ほぼ自炊未経験の独身男が作るタイ料理を喰らう!【グルメハンター嵐002回】
皆さま、こんにちは。稀代の美食家として生を受けたと思い込んでいる男・嵐と申します。
見てください、この満面の笑み(下半分マスクver.)を。やる気に満ち溢れております。グルメを楽しむぞっ!グルメをハントするぞっ!っていう気概が感じられる顔じゃあないですか。
そんなワケで、この「グルメハンター嵐」シリーズ連載・第2回。世の中の様々な料理を喰らっていこうぜ!と崇高な理念を掲げ、思う存分に突っ走ってやろうと思っておるところ……なのですが。
……なのですが。
……なのですが、何て言うんですかね、非常に申し上げにくいんですが、あのですね、いきなり暗礁に乗り上げちゃっております。
というのもですね、前回(連載第1回目)で披露した料理「ティッシュしゃぶしゃぶ」の記事(下のリンク)。まずこれが暗礁①でしたね。
何が暗礁かって、食べ物じゃないんですよ。いきなり。読んで頂いた方々からも「食べ物じゃないよ?」とか「食べ物じゃないんですが?」とか「食べ物じゃねーじゃん?」など、様々なご意見を頂きまして、ああそうか、と。ああ、そうだった、と。ティッシュはしゃぶしゃぶしても食べ物ではないよな、と。ようやく僕も我に返り猛省していた次第です。
そんななか、「次回、こんなのどうですか」と優しい読者の方から提案を頂戴したのです。
「福島県のジャンボシュークリーム」
おおっ!いいですね!そそられる!是非ともハントしたい!! こうしちゃいられねぇ、福島県に出発じゃあ~とほら貝を鳴らすぐらいの勢いだったのですが……緊急事態宣言の延長が出てしまったんですね……残念ながら。これが暗礁②です。
どうしよっかな…と悩んでいると、敏腕(自称)の担当編集から連絡が入りました。
「今回のテーマは俺が考えておいたから、明日の昼過ぎぐらいにS駅に来て」
あまりにも一方的。あまりにも不穏。
しかし、このまま頭を悩ませていてもコラムの締め切りは容赦なくやってくるので、猜疑心を押し込めて、約束(した覚えはありませんが)通り、翌日の昼過ぎ、S駅へ。
そこには、見慣れた顔の人がいました。このアジトでも、変態的なコラムを執筆しているライターの【松真ユウ】氏です。
どんよりとした面持ちで幽鬼のように立っておられる。バリバリ嫌な予感がします。
一体何が起こるんだと震えていると、日時と場所を指定したくせに担当編集が遅れて現れました。そして、彼は開口一番こう言いました。
「日々の食事をほぼデリバリーかコンビニ飯で済ます独身男性こと松真さんが作るカオマンガイを食べてください」
何言ってるんだろう。
ハイ来ました、暗礁③です。
ここにいる、世捨て人のような雰囲気を常に醸し出している松真氏(または枯れなめこ氏)がカオマンガイを作るから食べろ――と。Kao-Man-Guy。
マンだのガイだの、アルファベットにするとやたらと男くさい感じのする響きですが……私の記憶が確かならば、カオマンガイとはライスの上に蒸されたチキンが乗せられたタイ料理です。実は僕自身も1度しか食べたことはありませんが、柔らかく蒸された鶏肉を、ナンプラーをベースにしたタレに付けて食うと、エスニックな風味がモンスーンのように口から鼻腔を吹き抜けて、思わず膝を打ちたくなるような美味しさだったと記憶しています。鶏の出汁を吸い込んでふっくらと炊き上がったタイ米が、またたまらない。
一気に腹が空いてきた。
そして無性にカオマンガイが食べたくなってきた。
しかし、それを作るのはバリバリの料理初心者。
2人してこんな顔になるのも無理からぬもの。
担当編集の酔狂で2人の男とカオマンガイの何かが貶められようとしている。だがしかし。
だがしかし、「料理初心者が実は天才だった」なんて展開もゼロではない。
そう思いなおした僕は一応、確認のために松真氏に質問しました。
「カオマンガイ…作れそう?」
「カオマンガイって…何ですか?」
………。
僕たちは無言で食材を買いにスーパーへと向かった。カオマンガイを知らなくても美味しい料理を作れる可能性はゼロではない。そう自分自身に言い聞かせながら。
スーパーはいわゆる業務用の店舗で、通常のお店と比較すると多国籍な料理にも対応できそうな品揃え。このお店ならタイ料理に必要な食材も難なく仕入れられそうだ。松真氏がカオマンガイをタイ料理だと認識していれば。
「………全く見当が付かないんですけど」
万国博覧会のように並べられた各国の食材・調味料を前に困惑しきりの松真氏。いつもよりも枯れなめこ感が増しているように見える。彼はカオマンガイという言葉すら聞いたことがないのだろうか。氏に疑問をぶつけてみると、「ないですね」という返答。
いや、結構有名な料理だよ? 名前ぐらいはあるでしょ? 松真氏はスーパー内をすでに4周ほどしている。まだ何も買い物かごに入れていない。ヤバい。寄る辺なき枯れなめこ。迷える枯れなめこ。
さすがに、取っ掛かりとなるヒントぐらいは与えたいと担当編集に直談判すると、「ちょっとだけならイイよ」とあっさり承認されました。多分、時間を浪費することに耐えられなくなってきているのでしょう。だって、お店の外でスマホ見ながら欠伸してたもの。
とにかく、僕は松真氏にヒントを伝えようと店内を足早に回遊し、彼の姿を探しました。
えっ、なんか持ってる!!!!
