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トイレットペーパーマン

ドラッグストアの店内で山積みの
トイレットペーパーが目に飛び混んできた瞬間
にもう分捕って走り出していた12ロール
を抱えて全力疾走している
背後から
声が聞こえる
声が遠ざかる
声から逃げる
幼い我が子の顔が浮かぶ
今年3歳まだまだ目が離せない
気がつくと走り出しているのは遺伝子だろうか
愛する人の顔が浮かぶ
出会ってから10年
結婚して5年
今までもこれからも変わることなく愛しく思うそう信じている
脇腹に痛みを感じる
呼吸がキツイ肺が痛い喉が張り付くが足は止めない
腕が重い
愛しい二人はもうこの世にはいない 
誰も何も恨む事も憎む事も怒る事もできない
肺が痛い
自分の呼吸が煩くて仕方ない
涙なんてすでに出尽くした
これは汗だ
汗が痛い鬱陶しい
過ぎ去った過去は
トイレットペーパーでは拭えない
水にも流せない
足が限界だ
攣ってしまった
片足でひょこひょこ歩く
歩く歩く
背後の声が近づく
正義感の塊が断罪する
ゴールは自分で決める
誰とも競ってはいない
橋が見えてきた
辿り着いた橋から片手で欄干に身を乗り出し
片手でトイレットペーパーを抱えたまま

上空から声が
聞こえる
遠ざかる
トイレットペーパー 
が溶け出す
身体にまとわりつく
塗れる
川に流される
意識が遠ざかる
沈む沈む沈む
998円のpopが脳裏を過ぎって
セカイから滑りおちた

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Cinnamonboy
雨ニモマケズ 風ニモマケズ