SANUKIReMIXインタビュー「野菜」
曾祖父が宮大工から転職して農業をはじめると、家系は代々養鶏や柿、アスパラの生産など農業が身近にある環境で育ちました。独立して「薫る農園」を立ち上げてからは「作ることを第一」に、健康で元気に仕事ができるよう、持続可能な農業を目指して日々、奮闘中です。
―まずはご自身のことについてお伺いしたいのですが?
子供のころは花屋さんや獣医さんなどの夢を持つ時期もありましたが、家の手伝いで農業は遠い存在ではなかったです。大学を出て就職をしていましたが、地元に帰ることを考えはじめた頃、母が入院し父の養鶏場を手伝いはじめたのがきっかけです。父がアスパラガスを育てていたので農業にも携わることになりました。
―「薫る農園」を立ち上げようと思ったのはなぜでしょう?
弟がハウスを建てる仕事をしていましたが、そこで農業に興味を持ち仕事として取り組むようになりました。養鶏で出てくる副産物を循環させるため野菜などを作るようになるとその手伝いも始めました。機械なども必要になり、独立して自分でやる必要を感じて、徐々にアスパラ部門などから継承していきました。
独立を期に「河田薫」という個人事業主になり、親との話の中でも出てきた、自分の名前を付ける形で「薫る農園」が誕生しました。自分の中で「魂が宿った」瞬間でした。周りの人に助けてもらいながらも、家族のためではなく、自分が「責任」を持ってやっていく覚悟が決まったように思います。
―「薫る農園」という名前、素敵ですね。
最初は漢字一文字で「薫」だったのですが、ひらがなの「る」を入れた形に変えました。こだわって「る」を入れたのは、「ひらがな」は女性が使う文字だったことや、「やわらかさ」がでて動きを感じられること、今も昔も大切にしている「柔軟性」が表現できることなど数々の「想い」が表現できると考えたからです。コンセプトは「おいしく、楽しく、薫る農園」
―おいしい野菜を作るために大切にしていることは何ですか?
おいしさは人によって好みがあり、食べる時期によっても変わります。みずみずしさや食味、食感、新鮮さなどもあるけれど「バランス」がとれていることもおいしさにとって欠かせないと思います。何より大切なのは、土づくりをしっかりとして環境を整えることで、「素直に育つ野菜」を作る。これは人と同じです。「技術」はもちろんだけれど「心」が必要だと思います。
参加した「SANUKI ReMIX」について
―参加を打診されてからマッチングを迎えるまではどんなお気持ちでしたか?
野菜の代表としてアーティストとのコラボに参加してほしいと言われました。世界一のシェフと組むのが自分でいいのか不安もあったと思います。どんな料理を考えるのか何もかも未知数のままイベントが始まった感じで、写真撮影も普段はない機会で戸惑いはありましたが、自分の作っている野菜がどう扱われるのか見てみたい気持ちもありました。
―マッチングの日を迎えていかがでしたか?
あの日はトラブルがあって慌てて会場に入ったのですが、たくさんの人たちに囲まれてびっくりしていました。楠本シェフと初めてお会いした日でもありました。農場を訪れて「何を作っているの?」という質問から始まり、「あるものでやろう」という話になっていきました。説明を聞いている間に、シェフの頭の中にはすでに何かが見えているようでした。マッチングでの発言も頼もしくて、何かが始まるのなら楽しもうと思いました。
―メニューの完成はいつごろ知りましたか?
記者会見から1週間もたたないうちにある程度のメニューは完成されていました。作品タイトルは「薫」名前が使われていてなんだか気恥ずかしい気もしました。ばらちらしをメインに、スープとブロッコリームース小豆島オリーブのポテチなど五感で楽しめるメニューになっていたように思います。
―お料理を目にされてみてどうでしたか?
目で楽しめるお料理。オリーブの木で燻製した煙が見えたり、新鮮な野菜から漂う薫りだったり、カラフルな野菜のインパクトも大きかったです。野菜という素材のことを知り尽くしているのだなと感じました。下ごしらえの手間暇の時間を感じて、食べるのがもったいないくらいでした。
また、披雲閣にもあいまって芸術になっていました。野菜だけというと物足りなさを感じるのではないかと思っていましたがそれは間違いでした。手間暇かけて仕上げてもらえていることがうれしかったです。
―参加された方にとっても「食」について考えるきっかけになりそうですね?
スープのとろみが野菜だけでついていることや、鰻にしか思えない精進鰻など皆さんの驚きと感動が伝わってきました。農園ではほかにも作っている野菜があるので、その野菜はどんなふうになるのかを想像してみたりもしました。野菜の作り手として、作り甲斐を感じることができたし、みんなが一緒に食卓を囲めるということ、食べるということが楽しいと誰もが思えることが大切だと共感できたように思います。
―一緒にコラボした「漆器」という器に関していかがですか?
漆器って改めていいなと感じました。自然のモノなので手触りもよく軽さもあって、心も食事も豊かになるようです。今までの漆器のイメージにはなかったポップなものがあるのを知って、もっと身近に日常に溶け込める感じもしましたし、若い人でも手に取れるような気がします。
―SANUKI ReMIXを終えて今のお気持ちはいかがですか?
参加してよかったです。楽しまなきゃ損だと考えて、新しく出会う異業種や職人の方とのコミュニケーションを通して、お互いへの尊敬や共感を持ちました。
―今後伝えていきたいことはありますか?
「食べることは生きること」自然と共に生きるのは、「生」を目の前に「仕事」をしている私たちにとっては当たり前のこと。だから「利便性」を求める時代にいても流されることなく、できるだけ「地域経済」という自分の周りに目を向けることを意識しています。そうやって存在している「農業」という仕事を未来に伝え繋げていきたいです。そして子供達には、農業に触れて味わう体験をしてもらうことで、「子孫の未来」も考えていきたいです。
―まっすぐな強い「想い」が伝わってきました。
今の自分があるのは、先祖のDNAがあるから。生きる上で「手仕事」「人の心」「生き様」は重要な部分だと思います。日本人としての「心」や「文化」「考え方」は人それぞれだけれど、「生き方」や「行動」で人も未来も変わります。これからも、行動で見せていきたいです。