ADHD必見「予備マネジメント」
1.予備とはなにか
まずはじめに、僕の中で「予備」とはなにかを定義したい。
辞書的には「必要な時のために、前もって用意しておくこと。また、そのもの」らしい。
この説明に異論はないはずだ。
しかし、僕はさらに踏み込んで「予備とは強さである」と定義したい。
どういうことか。
例えば、スポーツチームで“常勝軍団“と呼ばれるチームは他のチームとなにがちがうか。
いろいろな要素があるが、僕は「選手層の厚さ」が一番大きいと思っている。
長いシーズン中には、レギュラー選手の調子の波や故障がつきものだ。
シーズン序盤に勝ちまくっているチームでも、一部の選手の実力に頼っていては必ず途中で上位から脱落する。
例えレギュラーの実力は他のチームと拮抗していても、控え、さらには2軍に同じくらいの実力の選手がたくさんいるチームは、終盤の優勝争いに必ず食い込んでくる。
言い方は不適切かもしれないが、このレギュラーの後ろにひかえる選手たちは、強いチームにとっての「予備」といえるだろう。
これが、僕が「予備=強さ」と考える理由だ。
他にもいろいろ例はあるが、ここは先を急ぎたい。
では、僕がADHD特性もちにこそ、予備のマネジメントをすすめる理由を書いていく。
2.物的予備
ADHD特性があると、わすれもの・なくしものと無縁な生活はほぼ不可能になる。
子どもならばおもちゃ、学生ならばプリントや筆記用具、大人なら鍵や書類など、何歳になっても気を抜けば、いつの間にか物は永遠の旅に出てしまう。
そして年齢を重ねるにつれ、ものをわすれたりなくしたりしたときの損害が大きくなる。
物的な所有物の予備をマネジメントすることで、損害を最低限に抑えていくことはADHD特性を抱えながらも幸せに生きていくためには必要不可欠なのだ。
鉄則1️⃣なくさないよう工夫する
どうしても予備が用意できない、もしくはしにくいものについては、絶対なくさないように工夫をしないといけない。
財布・定期・スマホ・鍵などがそうではないだろうか。
僕に関していえば、財布や定期入れは発色がよいカラーリングのもの、かつストラップなどでカバンに取りつけ可能なものを使うようにしている。
(財布は真っ赤っかなので嫌でも目につく)
そして、しまう場所を決めて、使ったらなにがなんでも所定の場所に戻す、を徹底するわけだ。
これで、ものをわすれたりなくしたりはかなり減らせるはずだ。
それ以外の予備が用意できるものについても、まずはなくさない工夫はした方がいい。
鉄則2️⃣それでもなくなりやすいものに予備を用意する
それでもものをわすれたりなくしたりするのがADHD特性のやっかいなところだ。
僕の場合、ペンをよく紛失する。
仕事用の靴下やユニフォームを家に忘れたまま仕事にいってしまうこともしょっちゅうだ。
これらについては、職場に"3回忘れても耐えられるだけの予備"を常に置いてある。
「予備が減ったら補充」を徹底することで、これらをわすれたりなくしたりしても慌てず仕事にとりかかれるのである。
出かけるときに傘を忘れることもとても多かった。
そのため、外出するときにつかうかばんそれぞれに安価なおりたたみ傘を入れてある。
天気予報はみるようにしてるが、それでもふいに雨にふられたときにあわてることはなくなった。
鉄則3️⃣予備はコスパ重視
予備を用意するときのポイントは、とにかくコスパを重視することだ。
必要最低限の機能のものを最安値で買う、という意識で予備を用意するといい。
またしても、ペンの例えになるが、僕はJET STREEMのボールペンを愛用している。
カラーバリエーションも豊富でじつに書き心地がいいが、百均やコンビニでも買えるほどの安価さだ。
よくなくすものにお金をかけすぎると、紛失したときのダメージが大きい。
コスパのいい備品を探してそろえるのも楽しめるとなおいいかもしれない。
このように物的予備を充実させておくことで、ピンチをチャンスに変えられることも多くなるし、なにより余裕をもってことにあたれるようになる。
その波及効果ははかりしれない。
3.時間的予備
ADHD特性があると、注意散漫や過集中によって、やるべきタスクの遂行に人より時間がかかってしまうことが多くなる。
それにより、不幸にも「時間にルーズ」「期限がまもれない」などの不名誉な評価をいただいてしまうのだ。
時間にも「予備」という概念をもちこんでマネジメントしていくといい。
なぜなら、ADHD特性があると、例えば「6月8日終業時間内締切」という期限を伝えられると「6月8日16:59までに出せばいいかー」となりがちだから。
こうなると、期限までに仕上げられなくなることは目にみえている。
なぜなら、優先順位がわからない、無関係なことに気をとられるなどの特性により、計画的にものごとをすすめることが苦手だからだ。
鉄則1️⃣基本的に「遅刻は相手の信用を失う」と心得よ
時間とは相手の命である。
1分待たせるということは相手の人生から1分という時間を奪っていることになる。
僕はこのように考えている。
もちろん気にしない人もいるが遅刻を喜んで受け入れる人はいない。
そして「この人時間にルーズだな…」と思われると、ビジネスの場面では重要な仕事は任せられなくなる。
そうすると出世や収入アップから遠ざかるなど、不利益を被ることになる。
ADHD特性+自堕落な性格が加わると「遅れてもなんとかなるでしょ」と楽天的に考えてしまうかもしれない。
