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歴代朝ドラレビュー(5) 「さくら」「まんぷく」、朝ドラが描く戦争 2023年10月【11】


まえがき

(4)はこちら。

今回は現在再放送中の2作品について書く。

「さくら」(2002年度前期)

執筆時点(10月29日時点)で32話まで放送された。以下はそこまで観た感想。

リアルタイムで視聴していたのだが、細部は覚えていない。当時は高校生だった。

ハワイ出身の日系アメリカ人・さくら(高野志穂)がAETとして来日する。赴任先は岐阜県高山市の中学校で、セクハラや男尊女卑や事なかれ主義が横行している。それらに対してさくらが「そんなのおかしいです」と首を突っ込む。いつも混乱を巻き起こすが、最終的には好転する。

私は、さくらみたいな人には来てほしくない。もちろん天真爛漫で真っ直ぐな性格は悪くない。

「日本人はおかしいです。アメリカではそうしません」などと突っかかる姿勢に感心しないのだ。「あなたの理想の日本人はあなたの頭の中にいるんです。故郷のハワイで夢見ていてください」と言いたくなる。

しかしセクハラや男尊女卑や事なかれ主義を「郷に入っては郷に従え」と看過するのは間違っている。ここに異を唱えることには賛成だ。彼女の言い方、やり方に問題があるのだ。

いきなりよそから来て「あなたたち、間違っています」では印象が悪い。「こうしたら、もっと良くなるんじゃないでしょうか」と言うのがいい。しかしさくらはうまくできない。

すっとぼけた顔で「なんでですか?」「そんなのおかしくないですか?」とやる。人の神経を逆なでする感じなのだ。質問そのものは妥当でも、態度によって軋轢を起こしてしまう。

しかし作品としてはなかなか面白い。テンポがいいから観ていて飽きが来ない。

登場人物の描写もうまい。英語の沢田先生(野口五郎)は偏屈なわからず屋だが、漫画的でコミカルなので観ていて面白い。東京のおじいちゃん(小林亜星)も同じ。まさにテンプレートの江戸っ子。ハワイの家族や婚約者ロバート(セイン・カミュ)の明るさにも救われる。

「まんぷく」(2018年度後期)

執筆時点(10月29日時点)で24話まで放送された。以下はそこまで観た感想。

冒頭、長谷川博己さん演じる萬平がエセ関西弁で話すシーンを見て「この作品は面白い」と確信した。

私はテレビドラマをほとんど観ない。例外が朝ドラ、そして大河ドラマなのだ。長谷川さんは2020年度の「麒麟がくる」で主人公・明智光秀を、2013年度に「八重の桜」で主人公の最初の夫・川崎尚之助を演じていた。それによって以前から親しみを感じている。

要潤さんが出演しているのもいい。ヒロインの次姉の夫で売れない画家。つい先日観終えた「らんまん」(2023年度前期)の田邊教授が頭にちらつく。東大教授をやめて画家になったように見えて笑える。

その「らんまん」で立派な祖母を演じていた松坂慶子さんが「まんぷく」では自己中心的で頼りない母親を演じている。

口を開けば「私は武士の娘です」と虚勢を張る。我が子の希望を無視して自分の希望を押し通す。その時の言い分が「私はあなたのためを思って」。

結婚には反対する。子供を作らない娘夫婦を責める。病気で苦しんでいる婿を仮病だと疑う。軽々しく使う言葉ではないが「毒親」という表現がしばしば思い浮かぶ。

ただ要所要所で子を認め応援することができているので、それほど悪く言いたくない思いもある。軽妙で巧妙なキャラクター設定と、名優のコミカルな演技によって不快感が軽減されている。

あとは世良(桐谷健太)が面白い。自己中心的ながら明るく思いやりもあって憎めない。つい数ヶ月前に観た「天皇の料理番」でも陽気な変人をノビノビと演じていた。

朝ドラに見る戦中日本の酷さ

それにつけても思うのが、戦時中の日本の酷さだ。萬平は無実の罪で憲兵に連行され、来る日も来る日も拷問を受ける。内臓が傷つくほどの暴行を受け続けた。

思い起こせば「あぐり」や「マッサン」では、土足で家に踏み込んで荒らしていく傍若無人の「特高」の暴力が描かれていた。

郵便配達夫が召集令状(赤紙)を「おめでとうございます」と言って渡し、こちらは「ありがとうございます」と言って受け取る。この時代ならではの光景だ。誰も彼もが本心を隠して、お決まりの言葉を口にすることを強いられた。

その最たるものが「お国のため」だ。そして他人のあら探しが横行する。誰かを「お国のためになっていない」と決めつけて「非国民」と罵る。

その際に「戦地の兵隊さん」云々と口にする。多くの場合、他人をけなしたい感情を正当化しているだけではないか。国防婦人会などは良い例。戦時中が舞台の作品にはだいたい登場する。「朝ドラ名物」と言っていい。

しかし彼らを責めればいいというものではない。国の失策がこのような国民をつくり出した。戦況は悪化の一途をたどる。満足に食べることもできない。大切な家族が兵隊に取られて死んでいく。空襲がすべてを破壊していく。やりきれなさが人の心を荒ませていった。

まもなく戦後80年。この時代の日本を美化する人が少なくない。感化されないように気を付けよう。いつでも批判的に見ることを忘れてはならない。戦時中のドラマを観るたびに思う。

今回はここまで。次回「らんまん」(2023年度前期)、「ブギウギ」(2023後期)について触れたい。

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著者は1985年生まれの男性。 不登校、社会不適応、人付き合いが苦手。 内向型人間。HSP。エニアグラムタイプ4。 宗教・哲学(生き方)…

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