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薬と注射の備忘録(6) 『どっちのクスリショー』

新薬を処方する医者を、「メーカーに踊らされている」と学会で批判する人がいた。厳しい臨床試験を経て認可された薬であるにもかかわらずだ。この批判は「もっともかもな」と思う点もある。患者に直接宣伝を許されていないメーカーは、医者を通して宣伝する

人は合理的判断ができていると思っているだけの不合理な存在だ。医者とて例外ではない、利益のために誘導されかねない(されやすい?)人々である。

抗うつ薬を例に挙げると、効果量はさほど高くない上に、どの薬の効果も実は似たり寄ったりである。違うのは副作用くらいで「こんなケースにはぜひこの薬を!」ということがあったらそれは誇大広告かとも思える。味の変わらない二種類のコーラがあるが、一方は宣伝の力によって他方に大きく差をつけている。あれと同じになってしまう。


ただ、私は新しい薬はすぐ試す。どれも大差ないならどれを出しても問題はないのだし、手応えを覚えたいからだ。エビデンス・ベイスド・メディスンの時代でも、推奨される薬が複数ある場合はそこに選ぶ自由があるのだ。その範囲でなら、勘だの経験だのを入れ込む余地があろう。選択肢が増えることが悪いわけがない。


さらに現実世界では、効くことが期待される多くの薬が「効かない」。そこに登場する新薬が、道を切り開くことはままある。

こういうことがあると薬剤メーカーは医者に頼み、そのような症例の発表を求める。そういうのばかりが発表されると、知見としては偏ったものとはなってしまう。

ただ、嘘はない。あくまでエビデンスはあるのだ。しかも最近は、メーカーのした研究が自社にとって不都合な結果になっても公開する義務が課せられている。あるメーカーがライバルメーカーのデータを引用していたときは笑ったものだ。


私は薬剤メーカーの勉強会は好きである。結局はリテラシーの問題なのだ。古き(悪しき?)時代は、独自に論文を集めては廊下で医者にプレゼンをする凄腕営業マンがいたものだ(今は中立性維持のため社が許可した資料しか渡せない)。攻めていて面白かった(今では他社の薬を悪くは言うこともできない)。


私は思うのだが、いっそ「どっちの料理ショー」形式で複数の同業者がプレゼンをする勉強会を開催したらどうだろう? どの会社も自社を全面を押し出し、他をけなすことにより、結局中立性が保たれる上にプレゼンも盛り上がると思うのだが。業界全体が盛り上がり知識が普及されるのはよいことなのだし、しかも会場費諸々だって安く済むから、いいんじゃないか?


Ver 1.0 2022/10/13


#薬
#エビデンスベイスドメディスン
#最近の学び

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