俳優として 後編
中間発表後から本番終わるまでがこの後編。
改めて当時の自分のSNSを加筆修正しながら書いているとあの時の体験がありありと脳裏に浮かぶ。
本当に苦しい体験だったけど本当に本当に貴重な体験だった。この体験により少し強くなれた気もする。まぁしょんべん漏らした件に関してはご愛嬌で(笑)
この体験を書いていると演劇熱がむくむくと湧き上がってくるから不思議なもんだ。久しぶりにやりたくなってきた。
前編はコチラ
9日目「オフはない」
この日は全チームオフだったが、進捗が遅い我ら韓国チームは昼より稽古。
前の日に合流した台湾の俳優 王さんとも少しでも作品を共有するためには休めない。
まず中間発表の一人芝居の映像をみんなでみる。
言葉を発するのに専念するあまり身体をあまり活用していない。戯曲見ながらだからまぁそうだよなぁ。演じ分けという部分ではあまり変化していない部分が多かった‥っていうかほとんどじゃないか(笑
この後に実質今回の演出になったリュウキを中心に一から細かく作り始める。
彼はおれの特性を見抜き身体からアプローチする演出をする。
身体に負荷をかけるイメージを具体的に伝え、演じ分ける際には呼吸を意識してほしい旨をおれに伝える。
そしてほぼ一人芝居ではあるが王さんが舞台上に存在するという事が物凄く力になっていくのを感じる。王さんは人間の行動を観察しているAIとしての役割。
王さんと一緒にきた通訳の方は非常に気がつかえる人で遅れてきた王さんが早く馴染めるように明るく振舞ってくれ盛り上げてくれているのも大いに救いになった。
やはり人がいるっていうのは嬉しいこと、それだけで泣けてくる。情緒やばいな、おれ。
ある程度やって作品上必要な衣装やらモニターやらを買いにいく。
演出家テウ氏の舞台美術にかけている金額が他のチームと比べ相当なものと聞きよりプレッシャーが強くなる。めちゃくちゃ追い詰められるわ~。
夜一人で稽古していると、他のチームのみんなが花火をするというので参戦。
一時の解放感に心が和む。泣きそうになる。やばいなぁ、おれ。
花火やって酒飲んでみんな楽しそうだなぁ~おれは今楽しいという感覚になれない……余裕がないんだろう。自分の容量を明らかに超えている作品となんとかなんとか踏ん張って向き合っている。
10日目「ボロボロ」
テウ氏(コロナ療養中)にオンラインで繋ぎいろいろと話す。彼には連日の稽古の映像を送っている。それを見たテウ氏の意見を聞く。
やはり現場にいなくて、映像だけだとどうしても細部まで伝わっているか心配になってくる。テウ氏の言葉から少し現場との温度差を感じが、彼の世界を起点にしていて、彼が演出でもあるのでそこをなんとか汲み取って進んでいきたい。
この日も延々と稽古。
この作品は一人芝居っていうのもそうだが恐ろしく体力を使う。
もうボロボロですわ、おれ。
ほぼ一人芝居なのでおれが止まった時点で世界が止まる恐ろしさを感じる。実際台詞詰まったりした時に世界が止まった。これは怖い。
この建物の中には稽古場はニつしかなく午前、午後、夜間と三チームが場所を交代してつかっていた。あぶれたチームは基本二階のみんなが寝たりご飯食べたりするスペースで稽古していた。
中間発表以降位から台湾演出家チームは夜間の稽古をあまりやらなくなっていたので夜間の稽古場は基本日本演出家チームとおれの一人稽古となっていた。
日本演出家チームもギリギリまで稽古、稽古で彼らが藻掻いているのが夜間の隣の稽古場で孤独に一人で稽古しているおれとしても励みになっていた。
自分でもよくわからんが日本の演出家の山田さんはおれの苦しい気持ちがわかってくれそうな気がして顔をみると少し心が軽くなっていた。
11日目「一人芝居にみえる二人芝居」
前の日の映像を見たテウ氏からのチェックをみんなで共有。ものすごい長文に頭を抱える。
稽古が始まり頭のシーンからほぼ演出のリュウキが止めながらやる。
中盤位でリュウキがシーンを止めて、おれと台湾の俳優 王さんのお互いの存在を強く意識するワークをやる事を提案。
二人の繋がりが感じられなかったため、これは効果的だった。
そのあとで中盤から最後までやり、少し間を置いて通す。そしてご飯食べてフィードバックする。
折角二人の繋がりができかけたのに先ほどの通しではそれがなくなっていたことを指摘される。
疲労困憊の身体でもう一度通す。
頭が全然回っていかなく台詞がぐちゃぐちゃになるが強い繋がりを感じた。
それはリュウキが求めていたものでこの作品での二人の関係性なのだろう。
おれはほぼ一人芝居だと思っていた。
確かに構造上ではそう見えるが舞台上にはおれと王さん二つの存在がある。
この存在同士が強く繋がってこそ、この作品は面白くなる。
今更だがスタートラインに気づけた。
まだまだもう少し時間がある。ひたすら戯曲読んで稽古だ。こんなに演劇に向き合ってるのいつ以来だ?
