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阿古真理のキッチン探しストーリー第五編 サンワカンパニー「MUJI+KITCHEN」
撮影:田部信子
ユーチューブで自宅のキッチンを紹介する「キッチンツアー」動画では、無印良品の商品の登場頻度がやたらと高い。無印の収納ボックス類、無印のシェルフ。
ずらっと無印のボックスを並べて統一感を演出し、生活感をできるだけなくそうと試みる人が目立つ。みんなにタダで宣伝してもらえるなんて、無印は何てラッキーなんだ。と半ばあきれていたが、いざ自分が引っ越しし、広くなったキッチンに拡充する収納探しをしてみると、結局のところ、無印の商品が割安で汎用性があり、シンプルで使いやすいと気づかされる。
だから、無印のファンは家中を無印でそろえようとするのだし、良品計画も住宅まで造ってしまったのだろう。通常、こうした記事ではブランド名の「無印良品」か「MUJI」で表記を統一すべきだが、ここではあえてファンたちが語る「無印」の呼び名を基本的に使わせてもらう。
そんな無印とコラボしキッチンを作った会社が、大阪に本社を置くサンワカンパニーだ。ほかにもコラボ商品があるらしい。ぜひくわしい話を知りたい、と取材を申し込んだところ、青山にある東京ショールームで、広報課の小林大気さんから話をうかがうことができた。
コラボキッチンは試行錯誤の連続
「当社がコラボレーションをしたのは、良品計画さんが最初です。2013年9月に先方から打診がございまして、『2014年4月を目途に出したい。ついては11月に内覧会をしたいので、試作キッチンを作ってください』というお話でした」と小林さん。半年間という納期は、当時かなりハイスピードで新商品を開発していたサンワカンパニーにとっても相当きつかったそうだ。良品計画側もキッチンの企画は初めてで、開発担当者は大変だったようだ。「詳細の契約、プロモーション、販売方法、価格設定、物流など、商品開発以外の部分でも異なるビジネスモデルの会社とコラボする大変さを知りました」と小林さんは語る。
例えば、品質基準を新しく設定する必要が持ち上がっている。
「当社はベターリビングの基準をベースにしていたのですが、オープン棚のステンレスシェルフキッチンは、従来の引き出しがついたキャビネット構造とは、構成部材も構造もまったく違うので、新たな基準を設定しました。さらに、良品計画さんから発売間近になって耐震検証を求められて困りました。キッチンには、耐震基準がなかったからです。そこで、当社の取引先でもあるパナソニックさんの試験室をお借りして、阪神淡路大震災や東日本大震災級の地震を想定した耐震試験を実施し、合格しての完成となりました。当社とは異なる視点の品質のあり方を学びました」と小林さん。
オープン棚の商品を開発した成果は、のちに発売したステンレスのオープン棚のフレームキッチン「オッソ」シリーズに生かされている。
「当社がマザーズに上場するタイミングと重なったこともあり、無印とのコラボは話題を呼びました。」と小林さんは明かす。
紆余曲折があって売り出した商品は3種類。デザインは良品計画から提案があり、サンワカンパニーの技術で、シンクやコンロ回り、収納、天板などを制作して開発している。
商品化した3つのコラボキッチン
一つ目の商品は、「無印のステンレスユニットシェルフの機能性と収納力をそのままキッチンにした」棚がオープンなオールステンレスの「ステンレスユニットシェルフ・キッチン」。無印のステンレスユニットシェルフに合わせて天板の奥行きは41.5センチ、67センチ、82センチの3サイズとし、専用の金具で連結できるようにした。棚のサイズは、無印のボックス類がちょうど納まる。シンク下には、無印のふたつきゴミ箱が二つぴったり入る。シンク下をオープンにして生ごみ用のゴミ箱を置くのは、私の憧れでもある。プロの厨房みたいなこのキッチンのデザイン、ちょっと好きかも。
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壁づけにしてあるショールームでは奥行きが深過ぎないか少し気になったが、サンワカンパニーのウェブサイトを見ると、ダイニングに面したペニンシュラ型キッチンとして設置した写真がある。これなら、キッチン側とダイニング側の両方から中のモノを取り出せるのでむしろ便利そうだ。サイズは幅86センチから276センチまで、7種類が用意されている。
シンクは、サンワカンパニーが2009年11月にオリジナルキッチンとして発売した「エレバート」シリーズから使われてきた、シャープなデザインがかっこいい、プロ好みの90度の直角仕様だ。
