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人前で話す恐怖で、夢を諦めた話
私は社会人になってからも、
自分のアイデアで
世界をより良くしたいという想いを持ち続け、
いつか起業することを夢見ていた。
会社勤めをしながら、
週末や業務後には、
事業プランを練り、
様々なビジネスセミナーに
参加していた。
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そんなある日、社内で
新規事業のアイデアを募集するコンペが
開催されることを知った。
これは、
またとないチャンスだった。
優勝すれば、
事業化に向けて
会社が全面的にバックアップしてくれるという。
私は、
温めていたアイデアを
事業プランとしてまとめ上げ、
応募することにした。
しかし、
私は極度のあがり症だった。
社会人になっても、
人前で話すことへの苦手意識は、
一向に克服できていなかった。
会議で発言するだけでも、
声が震え、
手汗が止まらない。
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大勢の前で
プレゼンテーションをするなんて、
考えただけでも恐しかった。
一次選考を通過したとの連絡を受け、
喜びよりも先に、
プレゼンへの不安が押し寄せてきた。
役員や部長陣の前で、
自分の事業プランを
説明しなければならない。
失敗は許されない。
そう思うと、
夜も眠れないほどだった。
プレゼン当日、
私は緊張でガチガチになりながら、
会場へ向かった。
他の参加者は皆、
自信に満ち溢れ、
堂々としているように見えた。
自分の番が近づくにつれ、
心臓の鼓動は早くなり、
手足は冷たくなっていった。
「もう、逃げ出したい…」
そう思った瞬間、
私は、
自分の事業プランに
込めた想いを思い出した。
このサービスで実現したい未来、
そして、
このサービスを
必要としている人々の顔が、
頭の中に浮かんできたのだ。
私は、
この想いを伝えるために、
ここに来たのだ。
名前を呼ばれ、
私は壇上に上がった。
深呼吸を一つして、
話し始めた。
最初は声が震えていたが、
話していくうちに、
不思議と落ち着いてきた。
私は、
自分の事業プランへの情熱、
そして、
実現したい未来について、
精一杯語った。
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結果は、
審査員特別賞だった。
優勝は逃したものの、
私の事業プランの独自性と
将来性を評価していただき、
特別賞という形で評価されたのだ。
プレゼン後、
審査員の一人から、
「あなたのプレゼンは、
技術的にはまだまだ改善の余地がある。
しかし、
あなたの事業プランに込めた想い、
そして、
実現したい未来への情熱は、
誰よりも強く感じられた。
その想いを忘れずに、
これからも頑張ってほしい」
という言葉をいただいた。
あの日、
私は人前で話す恐怖と戦いながらも、
自分の想いを伝えきることができた。
そして、
審査員特別賞という形で、
夢への一歩を踏み出すことができた、
はずだった…。
その後、
私は社内で
新規事業のプロジェクトリーダーに任命され、
事業プランの実現に向けて動き出した。
しかし、
プロジェクトを進める中で、
人前で話す機会は
数え切れないほどあった。
会議での進捗報告、
他部署との交渉、
社外パートナーへのプレゼン…。
しかし、
私はその度に、
人前で話すことへの恐怖に負け、
逃げ続けてしまった。
重要な会議では、
資料を同僚に渡して説明してもらい、
社外へのプレゼンは、
理由をつけては他のメンバーに任せた。
私は、
プロジェクトリーダーでありながら、
人前に出ることを避け、
裏方に徹するようになっていった。
当然、
そんなリーダーを
周囲は信頼してはくれなかった。
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チームの士気は下がり、
プロジェクトは停滞し、
最終的には中止に
追い込まれてしまった。
そして、
私の起業の夢も、
脆くも崩れ去ってしまったのだ。
あの時、
私は確かに夢への一歩を
踏み出したはずだった。
しかし、
人前で話す恐怖から
逃げ続けた結果、
そのチャンスを
自ら潰してしまったのだ。
今、私は、
あの時の自分にこう伝えたい。
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「恐怖から逃げてはいけない。
自分の弱さと向き合い、
乗り越える努力をしなければ、
夢を掴むことはできない」
と。
この苦い経験を、
私は一生忘れないだろう。
そして、いつか必ず、
この経験を糧に、
再び夢に向かって
歩き出したいと思っている。