉が黄色くなりはじめ、次第に弱ってくることも。実もついている。収穫間近なのに…。
「昨日までは、こんな株なかった…」
4月下旬、整枝、剪定、仕立てを終え、鞘が膨らみ、初収穫を待つばかり。青々とした元気なそら豆の列。その中に、ポツンと葉がしなだれた株が。この時期、毎日のように畑に出かけ、鞘の太りを観察している。「確か、昨日まではこんな株はなかったのに」。
タキイ種苗さんのホームページで調べる。「立枯病」だ。
症状(診断)
地上部が急速に萎凋し、葉や茎が黒変してやがて枯死する。罹病株を引き抜くと根が腐敗し、維管束に褐変が見られる。
発生の仕組み
病原:糸状菌(かび)
(1)フザリウム アベナシウム
(2)フザリウム オキシスポラム f. sp. ファベ
土壌伝染する。罹病植物上に菌糸、分生子のほか、厚膜胞子を形成し、これが土壌中に残って伝染源となる。病原菌は根から感染して維管束を侵す。春先の気温の上昇とともに発生し、被害が拡大する。
育成初期であれば、タチガレン液剤やベンレート水和剤などの農薬で対処できるという。しかし、収穫直前。農薬散布するわけにはいかない。ここで「もったいない」と思ってしまうと、取り返しがつかないことになってしまう。病原となるカビが隣接する他の健康な株に移り、感染が拡大してしまう。
泣いて馬謖を斬る
「泣いて馬謖を斬る」思いで、株ごと抜き取り、圃場外へ。抜いた跡には消石灰をまいた。消石灰は、殺菌力があり、消毒効果も期待できるため、鶏舎や牛舎の入り口などに消毒剤としてもまかれている。農薬ではないため、収穫に影響はない。
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葉が黄色に 生理障害で発育不全
立枯病と同様にカビが原因の赤色班点病、アブラムシの発生に起因するウイルス性のモザイク病など、そら豆の病気は数多い。生理障害を起こし、葉が黄色くなり、成長が止まってしまうこともある。水はけが悪い、風通しがよくない、肥料成分の過不足、乾燥しすぎ、などが要因に挙げられる。今年のような春先の多雨は要注意だ。鞘はいくつもついているが、経験上、こういう株の実は大きくならない。根こそぎ株を取り除く潔さが肝心となる。
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完璧は目指さない 考え方「率」に切り替え
病気や害虫、生理障害で、そのたびに凹んでいては、農業はやっていけない。自然相手。100%、売れる野菜ができる訳がない。商品率をいかに高められるか「率」で考えようと頭を切り替えた。今年のそら豆、被害株は今のところ、5%程度にとどまっている。昨年が10%くらいだったから、順調の範疇だろう。
4月末、無事、初収穫を迎えた。産直アウルやメルカリ、そして、地元の産直市で販売中。商品率も昨年よりも高い。今はただ、収穫が終わるまで被害が拡大しないことを願うばかり。
「足跡が肥料になる」
「足跡が肥料になる」。農業にまつわるそんな言葉がある。畑をこまめに見て回る。昨日とは違う変化に気づく。そして、対処する。被害株をあきらめて、バッサリと抜き去る潔さが必要になる。
(あぐりげんき通信)
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