FRIENDLY DOORメンバーが語る 最新版「住まい探し」の実態調査結果とその先の未来
LIFULL HOME‘Sでは、高齢者、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者といった“住宅弱者”と呼ばれる方々に対して理解があり、相談に応じてくれる不動産会社を検索することができるサービスFRIENDLY DOORを運営しています。
このサービスを提供するにあたり、住宅弱者の住まい探しに対する実態や現状の課題を把握することを目的に、住宅弱者の「住まい探し」の実態調査を行っています。
2022年5月25日、この調査の最新の結果を障害者接客チェックリストとともに発表しました。
2年ぶり3回目となる最新の調査結果について、プロジェクトメンバーはどう捉えているのか――今回は、ざっくばらんに語ってもらった様子をお伝えします。
メンバー紹介
社会課題に向き合うACTION FOR ALL、メンバーの関心は?
――ACTION FOR ALLは生きづらさを感じる人たちに寄り添った住まいにまつわるプロジェクトで、参加する社員は皆、有志だと聞いています。FRIENDLY DOORにはさまざまなカテゴリーがありますが、皆さんが特にどんな社会課題に関心があるのか、参加のきっかけなど教えてください。
龔(以下、キョウ):私は日本で育った外国籍当事者なので、なかなか自由に住まいを選択することが難しいと感じた経験があり、このFRIENDLY DOOR事業を立ち上げました。
この事業をやるために私はLIFULLに入社したんです。
斉藤:私の場合、もともと地域活動やボランティアといった社会貢献に関する活動にプライベートでも仕事でも関わったことはなかったんですが、仕事をしていく中で「あれ?」と思うことが増えて、参加したいと思うようになりました。さらに、私事ですが父が他界したあたりから、特に高齢者に関することに関心が向いています。
小関:私は外国籍の方たちに関心があります。賃貸マーケットの営業に携わって9年になるのですが、不動産会社を回っていると「外国籍の人の受け入れをしていない」と聞くケースがありました。
日本に住む外国籍の方が増えていく中で、外国籍の方たちにとって住みやすい国になればいいなと思い、このプロジェクトに参加しました。
鎌田:私は生活困窮者やLGBTQなど、幅広く興味があります。FRIENDLY DOORの活動を知ったのは、入社してだいぶたってからだったのですが、自分の周辺に当事者の方が多くいたことから参加を決めました。
私の母が足が不自由であったり、学生時代からの親友がFtM(※)のLGBTQ当事者で悩んでいる様子を身近で見ていたりしたこともあり、FRIENDLY DOORを介して何かを発信し、少しでも力になれたらなと思って活動に加わりました。
山口:私は学生時代にボランティア活動をしていたこともあり、社会貢献活動にもともと興味がありました。LIFULLに転職したのも、企業として社会課題に取り組むという姿勢に引かれたことが大きいです。入社して自分も何か取り組んでみたいと考えていたときに、FRIENDLY DOORを知りました。活動を知っていくうちに、私も参加したいなと思ったのがきっかけです。
3回目となる調査。前回との違いは?
――では本題にうつりましょう。今回3回目となる住まいの実態調査ですが、前回との差異やポイントを教えてください。
キョウ:前回の調査と大きく異なる点として、今回の調査では、FRIENDLY DOORに新たに“障害者”の検索カテゴリーを追加したことに合わせて、障害者の方にも調査対象にしました。
山口:シングルマザー・ファザー、被災者も調査対象に追加されています。
――シングルマザーの支援は手厚い感じはしますが、ファザーはあまり聞かないですよね。
山口:ひとり親でも、シングルファザーよりシングルマザーのほうが数が圧倒的に多いですし、経済的にも困窮する方が多いので、支援も手厚いんですよね。シングルファザーの方は経済面というより子育てや暮らしの面で困ることが多いそうですが、そこにはなかなか支援がなされていないようです。
キョウ:経済面ではそれほど苦労はないけれど、子育てに関するフォローアップがないのは結構しんどいよなぁと思いますね。
キョウ:また前回との差でいうと、2019年の調査後にLGBTQ接客チェックリストを作成・リリースしたため、これに関する設問を加えました。
2021年4月にLGBTQ接客チェックリストをリリースしたことに対しては、一般層は50%くらいの方が、住宅弱者の方は70%もの方が魅力的だと回答してくださいました。
こうした対応を当事者が求めている、というのが見えたことで「もっとやっていかなきゃな!」と思っています。
――2022年版の結果を受けて、皆さんどんなことを感じましたか?
