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(約)20年前の広告業界から働き方を思い起こす連載小説 -9- 折込チラシの基礎知識と台湾ラーメン

私は飛び込み営業の初日、ある英会話塾で新聞折込チラシの相談に発展することになった。
その英会話塾はフランチャイズ方式のようで、数箇所に塾があったので、折り込みチラシは確かに適した広告媒体のように思える。当時はインターネット広告が非常に小さく、ほとんどの家庭では新聞を購読していた。

今から思うと、あの規模の英会話塾で折込チラシをやったことがないはずがなく、すでに実施がある企業と比べいかに私の会社が安くなるかを彼らは知りたかったのだと思う。

帰社すると折込チラシの実施について、私のメンターである山田さんに相談する。

すると基礎的なことがわかった。

折込チラシは1枚毎に料金が発生する。
そして、地域、また配布する紙のサイズによっても料金が変わる。
例えば朝日オリコミの料金表(※料金表がわかりやすかったため朝日オリコミを参考にした)を調べると、神奈川県ではAからLまでエリアが細かく異なり、紙の質も普通紙や厚紙、はがき付きによって、一枚配布あたりに約3円から約13円まで変化するのだ。(※2020年1月時点)
したがって複雑にチラシを入れたい場合かなり細かい計算が必要になる。

また新聞毎に折り込まれるため、どの新聞にいれるか決めなくてはならない。

ただ名古屋の場合は中日新聞でほとんどのリーチ率(=広告接触率)を達成できる。

さらに別にチラシ自体の制作費がかかる。
これはかなりの金額変動要因になる。
印刷会社と一緒にデザインもやって配布するか、またデザイナーを入れるかによって変わるし、更にいうと広告代理店の場合制作費にマージンが発生することが基本的なため、印刷会社より価格が上がるかもしれない。

つまり例えば100万世帯に折込チラシを配布を考えており、配布価格が3.5円/1枚の場合、折込費用だけで350万円、追加で制作費がその分発生することになるのだ。

その当時は何もかも未経験ななか、これらを全て把握し、意味を理解することは大変であったし、何より制作に関しては進捗のイメージがほぼ掴めなかった。

現在はわからないが、当時は中日新聞の突き出しサイズが40万円前後だった記憶があるため、比較的お金のかかるものである。

さて再度英語塾と予算関連の話をすると、予算は3~5万円程度だった。

こうなるとまず不可であった。

最初の提案は終了した。

結局、以下のように初心者営業の日々が続いていく。

確率は低いが、やっと担当者に会えた場合、ちょっとヒントをもらい、当時は全く知識がないためそれをひとつひとつ調べ、社内で教えてもらい、様々な理由で決定しない。さらに経験の無さから別の提案や次回訪問のきっかけや人間関係も作れない、という具合だ。

ただ何よりも困ったことは知らないを教えてもらう時に、山田さんがよく怒ることだ。
知らないことを聞いているだけなのだが「なぜ知らないんだ」という理由で怒られる。これは彼の性格によるものだろう。

共感力を高めるというのは先輩上司の立場では非常に重要なことと思うのだが、こうしたトレーニングは今まで聞いたことがあまりない。

共感というか、他人を理解するということはそれだけ難しいことなのだろう。

昇進すること自体、ある意味他人を押しのけることでもあるし、共感性との相性は悪いのかもしれない。

なお山田さんは私がミスをしたりすると「お前は今日は社内で笑うな」などと言ったり、怒鳴り散らすこともあった。こちらも神経を使うことも多かった。

その日は同期の荻窪と名古屋の名物である台湾ラーメンを食べに行った。

台湾ラーメンは全く台湾とは関係が無く、日本で作られた食べ物だそうだ。私は湖南料理に近い気がするが、湖南には麺が無いためオリジナルなのだろう。

牛でとられた琥珀色のスープは、中国醤油と混ざることにより、牛の味が引き立ち、醤油の香りと深い旨味が感じられる。

ただ一番の特徴は、そのスープの上にたっぷりとかけられた、赤唐辛子、牛ひき肉、ニラ、にんにく炒めだ。

赤唐辛子が本当に辛く、初めて食べたときは麺をすするだけで、その辛味成分が喉にダイレクトに攻め立て、むせった記憶がある。

ただ、間違いなくうまい。そのためものすごく辛いが、もう一口、もう一口と病み付きになる。

見た目も鮮やかで、ニラの緑、唐辛子の赤、牛ひき肉の茶、にんにくの白、黄色い麺は食欲をそそる。

そしてこれを、牛肉とにんにくの炒めものを、冷えたビールで一気に流し込むのだ。

中華風貝の酒蒸しのような他のメニューもうまく、気がつくと荻窪と瓶が7~8本になっていた。

さて飛び込み営業で思い出すのは当時流行していたパソコン教室だ。

まだ私も経験が浅かったため、仕事に結びつかずに、散々振り回された。
あれを思い出すと、何というのだろう、やってはいけない営業の典型にはまった気がするのだ。

苦い、いや、辛い思い出である。

(つづく)

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