広告代理店の営業の業務内容

自分の棚卸し半分、新社会人向けの参考資料半分で、広告代理店の営業の業務内容を分解してみたい。

営業業務

- キーマンを見つける
- 顧客の課題を把握する
- 自社の提供ソリューションのうち顧客が高く評価してくれそうなもの決める
- セールスすると決めたものの必要性を売り込む
- 顧客リストのメンテナンス
- 業務を通じた信頼関係のメンテナンスと紹介のお願い

新規営業が多いか、既存顧客対応が多いかでも比重は異なる。往々にしてあるのは、事業部単位でプロモーション部が設置されている場合、得意先内の担当者異動に伴って別の事業部を開拓することができるので、日頃からどれだけ頼られているか?は後々のアカウント拡大にも影響する。

特に、顧客が高く評価してくれることにフォーカスすることが重要で、値引きして少しでも売上を立てることよりも、利益率を高く維持できるものを売ったり、顧客と一緒に課題を乗り切って苦楽を共にする、など自社の利益を増大させる方向の仕事に注力していくことが大事だ。

マーケティング業務

- 顧客の課題に対して最適なマーケティング戦略を決める
- 根拠資料となるオープンデータ収集・ヒアリング
- データ分析(調査・アクセス解析等)
- 各媒体・ソリューションの特性の把握(マスメディア・WEBメディア・PR・イベント・OOH・MAツール・DMP等々)

マーケティング支援会社である以上、マーケターである顧客と対応或いはそれ以上に会話できないといけない。大きな会社であれば営業と一緒に考えてくれるスタッフがアサインできることもあるが、予算が少ないと人件費も割けないのである程度は営業でもできなければならない。

マーケティング施策で予算を投下すべきターゲットは誰か?訴求すべき内容は何か?誰から攻めていくのか?どんな手段を主に使うのか?といったマーケティング戦略~戦術のアウトラインを決めていく。

ターゲットのインサイトを考える上で、心理学・社会心理学、データを確認する上でデータサイエンスの知識がいるし、サイトのアクセスデータをSQLで取り出さないといけないケースもあるだろう。

また、予算を投下するターゲットを決めるときに、実際に彼らにアプローチ可能なのか?という実現性の観点から、一通りマーケティングソリューションの知識も求められる。

プランナー業務

- マーケティングの戦術の検討
- PRのストーリーの検討
- メディア選定とその配分・投下時期の検討
- イベントの企画
- キャンペーンの設計

戦略でアウトラインを決めた後の具体的な中身を詰めていく業務。マーケティング業務との線引が明確にあるわけではないが、往々にしてPRやイベントはマーケティング業務担当とは別の専門スタッフをアサインすることになる。

営業が全てを行うことは少ないが、展示会ブースの狙いから逆算した展示の設計やPRにおいて媒体側が喜びかつ商品も売れる内容の検討など、クライアント側の商品知識が必要なケースが多いので、営業が何もしないということは余りない。

メディアのプランニングについては往々にしてプランニングのツールを持っている企業が多いが、全部を網羅しているわけではない。特にWEB広告は経験からアナログに候補媒体を最初に選定する必要がある。WEB広告こそデータドリブンな印象があるかもしれないが、限られた予算であらゆる種類のDSPを取り敢えず始めて後で予算を変えていく、ということは現実にはできないので、予め最低出稿金額を見ながら媒体を絞って施策をスタートする。

クリエイティブ業務

- 動画・グラフィック・Webサイトの企画・構成検討
- 入稿媒体フォーマットの把握
- キャスティングの作法
- 著作権・景品表示法の把握
- クライアントのロゴ・ビジュアルアイデンティティの使用ルール
- Webサイトのルール・SEO・タグ管理
- イベントの大まかな知識

動画もグラフィックもWebサイトも広告代理店で完結することは先ずないので、外部に委託することになる。予算がなければ営業が委託先企業と一緒に作り上げていくが、予算があればクリエイティブの専門スタッフをアサインする方が一般的だ。Webサイトには更にWebサイト担当が別途つくこともある。

実際の撮影やグラフィック制作を営業がすることはないが、商品側の理解は営業が一番勘が働くので、商品を売るのに適切でかつクライアントの社内の決済ライン上で誰もが承認してくれそうな企画を営業が想定する必要がある。また、バナー広告のように頻度多く改訂するものは営業が作る方が本当はクイックだ。

