「読書感想文」と書いて「恋文」と詠む
去年の夏のはじめ、齢四十にして初めて三島由紀夫を読んだ。きっかけは人妻がもったうっすらとした下心、というところかしら。
職場で仲の良かった同僚が退職することになり、その人が大好きだという本を帰り道に本屋さんで買い、子どもをお迎えに行き、そこから一気に読んだ。本の話ができる知的な女を演出したかっただけかも、という自分の浅はかさに気づきつつも読んだ。
そして「読書感想文、提出ね」と冗談で言われた言葉を真に受けて読書感想文を書いてみた。退職までの限られた日数の中で、何度もページをめくり、気になるフレーズを拾い出し、20数年ぶりに読書感想文を書き上げた。Wordで校正を重ねた文章を「万年筆で、原稿用紙に清書して、白い封筒に入れて」居酒屋で手渡した。
もうね、丸っきり恋文みたい。愉しくて楽しくて笑ってしまった。お気に入りの万年筆を自分の荷物の中から掘り出して、文房具屋さんで原稿用紙を買う。その作業すらもワクワクしてそわそわした。
そして本を読むことも、読書感想文を書くことも楽しかった。もちろん高校生くらいまでは書いた記憶があるけれど、原稿用紙をひたすら埋めるだけのもので、苦行以外の何ものでもなかった。けれど、大人になって書くことは楽しくていやらしくて面白かった。本をじっくり読むこと、自分なりの視点で見えたことと感じたことを書く。自分の心の内をさらけだす。さらりと一読することとこんなにも見え方が変わってくるのか、とちょっとした衝撃だった。
それは、子育てで慌ただしくて本から遠ざかっていた私に(必然的に)締め切りを決めて、分厚い本を読了させるきっかけをくれた大切な機会だった。
あれから時間は経ったけれど。いま、私はここ数年の中で一番はやいペースで本を手に取っている。一度、開いた箱のふたはしまらない。本を選んで、手に取って、開いて、読んで、余韻にひたって、反芻してまた味わう。
さて、今日も本を開いて読書感想文を書いてみるとするかな。