12日目「チームの形」
まずはテウ氏とオンラインでミーティング。
ちなみにテウ氏はコロナ発症後は発熱はしたもののすぐ平熱になり今はめちゃくちゃ元気らしくて稽古行きたくてウズウズしてるとのこと。
前の日のチェックとこれからの進め方などを話す。
その後台湾演出家チームの通しがあったので見させてもらう。
全てを理解することはできないが、ただこのチームのこれまでの歩みというものを強く眩しく見せられた。
人生は出会いと別れがあり、その中でお互いの全てを理解する事など不可能。
出会って、喧嘩したり、遊んだり、助けあったり……そして別れる。
ラスト別れるのを中間発表で知っていたから一番楽しそうなところで泣けてきた。
理解不能な他者と演劇を通して交流するということを今一度考えさせられ、必死な自分の視界が少しだけ広くなっていくのを感じた。
そして自分たち韓国演出家チームはまた稽古に戻る。まずは一度通す。
おれはボロボロだったが台湾の俳優 王さんの存在がどんどん自分にとって強く感じてきた。
おれはこの人と舞台上にいるんだ。一人じゃない!
おれたち韓国演出家チームはとても歪だ。
韓国の演出 テウ氏がコロナでいなくなり、リュウキが演出になり、途中から王さんが参戦、だがこれが自分たちのチームの形なんだろう。
この日抗原検査ではなく、ちゃんとPCR検査にいってやはり陽性だった韓国の演出 テウ氏。
オンラインでめちゃくちゃ咳してたし絶対陽性だろうと思っていたが、彼は最後まで本当に諦めたくなかったんだろう。
彼とはもうこの期間直接会うことは出来ない。
「コイツ何言ってんだ?」と思うところは当初からあったが、彼と一緒に作り始めたから今がある。
オンラインで色々伝わりにくい部分はあるが、そこも考慮して彼と一緒に最後まで戦いたいと思う。
13日目「残り僅か」
ついに小屋入り。
我ら韓国演出家チームは三つのモニターで映像を多様するのでそのチェックも含めて他のチームより一日早く小屋入り。
今回の会場は普段は展示とかイベントとかでつかっている三角のような歪なデカい空間にそれぞれ三チーム場所を設けて舞台を作っていた。
舞台が出来上がっていくにつれてわかっていた事だが、韓国チームだけがガチガチに建て込んでいる‥やりすぎだよ‥テウ氏。そりゃ舞台美術費かかるわ。
テウ氏からモニターに流す映像がなぜか届かないので現場の演出であるリュウキが照明を調整して、仮の映像を用意してとりあえず一度通す。
無意識に外に芝居を向けてしまっていて、王さんの存在を弱めてしまった。もっと王さんに意識を向けなければ。あと会場は思った以上に反響するので、ここも調整しなければいけない。
考えてみればこの作品もあと数回しか出来ない。
より繊細に大胆でかつ丁寧に一回一回を全力でやる事しかおれには出来ない。
相変わらず通すたびに自分の実力不足を痛感させられる作品だが諦めず最後まで戦っていくしかない。
おれはおれ以上の事はできない。
14日目「ゲネプロ」
小屋入り二日目。
なんと……自分たち韓国チームの演出 テウ氏が抗原検査、PCR共々再度やったら陰性でこの日合流した。嘘だろう‥。
いろいろ聞いたら、折角きたんだからなんとか参加させてあげたいという企画の代表の百瀬さんの意図があった。
まだ咳してるが本当に大丈夫なのか?という疑念もあるが(できるだけ彼とは距離をとって話そう)本番一日前になって始めて韓国演出家チームが揃ったんだという不思議な感覚。本当に歪なチームだ(笑
ただ前日にリュウキが照明やら映像やらをスタッフの方々と調整していたものを一から組み直す相変わらずの拘りをみせるテウ氏‥まぁわからんでもないが。ここでおれは初めて映像を確認して安心した。本番までみれなかったらどうしようと思ってたところだ。
この日は全チームの場当たりを行い、ゲネプロへ。
まぁ予想通り場当たりに一番時間かかったのは我ら韓国演出家チームであった。
順番は本番通り台湾→韓国→日本。
個人的には声のボリューム調整や、それぞれ演じ分ける際のより繊細さなど諸々がまだまだやらなければと感じる。あとシステムとの合わせ方ももっと研究せねば。
自分たちのパフォーマンスが終わった後、始めて日本演出家チームの通しを見た。
美しく恐ろしい世界だった。
演出の山田さんに少しだけコンセプトを聞いていたからなのか、おれは富士の樹海に迷いこんで幻想を見てる感覚におそわれた。
見てるコチラ側が自死の間際なのかもしれない…興味深かった。
全チーム終えて、それぞれ短めのフィードバックをして帰宅。次の日はついに本番。
あっという間のような恐ろしく長かったような。
15日目「小便なんかより」
本番①
舞台上でしょべんをもらす……
待機している時から膀胱が怪しかった。
まぁいけるだろうとたかをくくっていたが始まってすぐめちゃくちゃ小便がしたくなる。
「我慢してやり続けるか」or「いっその事放出してしまうか」
前者は意識が我慢する方向にとられてうまくいかない気がしたので後者を選択。
台詞をいいながらズボンからしたたり落ちていく尿。舞台上にどんどん尿が染み込んでいく。
はーすっきりした、これで切りかえてやれるだろうと思っていたが…
おれという人間は予想以上に動揺していた。
びちょびちょのパンツとズボンがいつもとは違う状況を常に頭に残す。
集中しきれず、エンジンが入らない…こなしているだけになってしまった。
やってしまった。あんだけやったのに‥
小便をもらした事よりそこから切り替えれなかったのがめちゃくちゃ悔しい。次の日最後の一回やる機会がある。頭きりかえてやるしかない!
