見出し画像

第一回理想のキッチン検討会・座談会

① それぞれの理想への道のり

今回は、以上の内容をご紹介します。

課題だらけのキッチン・阿古真理
建築士の夫とDIYしたキッチンを手放して…綛谷久美さん
収納力抜群のキッチンを持つ広瀬桂子さん
「失われた20年」と語る課題を抱えるつコンさん
近未来的なキッチンの代替品「ミングル」を設置した有賀薫さん

 理想のキッチン検討会は、編集者・作家・料理家の5人が参加しています。全員50代、若い頃の試行錯誤を経て、自分らしいキッチン生活がどのようなものか分かっている年頃。4人は子育ても経験し、これからシニアになる将来像も気になってくる。さまざまな年代のリアルが見える、人生の中継地点にいる人たちです。全員、料理が好きです。
 皆さんのご意見をうかがうことで、阿古が自分の理想のキッチンを探す手がかりを得るため、また、現代のキッチンがユーザー目線になっているのかも合わせて考えたく、座談会をするメンバーとして集まっていただきました。ある程度土台を揃えたメンバーの実感から見える、理想のキッチンとは?
 長めのレポートですが、充実した内容だったので、2回に分けて要約しました。書ききれなかった部分はぜひユーチューブでご覧ください。チャンネル登録もよろしくお願いします。

課題だらけの賃貸キッチン・阿古真理

 まずはそれぞれのキッチンのプロフィールからご紹介します。

阿古・キッチン


阿古は、食と暮らし、ジェンダーをテーマに、トレンドと歴史をウェブメディア、書籍で執筆しています。フリーランスの夫婦2人で築約30年の賃貸マンション暮らしです。キッチンはタカラスタンダードのセットキッチン、I型でカウンターキッチンになっています。幅180×奥行69×高さ80センチです。
後ろにゴミ箱、鍋、電子レンジ、炊飯器などを置くラックを設置し、ミニチェストを置いたので通路幅が約70センチと狭い。1人が作業中は「ちょっとごめんね」と声をかけないと、2人で通れない。一緒に作業することはほぼ不可能です。
 キッチンの入り口の引き戸、廊下を経由してダイニングへの引き戸、と2つドアを開け閉めしないとダイニングと行き来できないので、冷暖房を使う季節は非常に不便。調理台も、洗い篭を置いているので、まな板一つ分しかスペースがない。冷蔵庫から出したものを一時的に置くスペースも、シンクの角と中しかなく、後ろに作った棚も活用して何とか賄っています。狭い!シンクサイズは幅60×奥行42センチです。
 食品保存のスペースも狭いです。基本的に調理台下の引き出しとコンロ下しかない。お茶が好きなので、旅行やイベントで買ってきた紅茶の箱などでギュウギュウになっていることもあります。缶詰なども入りきらず、後ろの棚に置いています。パントリーがぜひ欲しいです。
 また、調理台の高さが80センチしかありません。私が身長162センチ、夫が172センチなので、少なくともあと5センチ欲しい。夫はいつも作業後は「腰が痛い」と言っています。わが家は料理が交代制で、作ってもらったほうが洗い物担当です。

建築士の夫とDIYしたキッチンを手放して…綛谷久美さん

 イカロス出版で料理にとどまらず、航空から就職、語学、留学など幅広い分野を体験し、レシピ本専門のフリー編集者になった綛谷さん。参宮橋で元カレー屋の店舗を拠点に、食の楽しみを広げる日本ガストロノミー協会の理事としても活動しています。このプロの厨房を含め、経験したキッチンは7個
 まずは2008年にセミクローズのI型からフルリフォームし、フルオープンの2列型キッチンにしたDIYキッチンの説明から。綛谷さん宅では夫婦ともに料理しますが、問題は夫さんが180センチ、綛谷さんが153センチと身長差が30センチあること。通常、キッチンは85センチが標準仕様なのですが、シンクを含むダイニングに面した調理台は夫さんに合わせて90センチ、壁側のコンロがある調理台は綛谷さんに合わせて80センチに。「洗い物は高くても何とかなりますけど、火の元が高いとフライパンの柄をひっかけそうで怖い。夫は中華鍋を振るのは低くても何とかなると言う」のがその理由。
 2列にしたため、シンクで洗った野菜をコンロ側に持って行くときに、雫が垂れることが唯一の難点だったそうです。
 2011年に引っ越ししてから使う現在のキッチンは、ダイニングに面したI型で、後ろに冷蔵庫や収納があります。冷蔵庫のすぐ上に配線ダクトが入っているため、これ以上高い冷蔵庫を置けないのが問題。今の冷蔵庫はより高くなっているので、買い替えたらダクトのカバーを外そうか、と検討中。