中には「いいよいいよ」と笑って許してくれる人もいるかもしれない。
でも、確実に、相手のあなたに対する信用は減っている。
鉄則2️⃣「マイ期限」を設定する
この章の冒頭でも述べた通り、最終期限ギリギリに照準を合わせては、絶対に間に合わない。
なぜなら、想定外のことがおこるかもしれないから(←ADHDがあると想定外のことはかなりの確率でおこる)。
さらに、これは忘れがちだが、課題や依頼されたものを提出する場合「相手からの手直しの指示」が入ることも想定しておかないといけない。
これも重要な点だが、ビジネスの場では“一発OK”はまずないと考えないといけない。
可能ならば、それをもとに相手の要望を深掘りできる叩き台を提出する期限を設定し、その後手直しを加えた上で最終期限に間に合うよう、大幅な余裕をもたせた「マイ期限」を設定することが望ましい。
そうでなくとも、提出物であればおそくとも最終期限の2日前までに「マイ期限」を設定した方がいいし、アポイントメントをとった上での待ち合わせや面談などでは15分前には指定の場所につけるよう「マイ期限」を設定した方がいい。
要するに、『時間的予備』を意識したスケジュール管理をするわけだ。
実は、人というものは、「なにをもらったか」「なにをしてもらったか」でよろこぶのではなく、「相手が自分のためにどれくらい時間を割いたか」で喜ぶのだ。
期限より早く依頼したものを納めたり、約束の時間よりも早く着いて待っていてくれたら『自分のための時間を優先してくれた』とよろこんでもらえるわけだ。
鉄則3️⃣時間的予備は相手に知られてはいけない
これは、したたかに生きる上で大切なことだが、相手に「時間的な余裕(予備)」を知られないようにしないといけない。
なぜなら、余裕をみせると、次から期限を短縮されるかもしれないからである。
自分は余裕をもって期限に間に合わせるけれど、相手には“ギリギリまで頑張った感“を出すわけだ。
これは時間に限らず、基本的に「予備」は相手にみせてはいけない。
予備などないようにふるまうのがいい。
そして、時間的予備マネジメントの上級者になれば、それを交渉のカードにしてもいい。
例えば「期限までであればもう少しいい製品をお納めできますがいかがでしょう?ただし、その分多少値段が高くなりますが」といった具合だ。
時間の予備をお金に変えるわけだ。
このように、時間的予備をうまくマネジメントすれば、相手の信頼を得られ、自分の選択肢も増えるのだ。
4.その他の予備
ここまでお読みいただけるとおわかりかもしれないが、「予備」という概念は他にも転用できる。
(1) 人脈の予備:
ADHD特性があると人に迷惑をかけてしまうこともおおくなるので、人間関係に支障が出る場合がある。
悪意はないのに人から避けられてしまうことも出てくるだろう。
そんなとき、人脈に予備がないと、さみしいおもいをしたり、仕事でいきづまってしまったりしてしまう。
友人、同僚、趣味の仲間など、どんな人間関係においても、常に「この人がいなくなった場合」を想定して、言葉はわるいが「予備」の人脈を意識的に備えておくことは、決してムダではない。
(2) 資産の予備:
これは経験則だが、ADHD特性があると衝動的に散財してしまいやすくなる。
極端な話だが例を出す。
Aという予定の後にBという予定があり、Aには5000円、Bには30000円の費用がかかるとしよう。
このとき財布に35000円しか入れていないとする。
無関係なことにとらわれやすいADHD特性もちは、きっと途中で「あ、そういえばアレを準備するの忘れてた」となって、衝動的にコンビニに飛び込んでそれを買ってしまうだろう。
そうすると、資金が足りなくなって詰むわけだ。
あらゆる状況に対応できるよう、お金に限らず、資産の予備を用意しておくことは大切だ。
(3) 心の受け皿の予備:
そして、最後になるが、自分の心にも「予備のスペース」を用意しておくことが大切だ。
常に、心の受け皿が限界まで満たされていると、ちょっとしたことでキレやすくなったり、心が折れてしまったりする。
ADHD特性があると、いろんな予定を詰めこんだり、いれものの容量いっぱいまでものを詰めこんでしまいやすい。
意識して、心に予備のスペースを確保しておくことが大事かもしれない。
それには、
などをしていくことで、習慣にしてしまうといい。
5.予備を用意できないものを大切にする
長々と語ったが、人生には「予備」を用意できないものがある。
多くの人にとってそれは「自分」「家族」「無二の親友」「夢」などではないだろうか。
僕が「予備をマネジメントした方がいい」と皆さんにおすすめするのは、ものをなくしてあわてふためいたり、ものをなくすことにビクビクしたりすることによって生じる「時間のロス」「心の余裕のロス」を減らして、メンタルの強さを手に入れてほしいから。
その強さを手に入れることで、予備が用意できない大切なことに全力投球してほしいのだ。
僕自身は予備をマネジメントする意識をもちはじめてから人生が好転した。
ものに対する執着が和らぎ、それにより目の前のタスクに全力投球できるようになった。
家族や友人と会っているときに彼らと向き合う姿勢が変わった。
仕事や勉強に向かうときの集中力が高まった。
同じくADHD特性を抱える人たちが、僕と同じようにQOL(=人生の質)を高められることを切に願っている。
イルハン