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とある会社員、非日常への入口 ②
Episode 2 ちいさなフラッシュバック
深夜とはいえ、まだまだ残暑厳しい日本の9月。
湿気なのか汗なのかわからないが、全身が水滴に覆われているような感覚が自らの精神とシンクロする。
どれほど歩いただろうか。
人通りもほとんどない道をただただ進んでいく。
もしかしたら同じ道を二度通ったかもしれない。
あてもなく、どうにもできないこの思いを払拭したい一心だった。
細い道を縫って歩き続けた私は、ふと我に返る。
そこは袋小路で、辺りは古びた家が密集していた。
(こんなところあったかなあ。たぶん近所のはずだけど…)
生来の方向オンチのくせに、スマートフォンを持たず出てきてしまったことに、ここで初めて気がついた。※家のカギは閉めた
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小学校に入学した初日、当時の私は
「行ってきます!」
と元気に玄関を出た。
マンションの階段を勢いよく降りて、学校へ向かった。
そのわずか5秒後
「そっちじゃないよ!!!」
ベランダから母の声である。
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この出来事により、私は方向オンチであることを初めて自覚した。
同時に、自らの特性に不安を抱くようになるきっかけとして強く刻まれ、たびたび記憶から呼び起こされるのである。
そしてまた、それが起こった
(続く)