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(約)20年前の広告業界から働き方を思い起こす連載小説 -6- テレビ広告と新聞広告の仕組みと餃子
実際の業務に入る前の約一ヶ月間は、広告業協会主催の研修への参加や支社営業社員との営業同行を行った。
広告業協会の研修はテレビ、新聞、雑誌、ラジオの各媒体や、クリエイティブに関する座学だった。今では考えられないが、2000年初頭のこの頃、インターネット広告の総費用は、ラジオ広告より少なく、また新聞広告の1/10より少なかったはずだ。そのため研修での講座自体が設けられていなかった。
テレビ、新聞、雑誌、ラジオはマスコミ4媒体と呼ばれ、それ以外にOOH(交通広告や看板広告、折り込みチラシなど)があり、また当時はフリーペーパーの興隆が顕著だった。
簡単ではあるが、当時受けた各媒体の特徴などを記しておきたい。
テレビは視聴率1%あたりに値段が設定されている。
例えば合計視聴率として150%購入したいということであれば、仮に1%が10万円だった場合、150を掛け1500万円になる。
この視聴率は関東、関西、中部など地域ごとの世帯人口に対する広告接触率を意味し、例えば関東のテレビ保有世帯人口が100あるとした場合に、その50世帯にテレビ広告を見せたいとなると、50%分を購入するという具合だ。この場合、仮に関東の1%あたりのコストが10万円なら、その数字と50%を掛け算し、500万円ということになる。
ただこの1%あたりのコストが各企業とテレビ局の関係値によって異なるのだ。
私が1%購入するために20万円かかるところが、老舗の大メーカーであれば10万円で購入できるかもしれない。
また地域によって世帯人口が異なることで、関東、関西、中部、その他でそのコストは異なる。
例えば関東は視聴率1%で10世帯に接触できるかもしれないが、中部では同じ1%でも1世帯かもしれない。
すると関東では1%が10万円だが中部では1万円というように世帯人口に合わせた価格設定となる。
テレビ局は視聴率を高めることが売上増に直結する。例えば1時間の番組で視聴率が30%の番組を作れば30%分の広告を売ることができるし、同じ1時間番組でも視聴率が15%なら売れる広告が半減することになる。
そのためテレビ局にとって視聴率が高い番組を制作することは非常に大切なことなのだ。
なお合計100%を超えた合計視聴率、例えば150%などで購入することもあるが、これはひとつの世帯が1.5回テレビ広告を目にするということを意味する。
もちろん一回のテレビ広告視聴で目的が達成されれば最も効率がいい。ただそれはよほどテレビ広告の質が高くインパクトがない限り難しいだろう。
新聞広告は基本的に枠と段の両方を販売しているが、最も彼らの収益になる広告は段広告だろう。(なお折り込みチラシは新聞社には直接収益はない。なぜならそれは新聞販売業者の収益になるためだ)
新聞1ページを全15段というが、かつて新聞は文字ひとかたまりの行が15段重なる構成となっていたからだ。
そのため1段の面積あたりに金額が設定されており、1ページ全てを購入することを15段といい、見開き全てを購入することを30段という。
1段あたりにコストがついているが、これもテレビ同様に新聞社と各社の関係により価格設定は異なる。
枠の広告では題字の下の広告枠である題字下というものや、記事と記事の間に挟まれるような記事中、ページの右や左の端に突き出るように設けられている突き出し、またラジオテレビ面の中に小さく存在するラテ豆という面があり、他に求人広告などもある。求人広告は基本的には1行ごとに金額が設定されている。
枠広告の金額は面やサイズにより異なるが、発行部数の多い新聞では数10万円から数100万円と幅広い。
枠ものに関しては買い切りという広告代理店が新聞社に特定の枠を予約買いしておく仕組みがあり、人気の枠は特定の広告代理店を必ず通さなくてはならないということもある。
新聞広告枠の買い切りは人気の枠であればいいのだが、広告代理店と新聞社の関係で部数が少ない新聞の面も買い切りとして予約買いすることもある。
なお段の買い切りもあるが、例えば全国紙の新聞一面には出版社の広告が必ず下段に設けられる。
あれは3段分を6つや8つの広告に分けるがこれも買い切りによるものだ。
なお、こうした買い切り枠は支社では新人の私達が売ることになっており、それでも数10万円あるため簡単ではなかった記憶がある。さらに例えば隔週日曜の特定の枠を年間で買い切るなどもあったため、私のあとに新人が入らなかった状況では苦労した。
年末年始になるとさらに新年別刷りの買い切り枠が複数あり、社の先輩から「買い切りは全部お前が埋めろ。決まらないなら年末年始は休むな」などと言われたものだ。
ある年末年始の買い切りは3枠あった。
ひとつは私が決定し、もうひとつは2つ先輩の船元さんが決めてくれた。
最後がどうしても決まらなかったのだが、1つ先輩の高見沢さんが売ることになっていたものの、彼がいっこうに決まる雰囲気がない。
入稿期限ぎりぎりになったため、今思うと顧客には申し訳なかったが私の方で「これを売らないと休みが取れないんです」など話をし買って頂いた。
そうして私も提案内容よりも人間関係でセールスをするようになる。
買い切り枠が全て決定した後、船元さんと二人で栄の路地裏にある餃子屋で忘年会をした。
そこは昔からある餃子屋で、蒸し焼き系の餃子なのだが、薄めで柔らかい食感の皮には小麦の甘みがある。
餃子自体は小ぶりだが、鮮度の良い野菜がたっぷり使われているのだろう、歯ざわりがシャキッとし、海老餃子はそこにぷりっとした食感が加わる。野菜が多めの餡はお腹にやさしく、酢が混ざったあっさり目の醤油タレをつけて食べるとビールがいくらでも進む。
短い年末年始休暇を取り、それからまた買い切りに追いかけられる一年が始まるのだ。
つづく