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【短編小説】 この店で飲み干すのは
彼女はとても自由だ。
振る舞いも言動も、とても自由だ。
それが彼女の魅力となって、彼女に会いにこの店を訪ねる客も少なくない。
彼は少し繊細だ。
人の気持ちを慮りすぎて、自己嫌悪に陥ってしまうほど繊細だ。
それが彼を生きづらくさせていたけれど、彼女の自由さに惹かれ救われて、この店の常連となった。
彼女の友達は常識人だ。
大学を卒業後、お堅い仕事に就いてそれなりに出世もしている。
独身だけどきちんと蓄えもし備えている常識人だ。
でも、彼女の友達だし、この店の常連だ。
彼の友達は裕福だ。
働かなくても暮らすに困らない家系だ。
趣味の一つとして働いてるが、強運の持ち主なのか、労せず功をなしている。
この店に来るのも趣味の一つらしい。
さて、私は?
自由に振り切った生き方は、憧れたけどできなかった。
繊細さはあると思っていたけど、どうやらなかったようで、簡単にいろんな人を傷つけてしまっていた。
常識的な生き方は、したくなかったからしなかった。でも今は、しとけば良かったなと思うことがある。
裕福さは、はなっからなかった。これからもきっと無縁だ。
可もなく不可もなし。
きっとそれが私。
私と彼らの接点は、
この店で共に飲んでいることだけ。
自由だったり繊細だったり、常識人だったり裕福である彼らを
ほんの少し羨ましく思いながら、
小さな劣等感をこっそり私は飲み込むのだ。