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【読書感想】朱夏(1)
こんにちは。
宮尾登美子・著「朱夏」を読んでいます。
途中ですが、キリが良いので一旦感想を書いておこうと思います。
読み始めた理由
例の如くブックオフで見つけました。
タイトルと表紙の雰囲気と、マイブームの近代中国史に関連した満州の話らしいということが裏表紙に書かれているので読み始めてみました。
このマイブームは「蒼穹の昴」からきているので、興味があるのは(今のところ)1930年代頃までなんですが、朱夏の舞台は1945年頃のようです。
内容・進捗
終戦直前に満州に渡った主人公・綾子の物語です。
娼妓館を営む家の末っ子な綾子が、実家から離れたくて結婚・出産し、夫について満州へ渡って苦労するという話です。
蒼穹の昴はどちらかといえば、帝とか将軍とか政治家とか、どちらかと言えば支配する側や政治側から見た満州が書かれています。
一方で、朱夏では開拓団という庶民の視点で書かれており、読んでいて見える景色が全く異なっています。
例えば、満州国の首都とされる新京についても、蒼穹の昴(天子蒙塵)では立派な建物が並ぶ大都市のような書かれているのに対して、朱夏で綾子が訪れた新京は無味乾燥な建物が多く、”音に聞くヤマトホテルもがっかりするほど小さく”と表現されていたり、路地にはごみが溢れていたりとかなり印書ぐあ異なります。(時代的なものもあるのかもしれませんが…)
蒼穹の昴はファンタジー的な部分もあるので単純に比較できないと思いますが、こういう違いが面白いと感じています。
今は、「第二章 飲馬河」まで読み終わりました。ちょうど終戦したくらいの時期です。
タイトル「朱夏」の意味
「朱夏」を検索すると陰陽五行説思想の説明が出てきます。
「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」を人生に当てはめたもののようで、この説明通りなら朱夏は青春の次で、20台後半~50台くらいまでを指す言葉のようです。
説明によっては、朱夏を”人生の真っ盛りの年代、主に壮年時代を指す言葉として用いられ、人生を愉しみ謳歌する時期、希望や志を育てて成熟させる壮年時代”(参考)と表現しています。
新潮社の説明文では530日間の物語のようなので、綾子の年齢は18~19歳で、どちらかというと青春に当てはまりそうです。
ここまで読んだ感じでは、上記の説明のような”人生真っ盛り”・”人生を愉しみ謳歌する”・”希望や志を育てて成熟させる”という言葉のほうがしっくりきます。
また、今の時点では推測しかできませんが、この満州での暮らしが後の”朱夏”に大きな影響を与えているという意味でタイトルに用いているのかも知れません。
おそらく、綾子は著者自身を写しているので、満州での生活が人生の中で大きな意味を持ちその後の人生を決定づけたのではないかと思います。
満州へ入植した人々の生々しい生活
この本では満州へ入植した開拓団の生々しい生活が表現されています。
日本ではありえないような赤い水や毎日同じものを食べたり、物資の補給が難しいので最低限のものを少しづつ切り崩しながら生活していたり、将来への希望と不安が入り混じった様々な思いが書かれていてて、読んでいるだけで鮮明に想像することが出来ます。(おそらく私の想像よりももっと厳しい状況だと思いますが)
また、開拓団は実はかなり孤立していて、新京等の都会人からは人ととして扱われず、いざ日本が戦争で不利になると周りの満州人からも攻撃されたり、開拓団の中でも出身地で分かれてしまうなど、人間関係という点でも貧しいものがあったようです。
結構衝撃だったのが、満州鉄道の客席内で、身動きできないような満員電車に何時間も乗り続けないといけないとか、風呂に入る人が少ないから異臭が凄いとか。
私は3時間くらい身動きできないとイライラしてしまい外に出たくなって暴れてしまう気がするのですが、当時の状況になれば耐えられるものなのでしょうか。
ずっとつらい状況なのに、時には明るく、希望をもって生活することが出来る綾子や学校関係者は強いな、と驚きでした。
戦時教育
この話が著者の経験を元にしているとすれば、やはり教育の力はすごいと感じました。
こんなにつらい状況でも国のため戦争に勝つため、という希望を持っていて、戦争を怖がっていたのに、いざとなったら日本人として誇りをもって死ぬことを決断できるというのは驚きです。
後半へ
次の章から、今まで生活していた飲馬河からの逃避行が始まりそうです。
綾子たちがどんな運命になるのか気になりますし、朱夏の意味も分かるかもしれません。(著者は1946年に帰国しているようなので多分綾子自身は無事に日本に帰ってくるのではないかと思っています)
今日は以上です。