虐待・マルトリートメントと脳(第二期:第6回②)
少なくとも現代において「心」の在処とされる「脳」が、虐待やマルトリートメントによって「変わってしまう」ことが、脳研究から分かってきました。ここからは、それについて、小児科医で脳科学者でもある友田先生の著書『虐待が脳を変える』を参考に紹介します。より詳しくはそちらをご参照ください。
脳は、人間の身体の中でも解明されていない部分の多い臓器であると言われています。脳はまず、「大脳」、「小脳」、「脳幹」の3つに大きく分かれ、大脳であればそこから「前頭葉」、「頭頂葉」、「後頭葉」、「側頭葉」と別れ、さらに細かく分類されていきます(下図は、場所と名称、機能の概略)。「子どもとの関わり」において、小児科医でも脳科学者でもないかぎり、脳の部位の名称や機能を覚えることは必ずしも重要ではないかもしれません。それでも、「虐待やマルトリートメントが脳を変える」ことを現実のこととして理解するためには、少なくともその際においては必要事項となるはずです。
1.身体的虐待と脳
身体的虐待の影響を受ける部位として紹介されているのは、人格形成に大きく関わる前頭葉にある3個所で、感情や思考、犯罪の抑制に関わる右前頭前野内側部、集中力や意思決定、共感などに関わる右前帯状回、物事を認知する働きに関わる左前頭前野背外側部です。身体への攻撃は脳への攻撃にもなります。また、身体から視床、大脳皮質を繋ぐ「痛みの伝導路」も細くなっていると報告されています。これは、自らの身に頻繁に起こるフィジカルな攻撃への対応として、自らを「痛みに鈍い」状態とする脳の変化のようです。身体への攻撃が無くならないのであれば、「痛み」を小さくしようという脳の適応です。
2.心理的虐待と脳
心理的虐待のひとつである「言語的虐待」は、側頭葉にある「聴覚野」にダメージを与え、面前DVは「視覚野(舌状回)」を過敏にします。それぞれ「聞こえ」と「見え」に影響し、身体的虐待が「痛み」に関連した脳の変化を引き起こしたのと同様に、これらも自らを守ろうとする適応的な変化と言えます。
なお、面前DVと言語的虐待が併存する場合にトラウマ反応が最も重篤になると言われています。身体的な痛みよりも自分の肉親(母親が多い)や自己の尊厳への攻撃の方が深刻というのは注目に値します。暴力を見せることや暴言が、身体的な攻撃よりも深刻な虐待行為であることは覚えておく必要があります。
3.性的虐待と脳
性的虐待の脳への影響は、主に視覚に関わる領域において報告されています。ただし、性的虐待はそもそも発見しづらく、研究対象とするにしてもよりデリケートな内容を扱うことになるため、研究報告自体が少なく、今後の進展が待たれます。それでも、精神疾患に関わる文脈で古くから話題となっています。
4.年齢との関連を報告する研究もありますが…
このように、虐待は種別で該当する脳部位を変えますが、仮にダメージがないとしても、そもそも許される行為ではありません。
また、それぞれの虐待が受ける年齢により深刻さを増すことを示す研究もありますが、その時期を避ければ許容されるという結論にもなりません。相手が大人もあっても同様です。