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映画『オアシス』感想 少女マンガ風味のノワール映画

 清水尋也さんと高杉真宙さんの色気を堪能できる映像作品。けど、それ以上のものになっていないと思います。映画『オアシス』感想です。

 幼馴染だったが"ある事件"を切っ掛けに、別々の道を歩む富井ヒロト(清水尋也)と金森(高杉真宙)。ヒロトは地元のヤクザ・菅原組の構成員、金森は半グレグループの一員となり、薬物売買で勢力を伸ばす半グレ集団と菅原組は一触即発の状態だった。そんな中、"ある事件"によって記憶障害となっていた2人の幼馴染・紅花(伊藤万理華)が街に戻って来る。事件に関わっていた菅原組組長の息子であるタケル(青柳翔)が、紅花と金森に目を付けたことから、3人は窮地に立たされる…という物語。

 多くの映画やドラマに助監督として参加していた岩屋拓郎監督が、映画企画コンペで新人賞を獲得した自身の企画を基にして制作した初長編作品。『渇き。』や『さがす』でも印象的な演技を見せていた清水尋也さん主演の裏社会ものということで、ノワール好きとしては観ておきたくなってしまいました。『サマーフィルムにのって』で健康的なイメージの強い伊藤万理華さんがこういう血生臭い作品に出ているという意外なギャップも気になる部分でした。

 作品のコンセプトとしては、裏社会、犯罪ノワールでありながら、主筋に青春少女漫画的なものを持ってきているというのが大きな特徴ですね。健気で放っておけない、だけど芯の強さを持っている紅花という女性を軸に、ヒロトと金森というイケメンが見守るというものになっています。

 このヒロト演じる清水尋也さんと金森演じる高杉真宙さんの、画としてのカッコ良さが、作品の8割以上の魅力を占めているように思えます。タバコを吸う仕草がこんなにもカッコ良い映画久々ですね。R15+指定ですが、確かに未成年でタバコを真似したがる子が出て来てもおかしくないスタイリッシュさがあります。
 そして、裏社会ノワールらしいギラギラした男の世界を中和するがごとく、紅花の持つ少女漫画風味の爽やかさを加えることで、この3人の主人公の悲壮感を強調する意図があるように思えます。

 ところが、この裏社会描写が、雰囲気はしっかりとあるものの、ディティールとしては雑というか、どうも今一つなんですよね。菅原組の組長(小木茂光)がクスリで稼ぐのを嫌う昔気質のヤクザで、半グレグループと対立しているのは良いとして、その息子のタケルはしっかりヤク射って、元気一杯に半グレリーダーの木村(松浦慎一郎)を目の敵にして暴れているんですよね。それなら親父よりも、半グレと手を組みそうな気がしてしまうので、あまり対立構造の組み立てが巧くないように思えます。

 そして3人にとっての悲劇である「過去の事件」についても、前半でなし崩し的に説明され、その張本人もあっさりと退場してしまうため、映画序盤で「もうやることなくない? 尺余っちゃんじゃないの?」と観ている方としては違う意味でハラハラしてしまいました。そもそも、そんなにあっさり殺せる輩なら、こうなる前に殺すチャンスがあったのではとも思います。

 その後の、隠れ家で3人が味わうことのなかったはずの青春を謳歌するというのが、どうやら作品のメインのようなので、ここを強調するために、お膳立てとしての流血が必要だったのかもしれません。この青春PVのような映像は確かに淡い温もりがあり、なおかつ明日をも知れぬ身の若者3人ということで、陳腐なやり取りも切実なものに変質させる効果があるとも思えます。ただ、紅花の記憶障害の設定が全然活かされていないんですよね、すぐ仲良くなっているし。

 一応、それを経てクライマックスのドンパチもありますが、これもあんまりカタルシスにならないんですよね。助太刀にくる半グレリーダーの木村も、始末のために来ていたはずの組長と兄貴分の若杉(窪塚俊介)も、結局3人に感情が寄り過ぎて、人情に厚い人たちになっていて、正直全員裏社会に向いてない奴らの殺し合いになっているんですよ。全員さっさと足洗って、もっと真っ当な仕事に就いた方が良いはず。

 ただ、半グレにいたアンナ(杏花)が、「ナメてたギャルが殺人マシーン」というキャラだったのは、ちょっと笑ってしまいますが、好みです。B級アクションだったら100点のキャラなんですけどね。ラストで生首片手に見送ってくれるところもいいですね。別に首切り落とす必要ないし、持ってこなくていいだろ、手柄立てたい足軽か。

 ショットのカッコ良さとか、演者の立ち姿とか、繋ぎ合わせれば結構レベル高い映像作品になりそうな気もするんですけど、素材が良いだけに、調理の粗さが目立ってしまった部分は大きいです。もう少し脚本の粗を修正していれば結構な秀作になっていたかもと思わせるポテンシャルは感じました。主演3人のPV的な楽しみ方をするのが一番正しい鑑賞の仕方かもしれません。


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