春とギター④PJさんxにゃんくしーさん企画
🌸PJさんxにゃんくしーさん共同イベント🌸
春 と ギター
🎸ショートストーリー編🎸
春のうた 【1093字】
農道をトラクターが大きな音を立てて通り過ぎていきました。
掘り返されたばかりの土が湿気た草とも泥ともつかない匂いを風に乗せていきます。
その奥にはそれを遮るように大きく手を広げた桜の木々が等間隔に並び、ピンクの蕾を膨らませています。
桜の木をト音記号として、トラクターの足跡が線を成し、空にいる私にはまるで五線譜のように見えます。
雲雀の夫婦が住み着いたのはそれから間もなくのこと。
やがて四羽の元気な声が聞こえるようになりました。
雲雀のお父さんは他の雲雀がそこを通ると空高く飛び上がり、大きな声で鳴きます。するとそこを通りかかった雲雀はそそくさと逃げ出すのです。
ある日、お父さんが食糧を求めて歩いた時のこと、オレンジ色のネットに絡まった不思議な何かを見つけました。
「誰だ!」お父さんは冠を立てて鳴きましたが、何も答えません。
お父さんはくちばしでネットを一つひとつ切っていきます。プチンと音が鳴る度に、その中のものがだんだん姿を現してきます。魚のような、鳥の脚のようなそれは、なんと白いヘビでした。
お父さんは慌てて飛び退きました。ヘビは鎌首をもたげてシャーと飛びかかってきましたが、ギリギリのところで逃れました。
空から見ていた雲雀が「バカだなあ」と大きな声で鳴きました。
お父さんは鋭い牙を目の当たりにして、しばらく震えが止まりませんでした。
雛が巣立つまであと数日です。
お母さんが守っている巣に何者かが近づいていました。
その気配を感じたお母さんはさっと飛び上がりました。でも雛たちはどうしようもありません。
お母さんが下を見ると、大きなヘビが巣に覆い被さっていました。
よく見ると、大きなヘビの頭に小さなヘビが噛みついていました。
雛たちが大声で鳴き始めます。
遠巻きに見ていたお父さんが少しずつ近づいていきます。
雛は三羽しか見当たりません。一羽はどうやら大きいヘビに一飲みにされてしまったようでした。
白いヘビが離れると、喉を大きく膨らませた太いヘビはすごすごと退散していきました。
白いヘビは悲しい目をしていました。
あのヘビなら四羽なんていっぺんに飲み込んだかも知れません。
「ありがとう」とお父さんは鳴きました。
二日の後、三羽の雛たちは大人のような出立ちで、巣の外にいました。
一羽がピーと鳴くと、後の二羽も続きます。お母さんが美しい声で鳴くと、お父さんも負けずに鳴きました。
どこからともなく、シャーという音も聞こえてきます。
巣立ちの音楽会は、この世に生を受けながら、一度も空を飛べずにこの世を去った、一羽の雛の葬送の歌のようにも聴こえます。
そばの桜はいつの間にか満開を迎え、儚い春を謳っていました。
了
《PJさんのムチャぶり依頼により創作しました》