入稿フォーマットの確認は営業が担当することの方が多い。テレビ・新聞・雑誌の入稿方法は数年単位で切り替わっているし、Web広告はかなりの頻度で変わっていく。動画のエンコードに作法があるところもある。特にOOHはWMVで納品するケースがあるのだが、Macユーザーが多い映像制作会社には苦手分野でもあるので営業が理解して適切なフォーマットを指示する必要がある。

キャスティング・著作権・景品表示法など契約や法律関係のケアは営業の分担であることが多い。キャスティングには専門のスタッフ或いは協力会社が立つが、最初の相談時点でどれくらい媒体露出計画があるかなどをとともに出演の承諾のお伺いが必要なので全体を把握している営業が管理しないといけない。また、制作物の著作権特に音楽使用料で誰に幾ら払うのかという確認や、キャンペーン設計の際の表記の注意や景品の金額の制限、更にはクライアントの業界の自主規制の有無などの注意が必要だ。

クリエイティブとくくることに違和感があるが、Webサイト制作やイベントのブース制作などの制作業の基礎的な知識も必要だ。顧客によっては、PHPを使わないこと、といった要件があったり、コーディングのルールがあったりするし、広告のタグをタグマネージャーで入れるのかHTMLにベタ貼りするのかなども決まっている。イベントにおいてはイベント事務局とやり取りが発生するのでインターネット回線の契約の種類など営業が窓口をするにあたって把握が必要なこともある。

また、イベント関連では、基調講演の登壇は誰にするべきか、といったクライアント側の業界の動向を常にウォッチしていないと勘が働かない分野もあるので、実際には日頃からの教養も欠かせない。逆にBtoC担当なら雑誌の人気のモデルは誰か、人気インスタグラマーは誰か、などをウォッチしている場合もあるだろう。

ディレクター業務

- マーケティング戦略に基づいたメンバーの選定
- 各制作物のスケジュール作成と進捗管理
- メンバーの役割分担やモチベーションの調整
- コスト管理
- キャンペーンの問合せ対応
- SNS運用
- 運用型広告の進行
- マス媒体の作法
- 顧客への進捗報告

 顧客の課題を把握し大まかな提案の方向を決めた時点で、マーケティングやプランナー、クリエイティブの担当を誰にするのか、誰にお願いするのかという工程がある。PRを中心に設計しようと思うとそれが得意な人を選ぶ必要があるし、Web動画の設計が得意な人、往年の15秒インパクトが得意な人、等々、ときと場合によってメンバーを加えたり変更したりする必要がある。

また、クライアント側の情報を持っているのが営業であるため、キャンペーンのお問合せのクレーマー対策も営業の重要な業務になる。一つの問合せに過剰に丁寧に対応するとゴネ得が発生してクレームを入れなかったユーザーの離反を招くので問合せ対応は常に慎重に進めなければならない。

媒体の買付においては特にマス媒体は様々な作法がある。例えば、新聞社であれば朝日新聞にだけ出稿して読売新聞に出稿しなかった場合、読売新聞社の営業が「何故、朝日新聞だけの出稿なのか?」と連絡をしてくることに明確な選定理由を用意しておかなければならない。それを怠ると読売新聞に出稿したいときに協力的な関係を築きにくくなる。或いは、最初のオーダーから何度も方針転換をすることもマス媒体ではかなり危険だ。何度も社内調整を繰り返させて負担をかけてしまうことになる。明確なルールブックが存在しないので、自分の経験を積み上げるしかない。

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以上が大まかなアウトラインだ。

営業が一人で全部を実行することは稀だが、クライアント側の事情、媒体側の事情、制作サイドの都合などを把握して調整するためには、最低限の知識が必要だし、ソリューション型営業でもあるので顧客の業界とマーケティングの業界と両方の潮流も把握しておかなければならない。その進行業務の傍らで、如何に顧客に対して自社の価値を高く評価してもらうかというリターンも考えなければならないので、単に売り込みの営業トークを憶えたらできる仕事でもないし、ニコニコと前向きなパッションだけがあれば完遂できる仕事でもないし、或いは机上の分析だけができればいい仕事でもない。

大学・大学院で習うことが全て無駄だとは言わないが、研究機関で取得できる専門性よりも業務中に習得すべきドメイン知識の方の比重が高い。他の業界の営業がどういうスキルセットを求められるのかはわからないが、概ねOJTに頼るところが大きいのではないかと思う。