【読書感想】朱夏(2)
こんにちは。
宮尾登美子・著「朱夏」を読み終わったので感想を書いておきたいと思います。
内容
終戦後、各地で満州人の暴動(日本人攻撃)が広がり、綾子たちが拠点だった飲馬河から逃げるところから始まります。
まずは営城子の難民収容所に移って、1日2杯の高粱粥だけの生活が始まりました。茶碗1杯のおかゆだけで生きていくことの辛さと、それまで家族同然だった学校関係者同士の関係が少し変わっていきました。
営城子で生活している時期は、まだ満州人の暴動が治まっておらず、いつ攻撃されるか分からない窮屈な生活でした。
その後、時間が経つと、満州人にとっても日本人相手の商売の必要性が出てきたのか暴動も治まり、治安も安定してきたらしく、また、日本へ引き揚げることが決定したこともあって、九台に移動して帰国の日が決まるのを待つ生活でした。
最終的には、日本に帰ることが出来たのですが、最後の最後までずっと辛い状況で、特に物語の大部分で乞食のような生活の描写が続けれていて、読むのがつらいとさえ思ってしまう内容でした。
(ちなみに前半についての感想はこちら↓)
とても面白かった=引き込まれた?
表現が正しいか分かりませんが、とても面白い作品でした。
”面白い”というのは、お笑いとかの面白さではなく、話が進むほど感情移入して読むのを止められないような面白さです。
内容的は終戦前後の満州での一個人の生活に焦点を当てていて、個人的にはあまり好んで読むタイプではありませんでした。
しかし、これが文章力というものなのか、読むほどに引き込まれてしまって、600ページくらいで文字も大きくはないのに、後半に行くほど読むスピードが加速しているのを感じました。
読む側を一緒に行動させる
この本を読んでいる最中から感じていた感情を、巻末に掲載されている「『朱夏』の衝撃」で梅原稜子さんが表現してくれていました。
まさに私自身も、主人公と一緒に辛い生活を体験しているような感覚になり、早く抜け出したい、次の場所に行けば良い方向に進むだろう、というような感覚になって、ある意味ではその状況から逃れたくて先を急いで読んだように感じます。
本当に、最初から最後の方までずっと辛くて、現代の暮らしと比較したら全く幸せではないのに、少しいいことがあったり家族で笑ったりしているだけで平和だなと感じられてしまいました。
もちろん私自身が体験したわけではないので、おそらく想像よりもはるかに辛い状況ではあったのだと思うけど、これまで自分が想像することが出来なかったことを追体験させてもらえたと思います。
主人公の心情描写に共感する
主人公の綾子と私自身は境遇が全く違うのですが、何となく共感する部分が多くあったと思います。
文章の中では、綾子の心情描写が多く書かれており、実家で暮らしていた時の父親から受け継いだ考え方や人間としてあるべきことと、それらと相反する行動を取ったり、心の中で他人を侮蔑したりしたときに、それを否定するような考えが出てきたり。
1つの出来事に対して、行動には合わられないけど、様々な考えが頭に浮かび、それを否定したり肯定したりする自分がいる、というのは境遇に関わらず多くの人が共感できるのではないでしょうか。
このような矛盾する考え方が頭の中で交錯している状況を丁寧に表現していることが、追体験したような感覚を強めているのだと思いました。
子供が強い
読者の属性によっていろいろな感じることが変わる作品だと思いました。
私自身も、学生時代や結婚直後だとまた感じることが変わっていたと思います。
子育て中の今だから感じるのは、物語に出てくる子供たちの強さです。
危険な真っ暗な夜を綾子のために診療所へ走る子供や、親の代わりに働いたり小金を稼いだりする小学生や、成長に十分な栄養がなくても健康に成長する綾子の子供等、脇役だけど輝くというか、いろいろ考えさせる表現が多くありました。
こういうのって人の話を聞いてもピンとこないんですが、自分で体験したように錯覚させる文章だからこそ、改めて感じたことでした。
この後が気になる
この作品は日本の土佐に綾子が帰るところで終わります。帰った後のことはあまり書かれておらず、希望にあふれて帰国したものの、戦後の物資が不足する日本でどのような生活をしていくのかとても気になりました。
宮尾登美子さんのことは知らなかったのですが、調べてみると朱夏の前後の時期の小説も出ているようですね。(直接つながっているかどうかは分かりませんが)
さっそくブックオフで「櫂」「春燈」を入手したので、朱夏の余韻が覚めたら読んでみたいと思います。
今日は以上です。