小関:“在日外国人は他の住宅弱者層以上に、社会的立場を理由とした差別や不平等を感じている”という報告が気になりました。
不動産会社を訪問する際に、住まいの実態調査を使って話をすることがあるのですが、多くの会社で「うちはそんな差別はないよ」「誰でも受け入れていますよ」と言われます。
ですが、こういう結果が出ているということは、不動産会社の知識が伴っていない、意識が向いていないのかもしれないと思いました。
斉藤:今のお話を聞いて思い出したのですが、不動産会社が「フレンドリーですよ」と言っていても、当事者からするとどれくらいフレンドリーなのかが分からない、という課題があるように感じています。
もっと業界がマイノリティの方々にフレンドリーであることを発信していかないとダメかもしれませんね。
――確かに、当事者と接客窓口とで温度差はありそうです。
小関:そうですね、多くの不動産会社がフレンドリーの姿勢であることが当事者の方々にも伝わっていないのかなとも取れますね。
斉藤:それから、“賃貸物件に入居したあと”に不便や困難を経験したスコアが高く出た、という点。暮らし始めた後のほうが困窮している場合が多いのは意外でした。
キョウ:一般層との差が顕著だったのは、“住宅補助など会社への書類を提出する際、ためらいがあった”という項目ですね。特に障害者と被災者、生活困窮者の属性で高く出ていました。
私もこの感覚はなかったので、驚きでした。
会社に対して、障害者であることや被災者であることを伝えていない、公表していないのかもしれません。
キョウ:そのほかにも、“「外国籍」であることを理由に、オーナーもしくは不動産会社から退去を迫られた”“「外国籍」であることを理由に他入居者から差別を受けた”“性別(セクシャリティ/ジェンダー)を理由に、オーナーもしくは不動産会社から退去を迫られた”という回答が多かったのには憤りましたね。
――諸々の審査で問題がないから入居OKとなったのに、おかしいです。
小関:ただ、最初から正直に言うと不動産会社から断られてしまうので、申し込みや契約時には言えなかったというケースはあると思います。
一同:なるほど…。
キョウ:そのほか退居を求められたのは、特に“外国籍”“被災者”“生活困窮者”“バイセクシャル”の方からの回答が多いですね。
探すのも大変だけれど、頑張って探した後に退去勧告されるだなんて、安心した暮らしを維持できない…。つらいと思います。
退居を求められた人がいたということが数値化されて、一般的な人と顕著に差が出ているのは衝撃でしたね。
実態調査から見える住宅弱者をめぐる問題点
キョウ:それと、お部屋探しをする際、住宅弱者の人たちからの“不動産の専門用語が難しく、分からなかった”という声が多かったのが印象的でした。
ポイントの差でいうと、住宅弱者は一般の人の2倍以上、障害者に絞ると約3倍で一番高い数が出ています。
これは、障害者のなかでも知的障害や発達障害のある方の声が、強く反映されたことも考えられます。
用語が難しいがゆえにお部屋情報を探す前段階で止まってしまう、LIFULL HOME’Sにたどり着く前に諦めてしまうことのないように策を講じないと、と感じました。
住宅弱者の人たちの“自分の状況を、どこまで正直に開示すべきか迷った/わからなかった”という回答が、以前の調査と変わらず今回も高かったですね。
その中でも、バイセクシャルや被災者の方の値は高かったです。
――被災地の方が地元を離れて転居先でご苦労なさっているお話はよく聞きますよね。
キョウ:そうですね。「素性を明かしたところで相手が受け止めてくれるか分からない」という不安感があるのかもしれません。
その不安感が変わらず…むしろ上がっている、というのが数値で可視化された印象です。
安心して店舗を訪れることができない理由につながっている、とも思いますね。
鎌田:皆さんがおっしゃっていたところは私も気になっていたのですが、2019年と比べると、LGBTQやシングルマザーなどに関して、不動産会社の認知度は上がっているように思いました。
ですが、それが何かのアクションにつながっているかというと、ある程度つながっているのかもしれませんが、目に見えて増えるほどにはなっていないなと感じました。
山口:それと、全体的な数値で“不便を感じたり、困った経験がある”と答えた方が前回と比べて大幅に増えていたのはショックでしたね。
テクノロジーが進化して社会的にいろいろなものが良くなっているはずなのに、困ったり不便があったりしたのは、問題の根本解決がなされていないことを表しているような気がします。
キョウ:賃貸は基本的に保守的な傾向が強いですよね。
貸主の財産を借りるわけですから、お金の貸し借りと同様で、「どういう人なら貸せるか」という判断基準になってしまうのは必然だと思います。ただ、そこに貸す側のバイアスがいかにかかっているか、この結果を通して分かりました。
――調査結果の中に、“必要最低限の支援も受けられていないと感じる”という設問に対する回答が約4割あったとの調査結果でしたが、この“必要最低限の支援”はどんなことなのでしょう?
