「モガディシュ 脱出までの14日間」『国際問題について考える』なんて真面目に思ってたらエラい目にあう。
どうも、安部スナヲです。
南北の対立から調和をテーマにした韓国映画はたくさんありますが、これほど鑑賞後の後味が良い作品に出会ったことはなかったです。
しかもこの映画、銃撃シーンはプライベートライアン級にして、カーアクションはマッドマックス級。
超ハードコアなエンタメボルテージを保ちつつ、あくまで人間の「何でこうなっちゃうの」というもどかしさも「やっぱり捨てたんもんじゃないよな」という希望も、クッキリと浮き彫りにするという、どう控え目に言っても大傑作です。いやマジで。
【南北妨害合戦】
1990年、国連加盟を目指す大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国はアフリカ諸国から支持を得るため、涙ぐましいロビー活動を行っていました。
映画の第一幕では、ソマリア政府への接近を目論む両国駐在大使館員たちが、お互い足の引っ張り合う様子が、わりとコミカルに描かれています。
まず初手、やっとバーレ大統領とのアポイントを取り付け、ごきげんさんで会談に向かう韓国大使ハン・シンソク(キム・ユンソク)御一行が乗った車が武装グループに襲われます。
大統領への貢ぎ物が詰まったトランクも丸ごと奪われ、困り果てるハン大使ですが、命には代えられません。
とにかく大統領のもとに向かわねばと、急ぎ官邸に駆け込みますが、15分の遅刻を許して貰えず会談アポはチャラに。
途方に暮れるハン大使。
その目の前に追い討ちをかける光景が!
それはまさに今からバーレ大統領との会談にのぞもうとしている宿敵・北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)の姿でした。
そーゆーことか!
さてはさっきオレたちの車が襲われたのもあんちきしょーの仕業やな、けしからん!
ハラワタ煮えくり返ったハン大使はキムチ臭そうな息を荒くしながらリム大使に猛抗議。
だけどリム大使は不遜な態度で何だか余裕をかましてます。
というのも北朝鮮は20年前から外交によりアフリカ諸国との関係を深めて来ました。
ソウル五輪以降に慌ててご機嫌うかがいをしだした韓国よりアドバンテージがあるというわけです。
重ね重ね煮え湯を飲まされたハン大使は、参事官のカン・テジン(チョ・インソク)と画策し、当国外務大臣へ、北朝鮮が反政府軍に武器を売っているという情報をでっち上げ、反撃に出ます。
しかし先方はこれをあっさりスルー。そればかりか腐敗しきったバーレ政権下の外務大臣は「実は息子が2人進学するんだよね」とかなんとか言って逆に賄賂を強請って来る始末。
一体どないなっとんねん!この国は。
【リム大使の決断】
そんな小競り合いをしているうちに、反政府軍の暴発はいっそう激しさを増します。
彼らはバーレ政権に協力する諸外国も敵とみなすという声明を発表し、各国大使館を攻撃しはじめます。
そして12月30日、首都モガディシュに進行。
ここからが本当の地獄です。
空港は閉鎖され通信も断たれしまい、国外に逃げようにも逃げられない諸外国駐在員たち。
そんな中、北朝鮮大使館ファミリーは、テ参事官(ク・ギョファン)がうまく手なずけていた筈の武装グループに襲われ、食糧を奪われたあげく大使館を追われます。
銃撃、爆発、暴行、略奪がそこかしこで横行する中、命からがら中国大使館に逃げ込もうとしますが、そこも襲撃により炎上。なすすべを失います。
切羽詰まったリム大使は「我々の目標は生存することだ」とみなを嗜め、いよいよそれを決意します。
恥を忍び、韓国大使館前でハン大使に救いを呼び掛けるリム大使。
でも如何せん因縁根深い両国。韓国側もそうやすやすと北朝鮮ファミリーを受け入れられません。
スったモんだの押し問答はありましたが、ハン大使の態度や表情は次第に軟化していきます。
何故なら北朝鮮ファミリーには小さな子供たちもいる…
この人は本来、困っている人を放っておけない人なのだということが、その表情から滲みでています。