トムヤムガイ!!?
トム・ヤム・ガイ!!!!!
なんか惜しい!! 彼が何故この商品に辿り着けたのかは謎ですが、きっと何か霊感のようなものが働いたのでしょう。国籍は合ってる!さらに「ガイ」という言葉も合ってる!「ガイ」が何なのかは僕も知りませんが、カオマンガイとトムヤムガイのガイはきっと同じ意味を持つ言葉に違いありません。少なくともナイスガイのガイとは違う意味だろうと推察できます。
今の枯れ…彼になら、ちょっとしたヒントを与えるだけでも正解に限りなく近づけるかもしれない。
そう考えた僕は、松真氏に「カオマンガイについての情報を少しだけ……」と耳打ちしました。
与えた情報は、
・鶏肉を何かに乗せた料理である
これだけ。
だがしかし、松真氏だって何かっつーとご飯のうえにおかずを乗せて〇〇丼にするのが大好きな日本人なワケですから、いくら料理経験が浅かろうと「鶏肉を何かに乗せる」と聞いて、その「何か」をまさかパンにはすまい。
問題は味付けだが、さきほど彼が手にしていたトムヤムガイの包装にはタイ料理であることは書いてあったワケで、ガイの共通性からカオマンガイもタイ料理であることに気づき、そこから「ナンプラー」などタイっぽい調味料に辿り着くぐらいのことはできると信じたい。
もはやコレはただのグルメレポではなく、他者の能力を信じそれに身を委ねられるかどうかを試されている人間ドキュメントであります。僕は彼を信じた。彼は僕の期待に応えようとしている――。
何かに目覚めたように、目をランランと輝かせ猛烈に店内を歩き回る松真氏。確信に満ちた手つきで次々と商品をピックアップしていきます。
残念ながらナンプラーはスルー。
タイ米も華麗にスルー。
…………。
……。
松真氏が何で堂々とレジに向かってるのか理解できませんが、どうやら食材の買い出しは終わった模様。グルメハンターの責務として、食材の料金は僕の支払いです。領収書を財布にしまう時、担当編集が大きく頷いたこと、忘れません。
さて、いよいよ調理開始です。松真氏の住むマンションにお邪魔しました。
調理器具が新品状態なんですけど、ほぼ自炊しないって本当だったんだね。
使った形跡が見当たらないとても綺麗な台所。へ~綺麗にしてるじゃん、って初めて遊びに来た彼女とかが言いそうなセリフを言おうとしたら、「あっ、塩がない」と松真氏が小声で叫んだので黙って微笑むことしかできませんでした。
スーパーの袋から買ってきた食材を台所に並べる松真氏。
【調味料】あらびき胡椒・オイスターソース・ごま油・バジル
【野菜】パプリカ・くうしん菜
【肉】鶏肉(手羽元)
【米】米っていうか冷凍チャーハン
手羽元じゃねえかっ!!!鶏肉っていうヒントでよりにもよって、なーんでそんなトリッキーな部位を選ぶのよっ⁉️ もも肉orむね肉の2択をミスるならまだしも…どうしてっ……!!(心の声)
そんで、冷凍チャーハンかいっ!!!……って突っ込んだものの、これはむしろナイスかもしれない。冷凍チャーハンは美味しい。間違えようがないのだ。ヘタに米炊きに失敗して芯の残ったライスを食べさせられるよりは、冷凍チャーハンのほうが安心という説もある。だからコレはOK。決してカオマンガイじゃないけど(心の声)
上記に加えてバジル・オイスターソース・パプリカ……
ものの見事に正解の食材がゼロ。
「だいぶ見えてきましたね。料理のイメージが」
そう言いながら1ヶ月ほど前に100円ショップで買ったというまな板の包装を破る松真氏。
俺には何も見えてこないよ。
…………。
…………。
スッ……。
というワケで、次回「自炊をほぼしない独身枯れなめこが作ったカオマンガイは美味しいのか」に続きます。
お腹を空かせて待っていてください。
レッツ・グルメ・ハンッ!!(決め台詞)
文と食材費:嵐
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