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Rice or Pan

 あれは私がフリーター時代、飲食店で働いていた時のこと——

 リーダーは、歳が私より2つ上の大ベテランで、仕事への姿勢はいつも真剣。正社員からもキッチンメンバーからも慕われ、後輩や新人バイトが楽しく働けているかいつも気を配っているような、尊敬すべきひとだ。後輩からのいじりにも笑って応える懐の広さ。
 そして、英語が大の苦手という一面も持っていた。

 あ、なんかもう続き書かなくてもいい感じですかね?


        【完】


 って、いやいや。是非そのお察しの通りであろうオチの続きも聞いてくれなはれ。悲しかったんだから。

 私が働いていた店舗は海鮮系の飲食店で、蟹、帆立、牡蠣、いくらなど新鮮な海鮮を扱っており、また駅からのアクセスの良さも抜群なためか、外国人観光客の来店が比較的多かった。


 ある日、私がレジ横で事務仕事をしていた時のこと。
 ふと、入り口近くのテーブルで、リーダーが外国人観光客を相手に注文を伺っているのが目に入った。ずいぶんと時間が掛かっている。気になった私は席の近くまで様子を見に行く事にした。

「Rice or pan?」
 リーダーが悲しいくらい素晴らしい笑顔で接客をしている。

「What...?」
 困惑する外国人観光客。そりゃそうだ……。

 当時、当店のランチタイムでは期間限定メニューとしてアクアパッツァ定食を出し始めたところだった。こちらをご注文の際には、セットメニューはご飯にするかパンにするかお客様に選んでいただく必要があった。それを伺いたいらしい。

 このままではお客様に迷惑が掛かってしまうので、私は助け舟を出しに行くことにした。

 念のため断っておきたいのだが、リーダーは本当にお客様思いの誠実な人間なのだ。仕事に真面目で、嘘が付けないような、そんな努力家である。ただ、英語が苦手なだけなのだ。

 そうつまり、彼は今これでも大真面目なのである。

 リーダーの元へ向かう途中、別の席のお客様から声を掛けられてしまった。追加のドリンクを伺いながらもリーダーの方が気になる。

「Ah... rice or pan?」
 いや、身振り手振りを加えても無駄である。なんなら先ほどより発音良さげに言っているのがかえって滑稽で仕方ない。そうではない、発音の問題ではないんだリーダー。

「ライス オア パン!!!」
 大きな声でハッキリ言っても無駄である。

 お客様のビールと焼酎の注文をハンディで送信した私がリーダーの元へ向かおうとした時、ちょうど注文が無事(?)済んだようで、向こうから満足げな様子でリーダーが戻ってきた。

「注文、大丈夫でした?」

「うん! ライスだって……!」

 いや、うん、でしょうね! 食べられる選択肢1つしかなかったもの!

 その後、お客様へはしっかりお詫びし、改めてご希望を伺った。ライスだった。——ライスなんかい!!!

 もちろんリーダーにもしっかり英語を学んで頂いた。
「くそー。英語って難しいなー」
「ドンマイです☆」

 ちなみに、ここでワンポイントアドバイス💡
このシーンではどのように伺えば良かったのでしょうか。

This comes with rice or bread. Which would you like?
(こちらにはライスかパンが付いておりますが、どちらになさいますか?)

 実際はここまで文法に沿って話さなくても伝わる。
Rice or bread?でも十分に伝わります。

ただし!!!
Pan
フライパン🍳という意味になるから気を付けような!!?


「aeuさん、すみません」
 アルバイトの高校生の女の子が声を掛けてきた。
「ん? どしたの?」
「◯◯卓なんですけど……外国人のお客様で、サラダを頼まれたんですけど、ドレッシングを聞かなきゃいけなくて……」

 ははーん。英語でどうドレッシングを伺ったら良いか困っているらしい。
 リーダーのついでに、こちらでも手本を見せますか。

「失礼しまーす!」
 その女の子には後ろで見ていてもらい、私は改めて先程の注文を確認した。メニューを開き、メニュー写真を指差しながら「This one?」「Ya.」「This one?」「Ya.」を繰り返す。

 最後にサラダを指差し「This one?」「Ya.」
 ここでドレッシングを聞く。
「Please choose dressing. Spicy sesame, or Vegetable, or Salt dre——」
 (ドレッシングをお選びください。ピリ辛ごまか、野菜ドレッシングか、塩ドレ——)


「アー。ニホンゴーデ、オネガシマース」


 ま——? え、そんなことあります???
 そんなカタコトのニホンゴでニホンゴヨウキューシマスカ?

 この後、高校生の女の子が見守る中、日本語で
「あ、ドレッシングをお選びいただけます、ピリ辛ごまドレッシングか、野菜ドレッシ——、あ、野菜ですね。かしこまりました」
 なんて注文伺う私の恥ずかしさったら……
 ばつの悪そうな私にリーダーが一言。

「Don't mind☆」

 やかましいわ!!!!!
 くそー! 英語って難しいなー!




【 おまけ 】

 この時の話は後々にも語り継がれ、英語が苦手で後輩からいじられてしまうそんなリーダーが私は大好きだったので、結婚式に出席して頂いた際には、リーダーの卓の「パンおかわり自由」の札だけ特別仕様にして差し上げた。

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 ちなみにリーダーはこの札になんの違和感も感じず気が付かなかったらしく、隣に座っていた後輩くんが気付いて教えてあげたらしい。おーいー(笑)
 パンは沢山おかわりしたってさ。めでたしめでたし。


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