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⑯「ゆだね」と「もたれ」

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「ゆだね」と「もたれ」です。

〇前回、緊張とリラックスについてお話ししたので、今回はその続きで、「体の使い方」という側面からリラックスについてのご説明をしたいと思います。

リラックスって脱力すること?

○緊張してカタいままでは柔らかい演技はできない。だからリラックスが必要。そのためにウォーミングアップが大事…といったお話しをしましたが、「力まないようにする」ということは、とにかく「力を抜けばよい」ということではありません。

役者に求められるリラックスは、「何もせず休むこと」ではない

〇「⑥自然にやると自然に見える?」でも、自然に見える演技というものは、いつも通り普通にふるまうことではない、というご説明をしました。「リラックスが大事」と言うと、「じゃあ脱力すればいいのね」と考える人もいますが、柔らかい演技をするためのリラックスと、何もせず体を休んだ状態にしておくことまったく違います
〇前回のお話しと反対のことを言っているように聞こえるかも知れませんが、完全に力を抜いてしまって全身が休んだ状態では演技になりません。演技をするにあたってある種の力の入り方ある種の緊張は不可欠なのです。

身体訓練の重要性

〇きちんとした反応を見せるため、その場面にふさわしい体の状態を見せるために、役者としての余計な緊張はとらなければいけない。けれど、舞台上でしっかり姿を見せたり美しく立ったりスムーズに移動したり、存在感を保ったり、緊迫感や緊張感のある場面を表現したりするためには、役者は私生活ではやらないような上手な体の使い方をする必要があります。

〇きちんとした「型」を求められる伝統芸能や、身体表現を重視する舞台ではもちろん体の使い方が重要となり、それを実現するために様々な訓練を積む必要がありますが、ここで紹介しているような「自然に見える演技」をする上でも、きちんとした体の使い方ができることは必須となります。自然に見える演技をすることは、普段通りの普通の体の使い方をするということではありません。
〇役者として自分の体を使いこなせるようになるために、武道や武術、舞踏などの訓練をすすめる先生も多いと思います。

普通に見えても普通じゃない

〇映像でも舞台でも、演出的に必要で意図されたものでない動き、意味のない動きはじゃまで、余計なものとされるのが一般的です。この一点を見ても、役者にとって自分の体をきちんとコントロールできることが重要であることが分かります。
〇例えば映画のワンシーンで、主人公が車に乗り込んでシートベルトをしめる場面があったとします。初めて乗る車なら、普通ならうまくいかずに二度三度しめなおすこともあるかも知れませんが、演出上「てこずる様子を見せる」必要がなければすっとしめればいいわけで、役者がうまくやれずに手間取っていたらNGで撮り直しということになります。場合によってはあらかじめ練習しておいて、脚の位置や座る深さなどを決めておく必要があるかも知れません。
〇舞台でも、例えばすっと椅子をひいて座ればよい場面で、がたがたと何度も椅子をひいて手間取ったりするのは余計な動きです。演出上意味がないのに、役者が疲れているという理由で姿勢が悪くなったりぐらぐらと動いたりするのもお芝居のじゃまになります。

きちんとした軸 

〇一般的に演技をするための体の使い方として、役者はまずきちんとした「軸」を持って立つことが大切だと言われています。簡単に言えば自分自身でしっかり自分を支えられていて、長時間でもぐらぐらせず立っていられるということです。その上で余計な緊張をとり、力まずスムーズに動くことができること。それができていないと、なかなか演出家や監督の注文通りに演技を見せられなかったりするわけです。
〇武術や舞踏などの心得がある人なら別ですが、最初からきちんと自分の体を使いこなすことはなかなか大変です。しっかり立とうとすれば力みやすいし、リラックスしようとすると軸を失いやすいもの。丹田を意識する、頭のてっぺんに糸があって天から吊るされているように、などいろんな言い方や考え方がありますが、役者個人として演技を勉強する場合は「必ずこのやり方で」という決まりはありません。いろんな人のやり方を参考に、ご自分なりのコツを身に着けていって下さい。
※身体的な表現を重視する劇団や演出家のもとで演技をする場合は、そこでの考え方にそった理論で訓練し、その考え方に基づいた「良い体の使い方」をする必要があります。激しい訓練を伴う場合もありますが、そこで出演すると決めた場合は適応し、要求に応えられるように頑張りましょう。

「ゆだね」と「もたれ」

〇ここでは演技について文章を使ってご説明しているので、実際にお会いして体を動かしてもらいながらレッスンをするようにはいかず、体の使い方となるとなかなかお伝えしにくい部分があります。少しでも皆さんのお役に立てるように、今回は私が大変お世話になり尊敬している武術の先生の言葉をご紹介しておきたいと思います。それは、「ゆだね」と「もたれ」です。すぐにはピンとこなくても、お稽古や練習を繰り返していく中で参考になるかも知れません。良かったら覚えておいて下さい。
「ゆだね」というのは、相手にゆだねること。ひとつの武術の極意です。動画などで中国拳法の達人のおじいさんが、屈強な若い男性の攻撃をはじき返して吹っ飛ばしたりしているのを見たことがあるかも知れません。嘘みたいですが、武術を習得した方は本当にこういったことができます。余計な力を抜いて自然体で立つことによって、どんな攻撃をされても上手に相手の力を使ったり自分の体の重みを使ったりして自由自在に対応することができるのです。「こうしてやるぞ」と力んで身構えないからこそ何でもできる状態。これが「ゆだね」です。(私なりの解釈です。専門家の方から見たら違っているかも知れませんが、ご容赦下さい。)
〇これに対して「もたれ」というのは、力を抜いて相手にもたれかかってしまっている状態。力を抜いている点は同じですが、自分できちんと立てていないので相手に動かれたらすぐバランスを崩してしまい、相手を投げたり倒したりする前に自分が倒れてしまいます。
太極拳に推手という訓練があります。「ゆだね」ができていると上手にできますが、「もたれ」になってしまっているとうまくいきません。興味のある方は動画などでたくさん紹介されているので観てみて下さい。

理想的なリラックス「ゆだね」と、単なる脱力「もたれ」

〇私は武術の先生からこの「ゆだね」と「もたれ」という言葉を教わったとき、「ゆだね」の状態は演技をする上でも理想的な体の使い方なのではないかと感じました。言葉で言うのと実際にできるのとでは話しが違いますが、「もたれ」るのではなく「ゆだね」られるようにしようと意識することで、体の使い方のコツもつかみやすくなるのではないでしょうか?

体の使い方は大切!

〇今回は体の使い方についてお話しさせていただきました。どんなジャンルでも、演技において体の使い方は重要となります。「自然な演技」といっても、ただ楽に体を休ませていればよいわけではない、ということを承知しておいて下さい。

〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

※情報はどなたでもお読みになれるよう無料公開させていただいておりますが、無断での転載や引用等はご遠慮下さい


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