「炎上は見えてなかったインサイト」恐れるべからず、企業コミュニケーションの鉄則
私は、2024年の1年間、日本とイギリスの炎上広告を、市民の声を聴いてつくりなおしてきました。その数は60案以上になります。
私の専門は、広告に取り入れられにくい”一般市民の声”を聴いて、炎上リスクに対応することです。今回はこの専門の視点から、「炎上は見えてなかったインサイト」という新しい視点について、書きたいと思います。
炎上させないことは可能か?
炎上から目を背けたくなってしまう企業人の方々は、多いと思います。炎上は企業にとっては株価が下がる原因になったり、ブランドイメージの低下につながったりするリスクと捉えれがちです。
日々、広告など企業コミュニケーションでの発信内容の炎上可能性に向き合っている企業の方とお話しすると、「最近は何を発信しても炎上するから、何も発信できない」という声をよく耳にします。あちらに配慮すればこちらへの配慮が十分でなくなる。ジェンダーがらみのことは何も言えない、センシティブなトピックを避けていたら、言いたいことが言えなくなってしまった、クリエイティブに尖りがなくなってしまう、そんなお悩みを企業の広報担当者や広告業界の方々から伺ってきました。
炎上はなくならない
確かに、消費者全員に完璧に配慮した企業発信はできません。また、企業の発信したメッセージと、異なる価値観を消費者がもつ限り、炎上をなくすことはできません。
だから、私は「炎上しないようにサポートします!」「炎上しない広告のためのヒント」という主張は誇大だと思うし、炎上対策及びリスク管理として本質的ではないと考えます。
例えば、この新聞社が過去に出した若者向けの広告。SNSでは、男女の対比表現や若者を見下したコピーに批判が集まり、炎上しましたが、この広告に共感した消費者もいたはずです。
(炎上原因の分析詳細は「炎上広告の代案100本ノック」でご覧いただけます。)
炎上する・しないは紙一重で、究極的にはそれぞれの受け手・消費者の価値観の違いでしかありません。これを知っておくことは、企業コミュニケーションのリスク管理の第一歩になります。多様な消費者の価値観を事前に知ろうとすることや、炎上した時に慌てずに済むことにつながるからです。
炎上は悪ではない
企業側の視点で、「炎上はゼロになできない」ということを踏まえると、炎上は、企業が発信内容の制作段階に想定できなかった声や価値観だと捉えることができます。つまり炎上は、企業ととある属性の消費者の、異なる価値観のぶつかり合いであり、企業が今まで想定できていなかった、見えてなかったインサイトの表出であると言えます。
また、消費者の視点からは、企業の発信したメッセージに対して、意見することは社会運動であるという見方もできます。消費者は、企業より経済的にも、社会的にも弱い立場にありますから、企業コミュニケーションを批判・炎上させることは、弱者から強者へのフィードバックとして機能します。このような見方では、炎上はリスクといった悪いものではなく、社会にあるべきコミュニケーションではないでしょうか。
炎上を学びの起点に
企業は、良かれと思って作った広告や発信内容に、想定外の批判が上がることで委縮してしまうことも多いですが、炎上はむしろ、企業が学びの起点として活用することができれば、社会を前進させる事象になり得ます。
だから、将来の炎上リスク対策としては、過去の炎上事例から学ぶことが有益です。
具体的な「炎上を学びの起点にする」方法として、
1つの炎上事例から、広告制作時に広告企業が想定できていたと思われること、できていなかった点を見つけてみてください。
そして、炎上のもととなった投稿や声の背景には、どんな価値観があったのか、考えてみて下さい。このような、消費者の価値観を考える、広告メッセージを多角的にとらえる作業は、知らなかったことを知るプロセスです。
知らなかったことを知ろうとすることは、ジェンダー平等、マイノリティへの配慮などだけでなく、企業コミュニケーションの主な目的である「ターゲットに効果的にアプローチすること」にもつながります。
炎上の問題点
ここまで、「炎上は見えていなかったインサイト・消費者の声である」「炎上は企業にとって学びの起点になり得る」ことを伝えてきましたが、もちろん、SNSでの炎上には問題点もあります。
それは、炎上のもととなる投稿からでは消費者の意見をくみ取りにくい点です。
理由は、
・炎上の元となる投稿は感情的である場合も多い
・企業に改善してほしい点が明確に述べられているわけではない
結果、消費者の批判がストレートに企業に伝えられる事例は少なく、企業が炎上後に消費者の期待通りに対応することは、大変難しいのが現状です。
ではどうやって炎上に対応するか
炎上事例から将来の企業コミュニケーション対策につながらない、炎上してから対応するのでは意味がない、と感じている企業としては、実践のレベルで、どう炎上から学びにつなげるかが課題です。
方法として、当事者の声を聞くこと、チームに多様性を持たせること、議論できる雰囲気づくりをすること、企業コミュニケーションの覚悟の決め方を整備すること、などがあげられます。
これらの具体的な方法については、今後別記事で書いていこうと思います。
今回お伝えしたかったのは、「炎上は悪ではない」と知ること、「炎上は見えていなかったインサイト」と捉えて炎上に向き合うことです。
炎上を恐れるのではなく、それを通じて見えてくる新たなインサイトに目を向けることが、企業のリスク管理として有効であると考えます。
企業が炎上から学び、積極的に消費者の声を取り入れることが、円滑にできるような社会であっててほしいと願います。
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中村ホールデン梨華
Xで『広告炎上チェッカー (@EnjoCheck)』として活動している、AD-LAMP 代表。広告から日本のジェンダー&人権意識を向上させることを目指し、炎上を学びにするための活動を行っています。