HRBPに求められる”9マトリックス思考”
この記事では、外資系企業、日系企業で人事(HR)として勤務し、HRBPとしても悪戦苦闘してきた実体験を元にHRBPとして、
・どのようにビジネスに貢献するのか
・そのためにどういったステップを踏むのか
・その中で自分の現在地をどのように把握するか
ということを把握するためのフレームを整理しました!
また、この記事を通じてHRBPの価値を知っていただいたり、「HRBPっていいじゃん!」と感じてもらえたら、とも欲張りながら思いつつ。
あとは、現役HRBPの方の思考整理や、HRBPとの接し方でなんか”もやっと”している方の助けになると嬉しいです。
では、いきましょう!
なぜHRBPが注目されているのか?
そもそも、HRBPという単語になじみの無い人からすると「そもそも注目されてるの?」と言われそうですが、私の体感値としては、この記事を書いた2025年1月時点では”HRPB”と文言が含まれる求人数は増加傾向でし、現役の転職エージェントに従事している元同僚などと会話していてもその傾向はあると感じています。また、その理由についての様々な記事も世の中に出回ってきておりますので、ぜひ目を通しくみてださい。
ということで、詳細情報はすでに多くの方がまとめてくださっているので、ここでは抽象度の高い部分で私が考えている2点だけまとめておきます。
組織の拡大、多様化に伴い、組織事情に合わせた人事施策が必要
2000年頃までの大手企業といえば、いわゆる車や家電、食品などを製造販売する製造業が主でした。
この場合、部門として人数を多く抱えるのは製造部門と営業部門です。また、各部門に求める業務も今ほど複雑ではありませんでした(簡単という意味ではなく)。
しかし、今は様々な業態の会社も400-500名以上の従業員を抱える企業も台頭しており、製造業の会社も、マーケティング部門やIT部門、管理関連部の部門など時代の変化に対応すべく、様々な部署が生まれ、各部に求めることも複雑化しています。
そこに全社一律の人事施策で画一的なコミュニケーションだけでは対応が困難になってくるのはご想像の通りですし、人によっては日々体感されていると思います。
そのために、部門ごとの問題をHRBPが把握をしながら、HR関連の課題解決に取り組み、部門毎の目指す姿を共に作り、伴走していくことで個別事情に合わせた対応することが期待されています。
一律の人事管理では対応できない世の中に変化している
また、従業員が抱える事情と会社として対応すべき事項は多岐にわたり、複雑化しています。これらに伴うマネジャーの負担増加をケアすることも重要です。
日々の対応としては、個々人の問い合わせを人事部という中央機能だけでは個別事情まで把握が難しいため、部門事情や個々人の事情についても目が届くHRBPが第一の窓口になることで親身なサポートが実現でき、現場マネジャーの負担も軽減することに繋がります。(会社によっては従業員サポートをHRBPとは別に専門チームで設置することもあるようです)
ちなみに「社会情勢(外部環境)の変化のスピードが速く、変化に対応するため」という切り口もHRBPの必要性として議論されています。
ただ、個人的には400~500名以上の組織であればHRBPが必要と感じますが、それ以下であれば、そこまで複雑な組織になっていない可能性が高いこと、経営者や人事機能をもつ組織でも目が行き届いており、機動的に動くことも可能なケースが多いため、必ずしも必要ではないと感じています。
とはいえ、会社規模が小さくなると、担当者一人一人の守備範囲が広く、そういった余裕もなくなるので、戦略人事を主として実行できるHRBPか、類似したポジションを配置できることが理想だと感じています。
HRBPに求める9マトリクス思考とは?
前述したことから想像いただけるようにHRBPが担うミッションはその時々で変化し、カバーする領域も広いです。それをすべて完璧にできるスーパーマンもいらっしゃるとは思いますが、誰しもがすぐにできるものではなく。
そんな中でもHRBPとして価値を発揮するために大切な思考フレームをHRBPの業務を通じながら、様々な組織に従事するHRBPの方々と情報交換をする中で構築しましたのでご紹介します。
”目指す姿/To-Be”、”現状の姿/As-Is” 、”問題/GAP”、”課題/Action”を整える
こちらのフレーム(図1)に類似したモノを目にしたことがある人も多いと思いますが、問題解決を行う際によく用いられるフレームです。
そして、このフレームがHRBPとして価値を発揮するための基礎となるので、まずはこちらからご説明です。
念のため、このフレームのステップについてご説明しておくと
1、”目指す姿/To-Be”を定めて
2、”現状の姿/As-Is”を把握することで
3、”問題/GAP”が明らかになる
4、そして、”課題/Action”を設定して、実行することで目指す姿を実現する
というステップがセオリーとされています。
この考え方は、”目指す姿/To-Be”を設定することで判断軸も明確になり、周囲の協力を得たり、チームの意思統一が図れるなどのメリットもあります。
ただし、注意いただきたいのは、このステップに固執して活動すると、HRBPとして現場の方々と意図しない衝突や軋轢を生んでしまいます。これが陥りがちな落とし穴だと私は感じています。
部門からすると、現場のこともよくわかっていない人から、いきなり”目指す姿/To-Be”の話をされてもピントがずれていたり、説得力がない提案になりがちです。HRBPとして、価値を発揮するにはまずは担当部門のステークホルダーから信頼されることが重要だと日々強く感じています。
