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映画『NOPE/ノープ』感想 幾重にも重ねられたエンタメ性とメッセージ性のミルフィーユ

  様々な考察も出来るし、単純にパニック・スリラーとしてもレベルが高い作品。映画『NOPE/ノープ』感想です。

 映画撮影用の馬を飼育する牧場で生計を立てるヘイウッド一家。ある日、父親のオーティス(キース・デビッド)は飛行機の小さな落下物の衝突により事故死する。だが、息子のOJ(ダニエル・カルーヤ)は、その最悪の奇跡による死に、不審な点を感じていた。牧場を引き継いだOJだったが、父親のようには上手く行かず、少しずつ馬を手放し糊口をしのいでいた。妹のエメラルド(キキ・パーマー)と自宅で過ごす夜、夜空を巨大な物体が飛来していき、その前後、父親が死んだ時と同じ電波障害が起きたことにOJは気付く。兄妹は、UFOと思われる物体を撮影して、映像権利で一攫千金を画策するが、空を飛び交うその「物体」は、2人の想像を遥かに超えた存在だった…という物語。

 『ゲット・アウト』『アス』で知られるジョーダン・ピール監督による映画作品。前評判も、公開後も、「何が起こっているのかわからないまま、面白い!」というもので、是非この眼で確認せねばと観てまいりました。
 
 何を書いても、ネタバレになってしまいそうで、感想が難しいんですけど、予告編からするとUFOものをホラー解釈にした映画ぽい雰囲気が、見事なミスリードになっているんですよね。半ネタバレ程度にすると、実はジャンルは「空想特撮ホラー」というものになっています。ジョーダン・ピール監督の作風からすると、かなりエンタメ色に振り切った作品になっていると思います。
 
 ジョーダン・ピール作品を観たのは『ゲット・アウト』のみですが、既に黒人差別をホラーとして描く作風が、監督の決定的イメージとして植え付けられています。ところが、今作ではさほど黒人差別というテーマ性は前面に出ているような物語にはなっておらず、社会メッセ―ジよりもエンタメ性の方が強く感じられます。
 
 ただ、作中で語られる世界初の映画は名前も残らない黒人が馬を駆る映像だったというエピソード、その騎手の子孫である黒人の兄妹が未確認飛行物体の動画撮影(=映画撮影)を目論むという流れを考えると、やはり黒人差別への問題意識はしっかりとテーマとして根底で表現されているように感じられます。
 これが他の監督作品だったら、気付かずにスルーしてしまうほどバックグラウンドとして表現されているものなんですけど、ジョーダン・ピール監督作品という事実があるから、多くの人が考察してまで理解するようになっている仕掛けなんだと思います。ただ提示されるよりも、考察してその表現に辿り着くことで、より問題意識への表現理解が際立つようになっていると感じました。
 
 また、画面上での黒人の肌の使い方も、意図的なものに思えました。暗闇の中で息を潜めるOJの顔は、肌の色が夜に溶け込んでいるようで、その分、白目が際立ち、瞳の動きが強調されるんですよね。「見る/見られる」という視線の動きが、空に浮かぶ「物体」と対峙する上で重要にもなっているし、見られることなく、無視されてきた黒人の存在という作品のテーマの表現にもなっているように感じました。
 
 空から来る「物体」が何なのか、作中では清々しいくらい全く明かさないというのも、作品の考察をさせるのに効果的ですね。シンボルとして考えることしか出来なくなるので、これまでのジョーダン・ピールのメッセージ性が活きるような仕掛けになっていると思います。
 ただ、デザインとしてはもう明快ですね。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の「使徒」を意識したものになっています。さらには、アニメ『AKIRA』のモロオマージュのバイクシーンが挿入されているし、日本のアニメ・漫画の影響が色濃く出ています。物語設定からして、凄く漫画・アニメ的ですよね。
 
 ホラー描写も、普通のホラー的なものというよりは、ちょっとした違和感なんですよね。防犯カメラの映像に、半年以上動いていない雲がずっとあるという気付きも、恐怖描写としては珍しいというか、そのこと自体は怖くないはずだけど、この状況だから恐ろしいと感じるものになっています。この辺りの描写も、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』での正体不明のスタンド攻撃に気付いた時の演出にもよく似ていると感じました。
 
 一応、ホラーというジャンルに括って捉えていますが、この作品は物語が進む中で、どんどんジャンルが変わっていくダイナミズムがありますよね。ホラーに始まり、SF的に変化していき、ハンティングものにも変容して、最終的には黒人が活躍する西部劇のような空気にもなっていきます。
 
 ジョーダン・ピールがインパクトを与えた、社会派ホラーという監督のイメージを、さらに大きく上回るインパクトを与えることで、そのイメージの枠を広げた作品になっていると思います。これから、さらに色々なジャンルを取り入れる作品が期待出来るし、そこに監督が元々持っていたメッセージ性をどんな形で盛り込んでくるのか、これからもチェックしていきたい監督です。


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