終わってリュウキに言ったら驚いて「え!マジっすか?」と笑っていた。どうやら気づかなかったらしい。ただリュウキは「だからかぁ〜なんか全然集中してないなぁって思ってたんですよ」とも。
小便とかなんかよりそこがやっぱり一番悔やまれる
16日目「得がたい経験」
本番②
個人的には一番いいパフォーマンスだったと思う。大きなミスもなく身体と心を躍動させる事ができた。おれに今出来る事は多分だせた。
終わって本当に解放された気になった。
舞台からはけて膝がくずれて思わず「やっと終わった‥」と呟いている自分に気づく。何の感情かはわからないが目から涙がたれてくる。
始めは韓国の演出家テウ氏の世界観を共有するために時間を費やす。そしてほぼ一人芝居だと…。
そこからテウ氏、演出助手リュウキ、おれで演じ分ける7つの存在を話し作り出し、テウ氏が戯曲を書き始める。テウ氏が戯曲を書き、リュウキが日本語に変換し、おれが7つの存在の演じ方を考える。分担作業の日々。
そして戯曲が完成して、さぁこれからというところでテウ氏がコロナ陽性に。
そこからは現場の演出はリュウキに委ねて、おれと二人で作品を立ち上げる。
そうしていると来日するかわからなかった台湾の俳優 王さんが急遽登場。
正直戸惑ったがおれと王さんの関係性を強くするために稽古を重ねる。それと同時に一人で延々と個人稽古。
小屋入りして現場にテウ氏がまさかの帰還。
そこからテウ氏の生命線であるモニター、映像などのシステムチェックを延々と彼はやっていた。やはり歪なチームだ。
毎日が嵐のような日々でめちゃくちゃストレスはあったが、まずは自分に与えられた役割を必死でやらなければ成立しないのでそこに集中した。
そりゃそうだ!
40分の一人芝居、更に七役を演じわけるという自分の中で最高難度。器用でもなく下手だから兎に角必死にやるしかない。
自分に向き合っている時間が長く本当に本当に辛く大変な日々だったが、最後まで絶対戦い抜くと心に誓い毎日を生きていた。
この経験は本当に忘れないだろう。
そういう意味ではこういう状況に追い込んでくれた様々な人や運命に感謝したい。
なかなかこういう経験はできないものだからとてつもない財産になったと信じている。
余談だけど
終わってまずリュウキと抱き合った。
本当に本当に彼がいなかったら成立していなかった。めちゃくちゃ助けられたし芝居の中身に関しては彼と作ったといってもいい。苦しそうなおれを優しい言葉かけるでもなくちゃんと演出で引っ張っていってくれた。本当に彼のおかげだ。
そして王さんに関していえば少し申し訳なかった気もする。本番が近づいていくに連れておれは周りが見えなくなっていってしまった。助けられていたのに‥。
最後にテウ氏だな。
打ち上げでおれは酔いもありテウ氏に今まで溜まっていた怒りをぶちまけた。
「なぜ国際交流の企画で一人芝居なんだ」
「映像やら構造ばかりでなくそこで演じているものをちゃんと見ているのか」
とかとか色々言ってしまった。ちゃんと答えてくれたがおれのエンジンは止まらなかった。近くにいた人が見かねて
「私は面白かったよ!それでいいじゃない、二人とも!」
と言って無理やり収めたが、おれは煮えたぎっていた。まぁ今思えば八つ当たりだろう。あれは申し訳なかったなぁ。テウ氏がいなかったら一歩目は踏み出せなかった事をちゃんと感謝すべきだった。
最後には抱きあったが時間があれば彼ともっと向き合いたかった。
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