そこで、信頼得るためには、ステップの順番を変えて、部門が考えている”課題/Action”を実行し、解決すること(実績作り)で信頼を得ることから始めるとよいと感じており、実際に私もそのように対応してきました。
HRBPがとるべきステップについて手順を整理すると以下の通りです。(図2)
1、部門が考える”目指す姿/To-Be”から発生している”課題/Action”を実行して信頼を得る
2、客観的な視点を踏まえて、”現状の姿/As-Is”を議論する
3、新たな”問題/GAP”が見えてくるので、出てきた”課題/Action”を解決する
4、更なる信頼を得て、”目指す姿/To-Be”が議論できるようになる
ちなみに、信頼が得られている一つの基準は「人事関連の相談を受けるようになるか、否か」です。(この点は他のHRBPの方も同様に語っており、参考にさせていただいています)
部門側から相談を受けるようになってスタートラインに立てたと私は考えています。
これをコミュニケーションおよび、アウトプットなどの”ハード”として捉えておきます。
ただし、このステップだけでは、信頼を獲得することが難しいステークホルダーが生まれたことや、自分の現在地を把握するためには不十分だと感じ、行き詰まっていました。
エドガー・H. シャイン氏が提唱した「組織文化の3つのレベル」を活用
そこで「これを活用すれば、解決できるかも!」と取り入れたのが、組織心理学などの領域で著名なエドガー・H. シャイン氏が提唱した「組織文化の3つのレベル」です。
こちらは様々な方が説明をしてくださっている理論ですので、説明は割愛させていただきますが、組織開発やオンボーディングなどの文脈でも登場する理論です。
人事担当者にとってはこれら3つのレベルを意識し、組織文化を適切に理解・活用・改善することで、組織全体のパフォーマンス向上を支援ができるとよく語られます。
ただ、HRBPを主語とした場合は、会社組織という単位だけではなく、担当部門や担当部門の部署、課などの単位でこれらを意識し、理解・活用することが重要だと考えています。
これを組織理解や知識部分などの”ソフト”として捉えておきます。
HRBP9マトリクス思考
これらのコミュニケーションおよび、アウトプットなどのハードを示す図2と、組織理解や知識部分などのソフトを示す図3を組み合わせたのが、HRBP版9マトリクス思考です。(図4)
縦軸にハード、横軸にソフトをそれぞれ3段階に設定し9つのマトリクスで整理します。
9マトリクスの使い方は、右上の【ハードLv.3×ソフトLv.3】が一番よい状態(理想のHRBPの状態)として、自分自身がどのあたりにいるかをマッピングしながら、どのように右上を目指すかを考えていきます。
ハードとソフトを設定し、平面でとらえることで自分のパフォーマンスがどの地点に位置しており、その位置における課題と次のステップへの進み方が自ずと見えてきます。
ハードについて、少し触れておくと組織によって抱える課題は様々で、HRBPのバックグランドも様々なはずです。
一つの成功パターンとして、HRBPとして業務をスタートした方は、HR領域*のどの部分で強みを持っているかを自己理解し、自分の強みである領域で成果を作り、貢献することで信頼を獲得するとよいスタートが切れるはずです。
*HR領域:制度、評価、採用、育成、労務などの業務領域
HRBP9マトリクス思考の活用事例
例えば、中途採用でHRBPとして着任した担当者は【ハードLv.1×ソフトLv.1】の一番下の状態であることが多いです。
基本的にはソフトからレベルを上げてながらハードを登っていくことがセオリーとなるので、ソフトのレベルを上げることにまずは時間を使うことを優先します。
私も外部からHRBP担当者として入社した1年目は「まずはソフトに集中して一定の生産性(ハード)は犠牲にする」という意思決定をして、動きました。そのおかげで2年目以降はハードLv.2の話しや、Lv.3の話がおのずとできるようになり、HRBPとしての価値を感じてもらっています。
また、HR以外の部署から異動してHRBPに着任するケースはソフトがLv.2もしくはLv.3からスタートするケースが多いと感じます。
そのため、ハード部分にある程度集中してコミュニケーションおよび、アウトプットに取り組むことができるのが利点ですが、1つ注意点があります。
HR以外の出身者の場合、現場からの要望に対して「現場の理解が深いゆえに、HRとしての意思決定ができなくなる(現場に寄りすぎる)」という現象が起きるケースがあります。
HRBPはビジネスの成功を担う、現場に近い人事担当者ではありますが、人事担当者として、会社全体の人事戦略の実行や、全体の整合性などを意識しなければなりません。担当部門との距離が近いゆえに、HRとしての歪みが発生しないように注意する必要があります。
(9マトリクスそれぞれにおける動き方や注意点は長くなりますので、また別途まとめてnoteで公開させていただきます)
もちろん、HRBP9マトリクスの右上(ハードLv.3×ソフトLv.3)を目指すためには組織の理解のみならず、会社全体のビジネスの理解、HRプロフェッショナルとしての知識の獲得が必要です。
そして、会社に貢献するためには、HRBP以外の専門HRチームとの強固な協力関係の構築が不可欠であり、専門HRチームと一丸となって、課題解決を実行することが求められます。
とはいえ、やみくもに知識を獲得したり、行動を起こすのではなく、このHRBP9マトリクス思考を羅針盤とすることで、現在地を把握しながらスピーディにHRBPとして価値貢献ができるようになっていただけるのではないかと感じております。
ぜひ、現役HRBPの方、これからHRBPを目指そうとしている方の参考になれば幸いです!