遂にハン大使は彼らを館内に入れます。
【和解の食卓】
北朝鮮ファミリーを受け入れたハンたちは、とりあえずみなの為に食事を用意します。
長机に並べられた数々の料理を挟んで向かい合う両ファミリー。
ハンはリムに食べるよう促しますが、リムはなかなか箸をつけようとしません。
まず年長者から箸をつけるというのは韓民族の風習ですが、それよりも食事に毒が入ってることを疑っているようです。
まだ疑心暗鬼の様子…。
それを察したハンは、リムの皿と自分の皿を入れ替え、毒など入ってないと証明するかのようにガツガツと皿のものをかき込みます。
リムはようやく安心し、食事に箸をつけます。
年長者のリムがそうしたことをきっかけに、北朝鮮ファミリーは順次、堰を切ったように食事にかかります。
よほど空腹だったのでしょう、みな貪るように食べ、誰もひとことも喋らない静寂と停電の暗がりの中、モシャモシャと忙しない咀嚼音が響きます。
次第に、ひとつの皿に盛られた料理をまるでサッカーかバスケのパス回しみたいにリズミカルに分け合うようになります。
あるタイミングで、ハンの妻キム(キム・ソジン)が荏胡麻に箸を伸ばします。
荏胡麻というのは紫蘇に似た葉っぱで、これを独自の調味料に漬け込んで食べるのですが、必ず葉っぱと葉っぱがくっつくので1枚だけ取るのは困難です。
それをキムがなんとか箸で剥がそうとしてる時、リムの奥さんが下側の葉っぱを箸でおさえて、取りやすくしてあげるのです。
私、ここで泣けて来ました。
ここまでまったく台詞がなく、いっしょに食事をする所作だけで、お互いの心が打ち解けて行く様子を描いて来ました。
そのピークがこの荏胡麻のシーンです。
結局彼らは同じものを食べ、同じ言葉を話す同胞であり、世界中の誰よりも助け合うことができる間柄であることを、この食事シーンによってあらわしているのです。
そうして犬猿の仲であった両国は、少しずつ心を通わせ、この地獄をともに脱出するために手を取り合います。
さて、ここからが佳境。ここまでガッツリあらすじを書いていながら今更勿体つけるのもシラこいですが、一応核心的なネタバレは回避する方針なので、物語の詳細はこの辺で。
果たして脱出なるか?
【こんなカーアクション見たことない】
最初から最後まで見どころだらけの本作ですが、ハイライト中のハイライトはやはりクライマックスのカーアクションシーンでしょう。
終盤からの展開により、ハン・リム両ファミリー13名は籠っていた韓国大使館を脱し、数台の車に分乗してある場所へ向かいます。
しかし街は完全にトチ狂った反政府軍に支配され、さながら北斗の拳の世界。車を走らせようものならすぐさま銃弾の雨あられ、一瞬にして蜂の巣です。
そこで彼らは知恵を絞り、大使館のありったけの本と扉の切れ端、砂袋などを車体に貼りまくり、即席の防護プロテクターを作ります。
とてもユニークなDIYですが、そんな重装備でもご覧の通りこのありさま。
ね、これを見るだけで「一体何が起こったの?」って思いますよね。
とにかく銃撃爆撃が凄まじく、敵も味方もありません。
そこをあぶねーあぶねーと掻い潜って目的地に向け、本の鎧を纏った異様な乗用車がデスロードを爆走します。
もう何が何だかわけがわからない状況の中、銃弾、衝突、スリップ、ドリフトの衝撃が信じられない臨場感で体にズシズシ伝わって来ます。
中でもドローンなどを駆使した、低空飛行で車から車を駆け抜けるカメラワークには、ちょうどジェットコースターに乗っている時に股下がスーとする、あの感覚を味わったほどビビりました。
映画を観わって劇場を出ると、上品な雰囲気の年配女性2人組が呆気にとられた感じで「怖かったわねー、何なのあれは。もう大変」と話していました。
おそらく、普段あまり激しいアクション映画などを観ないタイプだけど、国際問題をテーマにしているというので観に来られた真面目な人たちなのでしょうね。
ご愁傷様です。
出典:
映画「モガディシュ 脱出までの14日間」公式劇場パンフレット