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映画『サユリ』感想 心霊に対するカウンターホラー

 心霊ものの理不尽さをブッ飛ばす作品。けど、もっと別の方法で殴って欲しかった。映画『サユリ』感想です。

 念願の一戸建てに引っ越して来た神木家。父親の昭雄(梶原善)は夢だったマイホームを手に入れて幸せの絶頂、長女で高校生の径子(森田想)は自室を持てることに喜び、長男で中学生の則雄(南出凌嘉)は眺めの良いバルコニーの景色を楽しむ。だが、小学生の弟・俊(猪股怜生)だけは、新居に不穏な空気を感じて恐れ、さらに認知症の祖母・春枝(根岸季衣)も、誰もいない場所を睨みつける奇行が増えていた。
 異変はすぐに訪れ、弟想いのはずの径子が俊に突然暴力を振るい、部屋の不穏な空気に支配されるようになる。やがて、次々と家族に起こる惨劇。家に憑いている“何か”に則雄が絶望しかけた時、ボケていたはずの春枝が立ち上がり檄を飛ばす…という物語。

 押切蓮介さんのホラー漫画を原作として、『ノロイ』『ある優しき殺人者の記録』などで知られる白石晃士監督が実写映画化した作品。白石監督といえば、ホラーモキュメンタリーの第一人者であり、グロ描写にも容赦がないアングラ監督でありつつ、近年では『貞子VS伽椰子』などのメジャー作品を手掛けるなど、ホラー監督として幅を広げている監督。原作は未読ですが、かなりのホラーながらも、勢いあるエンタメという評判を聞きつけて観てまいりました。

 Jホラーの心霊ものといえば、引っ越した先が心霊物件で無関係なのに呪い殺されるというのが定番中の定番ですが、今作もそのフォーマットを序盤でベタ中のベタな描写としてなぞっているものになります。ただ、それはあくまで前フリであり、本筋が始まるのは惨劇が起きた後で生き残った者たちが心霊への復讐を始めるところにあります。除霊・お祓いではなく、「復讐」というところが大きな特徴となっている点だと思います。

 自分としてもホラーは好きですが、心霊ものにはノレないことが多いんですよね。恨みを持って死んで、この世ならざる力で人を殺せるのに、無差別にその暴力が無関係な人々へ向けられる理不尽さにムカついてしまい、恐怖を感じるどころではなくなってしまうんですよね。
 そういう意味では、今作のあらすじを見て、その要望に応えてくれた作品という期待がありましたが、それほど肌に合うものではありませんでした。

 ボケたばあちゃんが復活するのはなかなかにアッパーな展開で、確かにテンション上がるし、生命力を誇示すれば取り憑かれずに対抗出来るというのも理に適っていると思います。ただ、ひたすらに運動をしてしごきを続ける体育会系の感じを、「生命力」とするのに納得がいかないと文系人間には思えてしまうんですよね。
 ビンタは体罰というよりは気付けのためと思えるのですが、全般的に理不尽体育教師なノリのばあちゃんなので、ちょっと受け入れ難いものを感じてしまいました。運動以外にも、生命力を纏う文化的な営みは山ほどあると思います。

 さらに、「サユリ」を追い詰める方法として、倫理観無視の暴力があり、確実に賛否を呼ぶ部分ではありますが、ここも引っかかる部分がありました。こちらも倫理観無視した作品は大好物なのでこの行為自体を問題視するつもりはないのですが、これだと結局「サユリ」の怨念を晴らす行為になってしまい。これまでの心霊ものに多い、大元の怨みを解明して祓う・鎮めるという対処法と同じになっているように思えるんですよね。もっと理不尽に対して、正論的なものでボコボコに殴って欲しいと思ってしまったんですよ。

 原作はきちんと読んでいないので何ですけど、軽く調べたところ、映画と同じように、とある対象への暴力があるものの、怨念の対象ではないので、ちゃんと人質的なダメージを与えている展開のようです。それはそれで倫理観がおかしい気もするのですが、こっちの方が感情・正論的な部分では筋が通っているように思えます。

 さんざん理不尽・悪趣味で彩りながらも、クライマックスで言い訳的にキレイにまとめているのも、ちょっと拍子抜けではありました。ここも原作のラストの方が、復讐ホラーになっているようだし、それでいて倫理観もしっかりしたもののようです。
 白石晃士監督に倫理観を求めるのが間違いかもしれませんが、かと言ってその逆の方向としても振り切れていないように思えます。ちょっと期待とは違う出来の作品でした。
 けど、ゲボ吐くシーンは多く、どれも良い仕事だったと思います。嘔吐をきちんと描くホラーは良いホラー。


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