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「わたし」の心をノックしてくれた人

大学時代、剣道部のひとつ上の先輩に
「それは、おもしれーの?ちげーの?どっち?」
という基準で判断をくだしていく人がいた。
6年間のお嬢様女子校という温室を出たばかりの私には、自分のちっさい常識の枠の中にはない言葉で、刮目させられるような出会いだった。
いま、育児の枠の中でつまんないお母さんになっているかもしれない私に、また刮目させてくれる本との出会いがあった。岸田さんとの出会いだ。

私には小学生の子どもがふたりいて、ふたり共、発達障害の特性がある。知的障害はないけれど、一方は度の過ぎるうっかりな日々を過ごし、もう一方は暴れたりすることがあるので、毎日が勉強でなかなか刺激的な生活。方々に謝ったりお願いしたりすることが多いので、低頭平身でいるのがいつの間にかデフォルトになった。

子どもが寝る前に読み聞かせをする家もあると思うのだけれど、うちは岸田奈美さんが『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を出版した9月末から、子どもにこの本を読み聞かせていた。
しばらく前に絵本の読み聞かせは辞めていたけれど、夏に黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』を読んであげたのをきっかけに再開をした。トキワ学園が燃えてしまったあと「何を読もうかねぇ」と迷っていたら、初版が手元に届き、たらればさんとのライブ配信を見ていた私に、娘が「この人の本を次は読んで」と決めてくれた。モニターの中の岸田さんと表紙の岸田家のイラストに惹かれた様子。それで決まった。

読んでいくうちに私の見える世界と、子ども達から見える世界は違うことに改めて気づかされる。告知をしていない子たちに「障害」の説明をするのが難しくてなんとなく避けていたけれど、彼らはそんなこととっくに飛び越えていたらしい。
息子は放課後等デイサービスでダウン症のお友達がいるから、説明をしたら「あ、こんな身近にいるとは」と驚く。そして学校で授業をしてくれている先生だって車いすの先生だ。頭の回転が速くて、息子に細やかな気遣いをしてくださる先生だ。先生の校内での動きは見ていたけれど、「車いすユーザー」という意識があまりないのか(どちらかというと「先生」としての意識が強い様子)、今回の本を読みながら初めて先生の車いすでの生活やその不便さに着目したらしい。デジタルネイティブならぬ障害ネイティブ、みたいなところか。
柔軟でしなやかな価値観を持ちながら成長していることに気づかされ、気持ちがぽっと温かくなり、肩の荷がほんの少しだけ軽くなる。

そして私はといえば。
私も垂れた水風船みたいな産後の乳をマスクメロンに戻すべく、ブラデリスに通っていた身なので首がもげるんじゃないかというほどに頷きながら笑って記事を読んだのが、最初の岸田さんとの出会い。(ちなみに9歳の息子も「ブラデリスニューヨーク」という同級生男児は一人も知らないであろうブランド名を覚え、見たこともないはずの石原裕次郎のメロンに思いをはせつつ、笑いながら繰り返し読んでいる。)でもなかなか全ての記事は読み切れていなくて、今回の書籍で一気に読んで見開いた目が1.3倍大きくなった気がする。

「障害児の親」というのは受容に時間がかかる。そして完全に受容したのかだってわからない。日々心が揺れる。自身の子どものいいところを見つけて、力業でポジティブに転換していっているところだってあるのが正直なところ。けど、良太さんが「世界規模で強い人間が、身内にいたってこと」として発見されたり、「勇気と幸せの連鎖」を広げていったりと岸田さんがしてくれている。お母さんと一緒にミャンマーに行っては托鉢僧ピクミン事件を起こしたりする。(個人的には、お母さんの笛の音で、奈美さんはピクミンのように大学の進むべき道をみつけたのかしら、と思っていた。)

もうね。目からうろこがぼっとぼと落ちるのよね。意識改革。
子どもに「自分の身におきる物事自体には幸不幸なんて特性はなくて、それをどう捉えるかは自分次第だよ。人間万事塞翁が馬だよ」なんて偉そうに繰り返し語っていたくせに。肩ひじ張って、つまんないお堅い価値観にがんじがらめになって、人生を楽しんでいなかったのは自分の方じゃないかー!と気づかされる。

そして難しい育児の中でうっかり鬱になったりしてもいたけれど。あわよくば消えたくなることもあったけれど。くよくよ悩んだり疲れたりして楽しんでいないのは、自分起因でもあったかもしれないと省みる。奈美さんのネガティブでストレートな言葉が自分にリンクして、自分の心がダダ洩れて活字化されてるんじゃないかと思うくらいに素直に聞ける。

そっか。
死ななきゃなんとかなっちゃうんだな。楽しんだもん勝ちだよなぁって。

親になったからにはもちろん責務もあるし、社会的責任も伴う。けど、それにがんじがらめになっていたかもしれない。

もちろん私は人の親でもあるんだけど。それと同時に、もっと自分自身の気持ちは軽やかに、アグレッシブにありたいと思えた。そして「それ、おもしれーの?」の先輩に出会った時のように、この本が、また私の扉を開いてくれたような気持ちがした。
子どもの障害のことは正直大変だけど。おもしろがっていこう。書くことで昇華していこう。

奈美さんの好きなところは「甘やかせば甘やかすほど、堕落していくことに定評がある」ところ。そして目の前の大事なことには、なりふり構わず一生懸命に打ち込むかっこよさと愛らしさ。これ、信じられる。

9月末に読み始めていた本なのに、もちろん読書感想文をあらかじめ書いておくなんて用意周到なことは私はできない。夏休みの宿題は9月に入ってからが本番で、なんなら課題未提出者として黒板左上にずっと名前が書かれていた私だもの。ここからでしょ。

もっと楽しもう。奈美さんのお父さんのように。
悔しいこともおもしろおかしく捉えていく。
これからは自分の身に降りかかることは面白がっていく姿勢でいくわ。
さて。間に合うかはわからないけれど、2冊目の読書感想文を目指して課題図書を手に取るよ!フェス、楽しみたいからね!




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