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19YEARS

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19年一緒に暮らした最愛の夫を亡くし、心の空洞から逃げられなかった日々。 少しずつ立ち直っていく過程で、19歳年下の男性と出逢いました。(ほぼノンフィクション)
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#恋

19YEARS #8 この気持ちは

19YEARS #8 この気持ちは

→7より

「気になる人はいないの?」

Cちゃんにそう訊かれたとき、ふいに目の前に浮かんだのは、Sさんだった。そんな自分に、心の中のもう1人の自分が意見する。

「それはいけません」

だって世代が違う。わたしが大学に入学したころ、Sさんはこの世に生まれている。

「歳なんて関係ないよ。いっかいデートしてみたら?」

Cちゃん。なんて軽やかで屈託のないことを。ありえない未来の、あるはずのな

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19YEARS #7 初めて会う人種

19YEARS #7 初めて会う人種

←6より

その人と初めて会ったのは、すすむが亡くなって半年あまり経った、冬の寒い日のことだった。

私は、ささの仲間たちが主催する「朝ごはんの会」に参加するようになっていた。月に一度催されるそれは、藁葺き屋根の古民家に朝7時に集まって、みんなで朝ごはんを作るという会だ。
土間にはかまどがあって、火を起こすところからごはんを炊き、おむすびをこしらえ、汁物を炊く。青空の下で野菜を刻み、シンプルな味の

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19YEARS #6 予言スクリーン

19YEARS #6 予言スクリーン

←5より

2013年7月
ささ、という店へ行くことが日課のようになっていた。カフェのような飲み屋のような店で、お酒が苦手でも、1人でも、気兼ねなく溶け込める。コーヒーもお茶も美味しくて、体に馴染むような食事もあるのだった。
何より、マスターの佇まいが素晴らしくて、心の傷が異常なわたしのことや、他にも道に迷っている人や、体が病んでいる人など、深く癒しを必要としている人々を、大きな愛で包んでくれる存

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19YEARS #5 悲しみの終わり

19YEARS #5 悲しみの終わり

←4より

2013年5月
初めての命日が過ぎた。
車の運転をしている時、突然、はっきりとすすむの声がした。

「あっこ。結婚しろ」
「なに言ってんのよ、わたしあなたの奥さんだよ」
「だって俺、もういないじゃん!」

・・・いない?
・・・本当だ。

わたし、独身だ。
それは夜明けのような感覚だった。真っ暗な夜空に、一筋の朝日がさしたかと思ったら、信じられないくらいのスピードで目の前の景色が照らさ

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19YEARS #4 体ではない存在

19YEARS #4 体ではない存在

←3より

2013年5月
すすむが天に召されて、一年と少しが過ぎた。最近、不思議なことがたびたびある。

あまりにもはっきりと聞こえる彼の声。
「あっこー。なに泣いてんの。俺ここにいるよ」
「そんなにがんばるな。プリンでも食っとけ」
耳のそばで話しかけられているくらい近いその声が聞こえるたび、戸惑う。空耳かと思うのだけれど、なんどもあるので、だんだん慣れてきた。そしてついに会話するようになってき

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