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二つ目は、「システムキッチン オーク材/ウォールナット材」で、無印の製品と引き出しの面材の色を揃えている。家電が置ける食器棚も合わせて開発した。
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こちらは、シンクは一般的な曲面で構成されたデザインで、可動式の水切りプレートを載せられる。引き出しは重さを感じず開け閉めできるうえ、ちょっと押しただけでスーッと全部閉まるサイレントレールを採用。天板も一般的なキッチンの4分の1程度の薄さで、スタイリッシュだ。
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実はこの薄い天板もサンワカンパニーの売りの一つで、この薄さに惚れた高級家具メーカーのカリモクからもコラボの申し出があり、温かみがある木製扉のキッチン「KNSコンパクトキッチン」を2018年から販売している。こちらは、世界最大規模の家具見本市「ミラノ・サローネ」に出品する目的で開発した。
三つ目は、1人暮らしの部屋に置くほか、セカンドキッチンとして使える「ステンレスコンパクトキッチン」。シンク下はオープンで、狭い空間に置いても圧迫感がないのが特徴である。
デザイン性の追求と独自販路に強み
システムキッチンメーカーのキッチンといえば、人工大理石の天板のイメージが強いが、サンワカンパニーはステンレスの天板が充実しているのが特徴で、良品計画とのコラボ商品もすべてステンレスを使っている。小林さんは「無機質な空間、木材質の空間、とどの環境にも合わせやすいのが強みです。そしてお手入れもしやすい。当社の商品は代理店や工務店を介さず購入していただけるので、価格を抑えることが出来ます」と説明する。
話を聞いていると、サンワカンパニーの商品の魅力は、「ミニマリズムを追求した」デザイン性にあるようだ。そして、良品計画もカリモクも、美しいデザイン性を評価しコラボを申し込んでいる。ステンレスでの美しいデザインができるのは、プロ用も制作する高い加工技術を誇る工場と契約しているからだそう。他メーカーが便利機能を打ち出す中、シンプルなデザインを追求する理由は、どうやらサンワカンパニーの歴史にある。
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同社は1979年、大阪市で建築資材の輸入販売からスタートし、イタリアやフランスのキッチンやタイルの輸入販売も行ってきた。2000年からインターネット通販を開始。同時にオリジナルシステムキッチンを開発した。良品計画からコラボの申し出があったのは、事業規模を大きくし上場するため、現場に裁量権を持たせてスピード感を重視していた時期だった。
デザイン性を重視するのは、ヨーロッパのおしゃれなキッチンを扱ってきた経験が大きいようだ。サンワカンパニーも、ミラノサローネへの出品で建築家とコラボする試みで、技術力を高めている。
キッチンメーカーとしては後発の会社ということもあって、インターネットの活用に力を入れる。通販をするだけでなく、広告もSNSなどのデジタル広告を発信。その結果、工務店から施主へサンワカンパニーの商品をすすめるより、施主から指定されて同社のキッチンが導入されるケースが多いという。
「研究熱心な方が多いので、営業担当者が施主から教えられることも多いんです」と小林さん。同社はもしかすると、「余計な機能はいらないから、かっこいいシンプルなキッチンが欲しい」という人たちの需要を掘り起こしたのかもしれない。ちなみに、良品計画とのコラボ商品は、無印のシェルフや家具を持っている施主からの指定がほとんどだという。
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キッチンは通常、メーカー→問屋→卸→工務店→施主、と施主とメーカーの間にいくつもの会社を挟んで取引される。しかし、サンワカンパニーはインターネット通販で直接施主と取引できるので、適正価格で販売できる。
そして、施主の声を直接聞いている。キッチンではまだ、施主からの要望で生まれたモノや機能はないが、収納や階段などでは施主の声を反映した製品が販売されているという。
もしかすると、世の中にあるキッチンが今一つユーザー目線とズレているのは、メーカーにユーザーの声が届きにくいからかもしれない。そしてサンワカンパニーでまだ、ユーザーが求めた機能が加わっていないのは、ユーザー自身もありもののキッチンを受け入れ過ぎていて、本当に使いやすいかあまり考えていないからではないか、と気づかされた取材だった。
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次回は、料理家さんたちによる座談会「料理しやすいキッチンとは?」です。お楽しみに!