忙しい人のための東洋医学概論【陰陽学説と五行学説】
忙しい人のための東洋医学概論シリーズ。今回は陰陽学説と五行学説となります。
前回の概説はこちらです。
(1)陰陽論
陰陽論はありとあらゆる事象を陰と陽に分けようというものです。白黒付けるゾという気合いのこもった理論です。
ここはイメージで切り抜けるのをオススメします。よってイメージしづらいものには注意が必要です。個人的にイメージしづらいものを中心に解説していきます。
①自然界における陰陽
明(陽)・暗(陰)、熱(陽)・寒(陰)というのは陰陽の漢字からもイメージしやすいと思います。
まずよく間違えやすいのが方角です。私達は「東西南北」といったように並べやすいので、東(陽)・西(陰)/南(陽)・北(陰)のペアで覚えるか、麻雀っぽく「東南西北(トンナンシャーぺー)」で東(陽)・南(陽)・西(陰)・北(陰)もありだと思います。
あとは数字も間違えやすいかと思います。奇数(陽)・偶数(陰)になります。これは姓名判断での画数なんかにも用いられたりするのですが、鍼灸でも灸を据えるときに奇数(陽)にすることがよくあります。1、3、5、7…ですね。きっと「良くなってほしい(陽に転じてほしい)」といった願いのようなものが込められていたのかもしれません。
②人体における陰陽
ここでイメージにづらいのは魂魄でしょうか。
腑(陽)・臓(陰)や気(陽)・血(陰)はここから学習を進めていくと何度か出てくるのでまだ理解しやすいと思います。
魂(陽)・魄(陰)は精神的肉体的活動をつかさどる神霊のことで、魂は精神、魄は肉体をそれぞれ担当しています。
③臓における陰陽
人体を上(陽)・下(陰)/外(陽)・内(陰)/前(陽)・後(陰)で分けられるように各臓もその位置から陰陽に分類することができます。
まずは肝心脾肺腎を陰陽に分けると胸腔内にある臓(心と肺)が陽・腹腔内にある臓(肝脾腎)が陰となります。横隔膜を基準にし、横隔膜上が陽中・横隔膜下が陰中です。
後ほど陰陽論の説明で「可分(かぶん)」というものが出てきます。これは陰陽は分け続けられるという意味を持ちます。
陽中に分類された心と肺もさらに陰陽に分けられます。心が陽・肺が陰。陽中の陽=心、陽中の陰=肺になります。
陰中に分類された肝脾腎も陰陽に分けます。肝が陽・腎が陰。陰中の陽=肝、陰中の陰=腎となります。肝(陽)と腎(陰)の間、つまり中央に位置している脾は至陰とよばれます。
(2)陰陽の特徴
陰陽には対立・互根・制約・消長・転化・可分という特徴があります。
言葉だけ見ると難しそうですが、しかしこの記事は忙しい人のためのものなので、強いて言えば「4択問題にしやすいのは消長・転化・可分」「教科書例文も出題されやすい」の2点をおさえておくと良いと思います。
①対立
陰陽は上下、外内、前後、天地などのそれぞれ相反する属性で成り立つという特徴をもちます。
②互根(依存)
陰陽は一方を欠いては存在しないという特徴があります。先ほどの上下も上がなければ下もありませんし、外内も外がなければ内もありません。
③制約
陰陽は平衡を保つために制約し合っています。どちらかが強すぎたり多すぎたりしてもいけなく、常に平衡を保とうとします。教科書の例文には暑い日には静かに過ごすというものがあり、外部環境に対して活動量で平衡を保とうとしています。個人的にはこの制約という特徴は臨床で重要になると感じます。
④消長
陰陽は不変のものではなく、陰消陽長または陽消陰長といったように量が増減・変化の状態にあるというものです。よく国家試験では「温度変化」「季節変化」という選択肢で出てきます。
例えば季節で例えると、春分になると寒気が衰え夏に向かい、夏至に陰気が生じ始め、秋分になると熱気が衰え冬に向かい、冬至に陽気が生じ始める…といったように陰陽は量を変えながら存在しているのが理解できると思います。
⑤転化
陰陽は一定の程度や段階に達すると相反方向へ転化します。上記で例えた季節変化でも陽がピークに達すると、次第に陰へと転化しているのが分かります。
⑥可分
これは(1)で説明したように陰陽は分け続けられるというものです。例えば太陽と月を陰陽に分類すると、太陽(陽)・月(陰)ですが、月にははっきりと見える満月もあれば全く見えない新月があります。この場合は満月を陽、新月を陰に分類できます。
(3)五行学説
五行学説は様々な現象を5つの性質に分類したものです。まずは5つ、つまり木火土金水の性質を理解することから始まります。
①木
木の性質は曲直です。曲がっていることとまっすぐという意味を持ちます。昇発・条達・伸びやかなという木の成長を表しています。
②火
火の性質は炎上です。メラメラと上に昇るという意味を持ちます。温熱・上昇という火の持つ特徴を表しています。
③土
土の性質は稼穡です。穀物を植え収穫するという意味を持ちます。生化・受納・継承という土の新たなものを生み出す力を表しています。
④金
金の性質は従革です。従順と隔てるという意味を持ちます。粛降・清潔・収斂・変革という金の他を寄せ付けない清涼さや集めて分けるという特徴を表しています。
