記憶の湖
あなたの胸の奥に
ひっそりと広がる湖がある。
誰にも見えない、
誰にも触れられない、
ただあなたの心だけが知る場所。
その湖は、
あなたが流した涙でできている。
届かなかった言葉、
失った夢、
諦めた笑顔が、
ひとしずく、またひとしずく、
静かに溜まっていったのだ。
見上げると、湖面には空が映る。
過ぎ去った日の夕焼けや、
子どもの頃に見た星空が揺れている。
遠い記憶の切れ端が
水の中でそっと手招きをする。
でも、その奥底には、
沈んでいるものがある。
言えなかった「ありがとう」、
間に合わなかった「ごめんね」、
それから、
忘れたふりをした「さようなら」。
私たちは時々、
その湖から目をそらす。
深く覗けば覗くほど、
自分の弱さや痛みが映る気がして怖くなるから。
けれど、
そこにあるのは「弱さ」じゃない。
それは、
あなたが生きてきた証そのものだ。
湖にそっと手を浸してみてほしい。
冷たくて、でも優しい感触が、
あなたの指先を包むだろう。
湖は語りかけてくる。
「よくここまできたね」と。
「そのままのあなたでいい」と。
そして気づくだろう。
その湖は、ただの涙の器じゃない。
光を映す鏡だということに。
過去も、痛みも、失ったものも、
全部抱きしめて輝く、
あなただけの物語だということに。
どうか忘れないで。
その湖は消えない。
けれど、
それはあなたを沈めるものじゃない。
あなたを支え、
どこまでも歩いていける力になるもの。
いつか誰かがその湖を見つけ、
そっと言うだろう。
「美しいね」と。
それは、あなたがずっと探していた言葉だ。