画像2


 右奥にコンロがあって、壁までのスペースに余裕がないため、大きなフライパンを使った後、右側に置いておくなど一時置き場が確保できません。夫さんと一緒に作業もできない。現在は奥に棚を作って調味料を置いているが、そこが熱を持つのも問題と言います。コンロ前の作りつけ収納を取り外して作業台を広げ、コンロの奥にIHコンロを置こうと考えているそうです。そうすると、2人同時に調理ができます。シンクも狭い。
 ゴミ箱が外から見えるのも嫌で、シンク下にイケアで見つけたピッタリサイズのゴミ箱をセットし、ドアを閉めたら見えなくなるようにしています。

収納力抜群のキッチンを持つ広瀬桂子さん

 マガジンハウスで、料理回りの書籍や『GINZA』などの雑誌を経て、現在は『クロワッサン』編集部にいる広瀬桂子さん。ご家族構成は夫さんとそのお父さん、大学生の息子さんです。20年前に現在の家を建てたため、ショールームをたくさん回ってようやく収納力が十分にあるキッチンを見つけたと言います。トップの写真は、広瀬さん宅のキッチンです。庭に梅を植え、毎年漬ける梅干しのコレクションもお持ちだそうです。
 L型とパントリー・食器棚を兼ねた収納棚を追加したシステムキッチンで、奥行きが62センチもある引き出しは、当時貴重だった奥まで引き出せるフルオープン。シンク横の引き出しはゴミ箱。レール付きなのですが、レールが錆びて一度取り換えたそうです。コンロの横の調味料入れも容量が大きい。コンロ下はガスオーブンを入れました。
 こだわりのポイントはコンロ。フラットでごとくが全面をカバーする形なので、鍋をズルズル引きずって動かすことができる。ただし「ごとくを全部外さないと掃除ができないので、人気がないらしく、6年前にガスが壊れて入れ替えるときに、探すのが大変でした。全面にごとくがかかっていると、鍋を置きっぱなしにできて便利なんです」と広瀬さん。

画像3

 コンロ横にスペースを作るかはずいぶん迷ったのですが、左側が壁なので作らないことにして特に問題ありません。
 シンクの幅51センチに合わせてまな板を特注しました。調理中はまな板を渡し、洗って切って、ボウルに落とす。むちゃ便利です
 調理台は洗い篭などモノを置いているぐらい。シンクとコンロがやや離れていますが、慣れたせいか、特に不便は感じていません。
 後から思い出した、というキッチン購入の物語も興味深かったので、動画には入っていないのですが、ご紹介します。
 あちこち見て回ったキッチンのショールームでは、気に入るものがぜんぜん見つからず困ったそうです。奥行きがないのが致命的で、シンク上の棚がスライド式で降りてくるなど「ヘンに便利そうな設定」も気に入らなかった。
 『クロワッサン』で山本益博さんの新居を紹介する記事を読んで、TOTOと海外メーカーのプルトハウプ共同開発のシステムキッチンが、奥行きが十分あることを知ったとのこと。もう生産を止めるというところを滑り込みで担当者を説得、導入したそうです。
 システムキッチンには問題があるという綛谷さん、広瀬さんのご意見は、次回是非語っていただきたいところです。

