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パティシエがバリスタになるまで③

前回の「パティシエがバリスタになるまで②」の続きです。バール巡りを始めて、記録用に作った「バールノート」。その話をしたのをきっかけに、当時のバールであった「ある事」を知ります。

新たな楽しみ

休日を利用したイタリアンバール巡りは、気が付けば30人を超えようとしていました。お店毎に異なる豆やマシンでの抽出、バリスタさん毎に違う淹れ方、同じ豆でもバリスタさんによって変わる味の面白さだけでなく、今まで知らなかったイタリアンバールのバンコでの会話も、バール巡りの楽しみの一つになっていました。

最初に訪れたイタリアンバールへ再訪したある日、自分の記録用に「バールノート」をつけている話をしました。バリスタさんは大変興味を持ってくれて、「今度見せてほしい」と言われたので、早速次の休日に持っていきました。「良くこんなにメモ出来ましたね、凄い」と驚かれ、反応が嬉しかったのもあり、もう一軒、再訪したイタリアンバールでもノートを見せて色々話をしました。ただ、そこまで自慢できるものでもなく、あくまで素人の記録ノートなので、その2軒だけでしかノートの話はしませんでした。

それから暫くして、初めて訪れたイタリアンバールで、いつもの様にバンコに立ってエスプレッソを飲み、カプチーノを注文した際、バリスタさんから「あの、間違っていたらすみません。ひょっとして...バールノートをつけている方ですか?」と聞かれたのです。

一瞬、何を言っているのか分からず「何で知っているの!?」と驚きながらも、「はい...、そうですけど、何故知っているのですか?」と聞くとバリスタさんは「やっぱりそうですか!実は、バリスタの間で噂になっているんです。『都内でバール巡りをしていて、バールノートをつけている女性がいる』って。エスプレッソとカプチーノを注文されたら、その人だ、という。」と話してくれました。

今ほどSNSも多様ではなかった時代で、当時のバールのバリスタさんの情報源や人脈は、互いの店に行き、直接コミュニケーションをはかり様々な話をすることで得るという、横の繋がりが濃い世界でした。誰かが退職すれば「○○さんが、こういう理由で辞めて、次は○○へ行くらしい」と、話が瞬く間に広まるほど...。

そんな世界とは全く知らなかった私は、初めて行ったお店で突然、話してもいないバールノートの話をされたことと、自分が知らないところで噂になっていることに、驚きと共に戸惑いと恥ずかしさも感じてしまいました。そして、その噂がどこまで広がっているかも分からない私は、次に初めて行くお店でも知られていたら、こっそりストップウォッチなんて測れないし、また「噂の」と言われたら...と抵抗感が生まれました。

その噂になっている事を知ったのを最後に、私のバール巡りは幕を閉じました。噂にされたり、人から注目されるのが苦手だったのと、30人以上のバリスタさんのエスプレッソは飲めたし、全てではないですが、ノートも違いが見られるまで記録出来たのも、良いタイミングでした。その後は、行きたいイタリアンバールへ再訪する様になりました。


そうこうしている内に、いよいよ新店舗の完成となり、現場でオープンへ向けての研修が始まる日が訪れました。そして待ちに待った現場での研修初日、予想外の光景を目にします。。。



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