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薬と注射の備忘録(9) 『驚きの効果! 処方するならこのクスリ!!』

薬剤メーカーの勉強会は数多く開催されるが、聞いたことのあるような話も多い。

この新薬は従来薬と比べて非劣勢であった。かの尺度でこれだけの差が出た。副作用が少なく忍容性がよい… そんなところでしかないのだが、それがとてもすごいことのように説明される。

洗剤と同じだろう。もう何十年も洗剤のCMを見てきたが、その洗浄力は年々果てしなく進化している印象を受ける。だがそんなことがあるわけがない。ほとんど大して違いなんかあるまい。薬も、そこまでは違わない。


勉強会の質問もだいたい決まっている。「薬の使い分けはどうしますか?」エビデンスというよりは理屈で、演者は使い分けについての私見を述べる。妥当なことが述べられる。文句のつけようはない。

だが現実世界での処方の印象は、それとは少し異なるように思われる。そのときどきで変化することはあるが、概ね医者ごとにそのときのファーストチョイスが決まっているのではないだろうか。それは、完璧に妥当ではないかもしれないが、決して大きくはずれてもいない処方となっているはずだ

薬剤メーカーの言い分は「ここぞというときにうちの薬の特性を活かして使ってください」であるがそれは建前で、本当のところは「どうぞうちの薬をファーストチョイスにしてください」と頭を下げているのである。商業原理というものはそんなものだ。

それでもかなりフェアさが求められる時代になったた。あくまでエビデンスに則ったことしか言えない。 COI の開示はあたりまえになされるし、ファクトチェックは厳しいし、スライドも厳しくチェックされる。

ちょっとめんどくさい。


昔は押せ押せのメーカーさんもいて、そういうのが好きであった。論理よりものを言うのは説得力である。

こんなことを言うと軽蔑する医師もいるかもしれない。だが私はセールスマンが人を動機づける腕をすばらしいと思う。患者さんにあのプレゼン力をもって治療を進めることができれば、満足度は倍増するはずなのだ。


ところで治験をすると、対照群となる古い薬や、ときには効果のないはずのプラセボが、かなりの成績を出してしまう。なぜか? 治験の場合割り振られる薬が新薬であれ対照群の薬であれ(それはテストをする人も知りはしない)、メーカーの人がていねいにやさしくフォローしてくれるからである。おそらくそうだ。

医療というサービスがフェアであるべきなのは当然としても、商売人にどこかで負けているという思いが拭えない。医療者にもうひと努力があるといいんだよな、とつくづく思っている。いや、そういうのって薄っぺらいのかねえ・・


Ver 1.0 2023/7/4


#薬
#エビデンスベイスドメディスン
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