「失われた20年」と語る課題を抱えるコンさん

 主婦の友社編集のコンさんは、『主婦の友』、育児雑誌などを経て、現在書籍を担当。2016年に『主婦の友』100年を記念して『ニッポンの主婦100年の食卓』を編集しています。現在、阿古と一緒に令和の食卓の本を作成中。
 マンションを購入して15年。現在は夫さんと二人暮らしで、社会人1年目の息子さんと大学生の娘さんが1人暮らしをしています。皆の話に刺激され、「仕事や子育てに追われてキッチンのことを今まで真剣に考えてこなかった。失われた20年だった」と話すコンさん。
 タカラスタンダードのI型システムキッチンを持つコンさん。新婚時代から不可欠だった食洗機はリンナイのもの、パロマの3口コンロがついています。調理台の高さは85センチ、シンクは幅75センチ×奥行40センチ、調理台の幅は60センチです。
 一番のお気に入りはディスポーザーがついていること。便利な生活にすっかり慣れていたそうですが、子どもの部屋や実家に行って、毎日洗ったり捨てたりするのは面倒だなと感じたそうです。ただ、これまでに2回故障していて、数年前の2回目で交換したそう。
 収納の少なさは悩みのもと。職業柄、鍋などをいただくときも辞退したり、1つ新しいものを買ったら一つ捨てる、という形でやりくりしてきたそうです。
 コンロも交換を検討中。東京ガスの会員で、安くレンタルできるはずなのでしてみようか、と考えているそうです。オーブンはコンベクションの電気オーブンを持っているが、備え付けのガスオーブンが憧れ。調理台も水切り籠を置いたらスペースがなくなってしまうため、「広い調理台があったらどんなに幸せだろう」と考えるそうです。

近未来的なキッチンの代替品「ミングル」を設置した有賀薫さん

 スープ作家としてベストセラーレシピ本を次々と出す有賀薫さん。23年前に購入したマンションに住んでいます。現在は夫さんと二人暮らしですが、4年前に家を出た息子さんがいます。
 マンションを購入して以来20年使ってきたキッチンは、幅22.5×奥行63×高さ82センチのI型で、シンクは幅72×奥行40センチ。コンロは3口。引き出しの奥行45センチ、吊戸棚の奥行40センチ。コンロは当初、広瀬さんと同様のハーマンのもの。かなり料理をハードにしていたせいか、12年で「ガビガビ」に傷んでしまい、2011年からは東京ガスのリースで、フラットなガスコンロにしているそうです。換気扇も5年前に取り替えました。

画像4

 2018年から1年がかりでリノベーションを計画し、まったく新しい考え方のキッチンとダイニングを合体させた、ミングルをダイニングスペースに導入。「キッチン」という呼び名を避けたのは、料理するのが苦痛になっている人が多いから。シングルや共働き夫婦に提案できることを想定して、実験的に導入したものだからです。
 1カ所で料理して食事し後片付けするまでほとんど動くことなくできるよう設計しています。幅95×奥行95×高さ82センチのこたつより一回り大きいサイズ。トップにはIHコンロ。角に丸いシンクがついていて、下に2人分の食器と鍋まで入るパナソニックのビルトイン型食洗機が内蔵されています。不自由なく使えているが、シニアにも向くように感じているそうです。来客があると、「囲炉裏みたいだね」と言われることも

スクリーンショット (15)

 煮る、蒸す、焼くは一通りIHコンロでできるが、換気扇がミングルの上にはないため揚げるは向かないそうです。真上のペンダントライトは、空気清浄機を兼ねているので、簡単な調理には対応できる、といってもニオイは多少残るそうです。課題はあるが、これは実験的な導入と位置付けているから、と有賀さんは言います。
 ミングルを導入し、キッチンスペースをオープンにしたことで収納力が落ち、今まで使ってきた調理道具や食器をかなり捨てたそう。しかし、鍋とスープ皿は増え続け、鍋は現在50個があるそうです。夫さんのアイデアで、撮影にも向くように設置したミングルの後ろの備え付け棚や、後ろの窓際の棚、元のキッチン、そして息子さんの部屋に置いているとか。

 皆それぞれに思い入れがあり、便利・不便を感じています。誰かが欲しいものをほかの人はすでに持っていたりするのは、ベテラン世代だからかもしれません。実際に便利なものを使って本当に便利だったのか、キッチンを探している中で感じた世の中に足りないものなど、これからのディスカッションに大いに期待が持てる自己紹介でした。
 長文にお付き合いありがとうございました。次はディスカッション編に移ります。シンクの広さの話からキッチンの高さ、三口コンロの是非などを語り合います。


 
 



いいなと思ったら応援しよう!