⑤水
水の性質は潤下です。変化しながら下に向かうという意味を持ちます。寒涼・滋潤・下降という下に向かって流れる水の特徴を表しています。
(4)相生・相克関係
五行には相生(そうせい)と相克(そうこく)という関係性があります。
相生とはある性質が他の性質を生みだす関係性で、相克とはある性質が他の性質を制約している関係性です。
相生は木火土金水木…の順に進んでいきます。木が燃えて火が生じ、火は灰・土を生じ、土が集まり石(金)となり、石が集まり岩盤から水が湧き、水は草木を育て…というように何かを生むというはたらきをします。
例として木生火、土生金といった形で表します。
相克は木土水火金木…の順に進みます。木は土の栄養を奪い、土は水を埋め、水は火を消し、火は金物を精錬し、金物は草木を切る…というように何かを打ち消すというはたらきをします。
こちらは木克土、水克火といったようになります。
補足として乗侮(じょうぶ)という関係性があります。
乗というのは克よりも強い状態であり、侮は本来克される側のものが逆に克している状態です。そのため侮は反克といいます。
ほとんど国家試験で出題されることはありませんが、稀に校内模試レベルでは出題してくる先生もいるので紹介しておきます。
(5)五行色体表
五行色体表は五行に分類されたものの一覧表です。
忙しい人はまず「覚えにくい並びから覚える」のが良いと思います。例えば五方。これは方角を5つに分類したものですが、前回の概説でそれぞれの地域がありましたよね。あれは東南中央西北でした。ここはわりとすんなり覚えられると思うので、もっと複雑で記憶に定着しにくいものに時間を割くことをオススメします。
あと、国家試験では五果・五菜・五畜・五穀はあまり出題されていません。だから覚えなくても良いというわけではありませんが、優先度は少し低いかもしれません。
いくつか解説…というか紹介します。
①五時(五季)
四季(春夏秋冬)に土用を加えたものです。土用は各季節の変わり目にあるので、1年のうち4回あります。火生土の考えから土に土用の長夏が配当しています。
②五能(五化)
五行の性質です。春は動物や植物が生まれる(生)。夏はその動物や植物が成長する(長)。土用は季節の変わり目(化)。秋は動物も減り、植物も枯れる(収)。冬は動物は巣ごもりをし植物は種となる(蔵)。
③五気(五天)
各季節の空気(天候)の状態です。春は風が強く、夏は暑く、長夏は湿気が多く、秋は乾燥し、冬は寒い。
④五音
音階の名前です。並びは角徴宮商羽ですが、最も低いのは宮で商角徴羽の順で高くなります。
⑤五臭
自然界の臭いです。臊はあぶらくさしで羊肉に近い。焦はこげくさしで肉の焦げる臭い。香はかんばしでキビの甘い香り。腥はなまぐさしで生魚の臭い。腐はくされくさしで腐敗臭のような臭い。
⑥五華
陰である五臓の状態が陽の外見に現れる部位です。栄養状態(どれくらい五臓に力があるか)が反映されます。肝の状態は爪、心の状態は顔面、脾の状態は唇、肺の状態は全身の体毛、腎の状態は髪の毛。
⑦五官
五臓がつかさどる感覚器です。五感と対応しているため、肝の目は視力、心の舌は味覚や触覚(あるいは発語)、脾の口は味覚、肺の鼻は嗅覚、腎の耳は聴覚。
⑧五液
五臓に関連して体外に出る液体です。先程の五官ともつながりがあり滋潤しています。涙汗涎(せん)涕(てい)唾があります。涕とは鼻水のことです。涎と唾が混同しやすく、どちらも口なのだから脾ではないかと迷ってしまいますが、恐らくここでいう唾は歯を由来するものと考えているため腎となります。
⑨五体
五臓に関連する身体組織です。筋は靭帯や筋膜などの筋張った組織、血脈は血管、肌肉は脂肪組織など、皮は皮膚、骨はそのまま骨(あるいは骨格や関節)。
⑩五病
五臓の病で起こる症状です。語は多弁など、噫(あい)はゲップ、呑(どん)は胃酸の逆流である呑酸や言いたいことを我慢する呑声、咳は咳嗽、欠はあくび。
と、忙しいと思うのですべての説明は省きますが、とくに後半の人体における五行配当は診断時にも使うため出題頻度は高くなります。
近年の傾向としては色体表のキーワードをバラバラに組み合わせて「相生関係となるのはどれか」「相克関係となるのはどれか」という問題が多い印象です。
例えば「相生関係となる組み合わせはどれか」
1.石−笑
2.桃−冬
3.語−魄
4.棗−羽
といった問題です。相生関係と相克関係の理解が必要であり、かつ選択肢のキーワードが五行のどこに配当されているかを理解していないといけません。
こうした問題はタクソノミーⅡ型といわれ、東洋医学概論に多い出題形式です。タクソノミーに関しては以下の記事でまとめてあります。
結局はこの色体表はすべて覚えなくてはいけなくなるため、最初に提案したように覚えにくい並びから覚えるのが良いと思います。とにかく頻繁に表を見たり、何度も唱えて音で覚えるのもありです。
以上です。お忙しいなかお読みいただき、ありがとうございました。