『海獣の子供』とリヴィアタンと『ナチュン』
『海獣の子供』を読み始め、かなり好みど真ん中なこの作品。
2巻目ラストが一推しの展開でした。
この巻ラスト、海中で祭りのように微細な海洋生物から魚類、サメに至るまで集まり喰らい尽くす勢いの凄まじい場面が描かれます。
その集約する最後のとどめとばかりに、質量も深海に潜水すると言うその性格からさえも最重量級のマッコウクジラが現れ、口を開き喰らいにに来ると言う。
読み手の感じる圧が最高潮に達するこの一コマ。
ここから次のコマまで含めた2コマの表現の秀逸さが素晴らしくて叫びたくなる一巻でした。
この海棲哺乳類は一見マッコウクジラで、下顎に歯がある作画からも確かめられます。
でも、次のコマ。
実は上顎に歯が萌出しているのですね。
マッコウは上顎に歯は萌出していません。
海洋生物作画ミスとかは五十嵐さんには無いと断言出来るくらい、この一冊、このシーンまででその精緻さを見せつけられていますので、そうなると、これはこのまま正しく受け取って、上顎に歯を持つマッコウ様の生物と言う条件からリヴィアタンだと考えなければいけません。
だとすると、Livyatan melvilleiは中新世中期、1200-1300万年前に生息していた化石で確認される存在であるわけで、一気にこの一コマでこの場面の性格が転じるわけです。
今、この時に行われていると解釈していた海洋現象が、一巻ラストの2コマで一気に時間軸をズラし、それが更にマッコウクジラ以上の時間と言う質量を重ね持ったリヴィアタンによって読者を潰しにかかる鳥肌のおさまらない展開。
作者の恐ろしさに震える作品です。
しかし、『海獣の子供』を読みながら引っかかり引き上げられ無かった既視感が気になりすぎまして。
漫画のイラストもストーリーもわかるのに書名が出てこない居心地の悪さ。
『南国トムソーヤ』でも無く、『マグメル』でもなく。
『滅びし海獣の海』『ブルーホール』『ブルーワールド』の星野作品でもなく。
『いぶき』とか艦隊ものでも無く。
気になりすぎて、最後にはオンライン仮想書架ブクログで管理している読了書籍記録を漁りまくって探り当てたのが『ナチュン』。
そう、コレ。
壮大さもピカイチながらも、その生々しさと毒性もピカイチ。
作者さんは文化人類学者さん。
文化人類学さんが物語ると往々にして、生々しい。
ル=グウィンさんは文化人類学者では無いものの無関係ではないし、上橋奈緒子さんは文化人類学者さんだし。
マリアナ海溝潜航するかのような底知れなさを求めるなら(後味は良くない)『ナチュン』をおすすめします。
綺麗に壮大に行きたいなら『海獣の子供』がおすすめです。