キョウ:これは“来店、対応を断られた”ということです。お部屋探しのスタートラインに立てていないですよね。
“断られている”ということ自体に傷つく人も多いと思います。この部分を改善していかないと、最低限の支援を受けられていると感じる割合は上がらないですね。
――“対応をしない”というのは、費用対効率を考えてや、対応のための労力を割けないということなのでしょうか。
キョウ:そうだと思います。
しかし、人口が減少していくといわれている今、高齢者の人口は約3,640万人、LGBTQ当事者は約1,200万人、障害者は約940万人いて、高齢者にいたっては年々数が増えています。そうなると、総人口に住宅弱者が占める割合はどんどん増えていきます。
にもかかわらず、不動産会社がお客様を選んでしまっては、ビジネスとしてこれから厳しくなると思います。長期的な経営目線で考えれば、多様性に対応することは企業存続の観点でも大事ですよね。
今回の結果を踏まえてできることとは?
――今回の結果で、読み解けば読み解くほど、社会課題が見えてきたように思います。結果を踏まえて、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?
キョウ:被災者の層に対してFRIENDLY DOORはあまりアプローチできていないと思っています。
日本国内は災害が多くて、国内に避難している方も多いはずです。
被災者の移住に伴う住宅探しにも、今後取り組んでいきたいですね。
――住宅弱者の方々が「理解ある不動産会社との出会い」を求めているという声、今回も70%近くあるとのことですが、この“出会い”を増やすにはどうしたらいいでしょう?
小関:私は不動産会社の担当者に直接お会いできるので、この結果をもって対応の必要性を営業として働きかけて、理解ある不動産会社の相対的な数を増やしていきたいと思っています。
斉藤:私は、ユーザーへのアプローチの方法を工夫する必要があると考えています。
現行のFRIENDLY DOORのように、理解ある不動産会社の情報をユーザーに向けた紹介は、LGBTQの方や収入のある高齢者など、一般の人と変わりない通信環境のある生活が送れる人は情報にアクセスすることができます。
けれど、生活困窮からスマホを持てない人などは、情報を入手する手段もなければ、入手方法すらも分からない場合があると思うのです。
ですので、そうした情報を得づらい人たちには、不動産会社の存在を直接アプローチするのではなく、当事者の人たちが駆け込む先と連携したり、病院と連携したり、といった方法が必要なのかなと思います。
山口:“理解のある不動産会社がある”ということを知ってもらうためにも、情報発信は続けていきたいですよね。知られていないことがネックになってしまっているのであれば、きちんと情報を伝えて、目に留まる機会を増やすことも大事かなと思います。
鎌田:斉藤さんの話にすごく納得しました。生活困窮者の方や高齢者の方は、媒体自体を検索してどこかに問合せができる手段や方法、知識を持っていないのであれば、そういった人たちが接することの多い病院や役場などの人たちにも知ってもらう必要があると思いましたね。
――この結果を、どのように活用していきたいですか?
キョウ:ユーザーの声に寄り添うことは常に必要ですし、その声をメディアとして発信していく場はほかにないと思います。
LIFULLが「こういう課題があるよ」というのを発信していくことに意義があると思うので、この結果と併せて対応する不動産会社が増えていること、社会が変わってきていることを伝え続けていきたいですね。
山口:不動産会社だけでなく、不動産オーナーにも広げていきたいですよね。
キョウ:そうですね。LIFULLが住宅弱者にフレンドリーな不動産会社を認定していくこともできそうですよね。
――PRIDE指標みたいなことですか?
キョウ:そうそう! 真摯に取り組んでいる不動産会社を称えて、注目してもらうといいですよね。
接客チェックリストをはじめとした診断を行って、評価される場があるといいかなと思います。不動産会社に箔もつきますし。
現状はユーザーが選ぶためのサイトになっていますが、ユーザーに選ばれる不動産会社が集まるサイトとしてFRIENDLY DOORを活用してもらう、そんな流れができるといいですね。
おわりに
通常表面化することのない住宅弱者の住まいの実態。調査結果を読めば読むほどに、切実な声が聞こえてくるようです。
ダイバーシティ・アンド・インクルージョンが声高に言われる中、こうした不便や生きづらさを解消するための努力の必要性とニーズが、現実味を帯びてくる調査結果となりました。これをどう読み解き、どう生かすか。弱者と呼ばれる人たちに対して自分は一体どんなことができるのか、考えてみませんか?
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