《サス経》 朝食のルール変更をした理由
EUはサステナビリティに関して様々なルールを作り、世界の動きをリードしていることには多くの方がお気づきかと思います。ですから、EU域内の規則とはいえ、EUがどのような規則を打ち出すかにはいつも注意をしておく必要があります。
EUがついに朝食に「指令」を出した!
そのEUで、最近とても興味深い「指令(directive)」の改訂が行われたのをご存知でしょうか。ちなみに「指令」はEU法の中で2番目に拘束力が高い法律で、その指令の中で命じられた結果に対して加盟国に拘束力があります。すなわち、その結果を達成すべく、加盟国は国内法を整備するなどしなくてはいけません。
そのような拘束力のある「指令」として、今回改訂されることになったのが「朝食指令」です。ただし、朝食の内容が指定されるというわけではないのでご安心ください。そうではなく、蜂蜜、フルーツジャム、フルーツジュース、牛乳という朝食にお馴染みの商品の成分やその表示、名称についてついてのルールが改訂になるのです。
ハチミツは偽物が多い食品
たとえば蜂蜜ですが、実は蜂蜜はもっとも偽物が多い食品の一つであることをご存知でしょうか? 日本でもスーパーの棚を見ると、安価なものから高級なものまで、実に様々な種類があります。同じ蜂蜜なのになんでこんなに価格が違うのか驚きますし、EU域内産も含めて、遠い海外から輸入されたものが国産の蜂蜜より桁違いに安かったりして、一体どういうことなのだろうと戸惑われたことがある方も多いのではないでしょうか。
まさにそこが問題なのです。安い蜂蜜には、本物の蜂蜜以外の様々な糖分で水増しされていることも少なくないようですし、あるいは安く作れる国が本当の原産国なのに、その原産地がきちんと表示されていない(ロンダリングしてある)場合もあるようです。ですので、EUには「蜂蜜指令」など、そうした問題に対処する指令がいくつかあるのですが、今回の朝食指令は表示についてのルール改訂です。具体的には、蜂蜜の原産国をその重量順に割合と共に明記することが基本的に義務化されました。
より健康的な朝食が取れるように
フルーツジャムとフルーツジュースについては、消費者が糖分の少ない商品を選択しやすくするようにするための改訂です。フルーツジャムについては、一般的なジャムの場合には1kgのうち450g以上の果実を含まなくてはならなくなりました。従来に比べて100gの大幅アップです。エクストラジャムはこれまで450g以上の果実分が必要でしたが、今後は500gと50gの引き上げになります。いずれにしろ、より果実分が多く、砂糖は少なくなるというわけです。
そしてフルーツジュースについては、「低糖フルーツジュース」など、低糖を謳ったカテゴリーが追加され、また「天然の糖分しか含まない」という表示もできるようになります。健康志向の消費者にとっては、商品の選択がしやすくなるわけです。牛乳については、乳糖を含まない粉ミルクを生産・販売することができるようになります。
1月30日に欧州議会とEU理事会がこの改訂について暫定合意をしましたので、今後はそれぞれが正式承認を行い、その後18ヶ月の移行期間を経て正式な運用開始となります、
欧州の真の狙いは?
実は朝食指令自体は20年以上適用されている古いものなのだそうですが、消費者のより健康的な食生活のために、また生物多様性に配慮したEUの農業戦略であるFarm to Fork(農場から食卓まで)戦略に整合性を取る必要があり、また冒頭に述べた偽装蜂蜜への対処という面もあります。もちろん消費者への適切な情報の提供と公正な競争の実施というEUが重視する原則にも従ったものですし、EUの蜂蜜生産者や農家を支援するという経済的な戦略にもなっています。
日本の企業で直接影響を受けるところは少ないでしょうが、消費者としては蜂蜜やジャムなどをより安心して選ぶことができ、もしかしたら欧州産を購入する方が増えるかもしれませんね。だとしたら、まさに欧州の戦略勝ちということになりそうです。
こうしたルールの改訂が行われたときには、どうルールが変わったかを知り、それに対応することはもちろん重要なことですが、それだけでなく、その背景にどんな目的や考えがあるかを知ることはとても役に立つと思います。そして、どんなルールであれば、自社はもとより、私たちの社会を持続可能にできるのかを考えてみるのも良いのではないでしょうか。
サステナブル経営アドバイザー 足立直樹
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)487(2024年3月12日発行)からの転載です。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?