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映画『パーフェクト・ケア』感想 「完全超悪」映画


 面白さは超一流、だけど手放しでは楽しめない。映画『パーフェクト・ケア』感想です。

 高齢者の成年後見人を務めるマーラ・グレイソン(ロザムンド・パイク)は、多くの老人の後見人として完璧なケアを行っており、裁判官からも信望の厚い女性。だが、マーラのケアの実態は、医師や高齢者施設と結託して、まだ自活出来る健康な老人を偽の診断書で施設に閉じ込め、その資産を管理する名目で横領するというものだった。
 マーラは、ジェニファー・ピーターソン(ダイアン・ウィースト)という身寄りのない老婦人をターゲットに定め、彼女の後見人の座を得て、高齢者施設に入れることに成功。ジェニファーの資産は予想を上回っており、マーラはパートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)と祝杯をあげる。だが、身寄りのないはずのジェニファーの行方を求めるロシアン・マフィアの影がマーラたちに近づいていた…という物語。

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 J・ブレイクソンによる監督作品。主演のロザムンド・パイクといえば、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』での主演が有名ですね。今作の悪女っぷりも、『ゴーン・ガール』での、「悪過ぎて痛快」路線を狙ったものだと思います。『ゴーン・ガール』では、その悪知恵の鮮やかさ、周到さに舌を巻くばかりで、圧倒された記憶がありますが、今作でもその手口の鮮やかさはあるものの、それよりもさらに悪さの方が際立っています。
 作り手側の狙いとしては、最初からマーラに共感させることを目的としていないようにも思えました。悪党であるマーラと、マフィアの対決という「全員悪人」ものでもあると思うんですよね。

 ロザムンド・パイクの悪女っぷりが見事なのはもちろんですが、個人的にはダイアン・ウィーストが演じたジェニファーの不敵っぷりもまた見事な演技でした。鎮静剤でフラフラにされながらも、笑顔でマーラを挑発する様は、心底ゾッとさせられると同時に、痛快さも感じさせてくれました。
 先述したように、この作品は悪党共の対決なので、どちらサイドにも肩入れ出来ないようになっているんですけど、逆にいえば、片方が反撃する立場になる度に痛快さが味わえるような構造にもなっていると思うんですよね。この辺りが、悪人だらけでも痛快さを失わずに、ギリギリ不謹慎エンタメ作品に仕上げている部分でもあります。

ただ、マーラに感情移入はしない前提で観ていても、何しろ手玉に取って搾取されるのは、いたいけな老人なので、個人的には正直キツかったです。老人たちを搾取していく姿は、やはりフィクションとはいえ、クライム・サスペンスの娯楽性として感じることが出来なかったんですよね。

 もちろん、同性のパートナーのフランに対する愛情は本物であり、今までの人生で男からどのような扱いを受けてきたかというのが台詞の端々で解るようにはなってはいるんですけど、『ゴーン・ガール』のようなダークヒロイン的な痛快作としては受け止められなかったです。特にこの2021年は『ファーザー』という認知症老人を描いた傑作を観てしまっていたため、余計にそう感じられたかもしれません。

 特にラストの締め方について、あれでマーラの生き方を否定しているのかもしれませんが、自分としてはそう感じられず、逆に善とされる価値観の敗北のように感じられたんですよね。ラストの「楽しかった」というインタビュー回答が差し込まれているのも、そう解釈してしまいました。

 とはいえ、面白いという意味では圧倒的なんですよね。ロシアン・マフィアのボス、ローマン(ピーター・ディンクレイジ)が小人症なのですが、どうやってボスにまで昇りつめたのか背景となる物語は語られないのも、マーラの過去と対比させているようで巧いですね。
 今まではこういうノワールものって、シンプルに男性側から描いていて、背景にはせいぜい貧困層からの成り上がり的なものばかりだったと思います。今作が新しいのは、抑圧されてきたマイノリティ同士のノワール作品という点だと思います。

 もちろん、マイノリティだから品行方正に描くべきなんて考えは微塵もないんですけど、やはりさらに弱者から搾取するようなキャラには、本人が悔やむようなラストを与えるべきだったのではないかと感じてしまいました。
 今後、こういうマイノリティを悪者とする作品も増える気もしますが(それでこその平等性だと思います)、品行方正ではない形で、どう決着をつけるかに期待していきたいと思います。


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