みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(2) 『動機づけ面接の最重要概念』
動機づけ面接については、本を読んだり勉強会で勉強をしている人が多いが、動機づけ面接と呼んで良い面接ができるまでのハードルはそう低くはない。本稿を読むだけで動機づけ面接がうまくできるようになるとは言えない。
それでも、うまくできない理由というのはあり、そこは避けられると良い。よくあるのが、動機づけ面接を正しく理解していない、本を正しく読んでいない、というのものだ。教科書の言葉を正しく読む力も必要だし、何のための動機づけ面接かということから動機づけ面接を問い直せることも大事だろう。まずはそこからだ。
本稿では、学習者が誤解しやすい落とし穴を踏まえ、適切に理解できるように解説をしていきたいと思っている。
前回、覚せい剤を使用している能登さんと司法関係者の面談を、2パターン示した。あれあれ?何だか大きく違う結果になったぞ?なんなんだこれは?…というところで終わった。
(パターン0として、面接者が「てめえ、言い訳してんじゃないよっ!」と怒鳴る!なんてものを挙げておく手もあるが、そういう対応が論外であることは今さら言うまでもないだろう。それよりもっと高度な「聴き方」の話をしたいのである)
その2つの分かれ目となる最初のやりとり、能登さんの最初の発言と、それに対する面接者の反応だけ、もう一度抜き出してみる。
(薬とは医者の出す薬ではなく、覚せい剤である。あえて短めに切ってあるのは、この後の能登さんの発言に引きずられて評価するのではなく、面接者の発言・態度がこの時点ですでに違うということに注目してもらいたいからだ)
1
2
1は能登さんに「仕事を見つけるために覚せい剤をやった」と言われているので、それについて質問している。2は幻覚の話も出ているので、そっちに触れている。
一方が質問でもう一方が質問でないという違いは、ここではさほど問題ではない。どちらも能登さんの話の流れに沿った応答になっているのは同じだ。非共感的でもないし、相手のペースに合わせて話をしているし、ていねいだ。
だが後の流れはここで大きく変わってしまう。ポイントはなんだろう?
【DISCUSSION】
ぜひここで先を読まずに考えてはいかがだろう。もし一緒に勉強する相手がいるならば、違いの本質は何なのか話し合ってみてもよいかもしれない。
動機づけ面接の最重要概念
大仰なタイトルをつけてしまった。異論はあるかもしれないが、動機づけをするカウンセリングは動機づけ面接のほかにもある。動機づけ面接をもっとも動機づけ面接らしくしている用語について、最初に説明してしまいたい。こればかりは、外して話のしようがないからだ。
その概念とは「チェンジトーク」だ。
あえてチェンジトークとは何かを説明されない中で、次の表をぼんやり眺めてもらいたい。これは動機づけ面接を速攻で学習するための究極の裏技で、面接の質を評価するためのマニュアルの一部抜粋である。このマニュアルに沿って高得点な面接をするようにすれば、高評価の得られる正真正銘の『動機づけ面接』ができてしまう理屈だ。
例えば5点(表のいちばん右)を取りたければ、チェンジトークとやらを深めたり、強めたりすることがとにかく大事なんだな、ということが判るだろう。逆にそれを拾えなかったり見逃したりすると、2点とか1点といった低評価を受け、その面接は動機づけ面接ではなくなってしまう。
逆算すると、このチェンジトークをしっかり学んでしまえば、動機づけ面接の中核を身につけたことになる。よし、学ぼう、チェンジトーク。
これはチェンジトークです
チェンジトークとは何か?という定義は述べない。例から挙げていく。
治療を拒否し暴力を繰り返して長年入院している患者さんの例を考えたい。(ここでは話をややこしくしないため、「治療(投薬や訪問看護)を受けることが、本人のためになるものである」という前提を崩さないものとする)
「退院したいから訪問看護受けようかなあ」
これは、チェンジトークである。
「副作用も少ないし、処方薬を飲みます」
これも、チェンジトークである
「訪問看護は受けたくないんです」
これはチェンジトークではない(維持トーク)
「病気じゃないんだからクスリなんて必要ないんだよ」
これはチェンジトークではない(維持トーク)
そろそろ判ってきただろうか?次はどうだろう。
「10年間も退院できずにいるのはまずいかな・・・」
これはチェンジトークである。
次は一連の発言について考えてみよう。
津辺ゆうさんは歯医者に来た患者さんだ。ここでは、デンタルフロスをするということが、津辺さんの健康のために必要なことであるものとする。
津辺ゆう
「デンタルフロスをしなかったら歯槽膿漏ってのはまずいですけどね。
でも、本当なんでしょうか?
左側は痛くないじゃないですか。
みんなしてないと思いますよ。
虫歯になるのは、運が悪いだけじゃ?」
一文ごとに、チェンジトークかどうかを記載すると以下のようになる。
青丸に囲まれたところはチェンジトーク、赤の下線が引かれたところはチェンジトークではない(維持トークもあるが、不協和発言も含んでいる)。
そろそろ見えてきただろうか。
平たく言えばチェンジトークとは、前向きな発言だ。
「退院できずにいるのはまずい」とか「歯槽膿漏って嫌」というのも、ここでは前向きな発言に入る。ネガティブなことを避けたいという発言も、ポジティブな方向に向かっており、チェンジトークなのだ。
チェンジトークの定義
やっと定義だ!では、どぞ。
その反対の維持トークという言葉も、もう出してしまった。ここにまとめて定義しておく。
ところでチェンジトーク・維持トークはどちらも「クライエントの言葉」だ。それを分類したところで、面接の仕方を学んだことにはならない。
だが、なんかそれを拾ったりしたほうが良さそうだ、くらいのことは薄々判ってきたと思う。
宿題 チェンジトークを識別する①
とりあえず定義を知ったので、最後に入院患者さんの言葉が、チェンジトークか維持トークか考えてみよう。忘却しかけたところで復習するのが良いと思うので、新しい問題に加えて既出の問題も順番を変えて混ぜてある。
最初に言っておくが、絶対の答えはない。
問題だけ出しておいて解答は次に持ち越しである。
答えが気になって気になって仕方ない人がいたらコメント欄で教えていただきたい。
吟遊は答えずに、ただほくそ笑むから。
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2020/12/30 Ver.1.0