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原始人だって 巨大ロボを操縦したい
どうせなら、私がアルコール依存になった仕組みをすこづつ書いていこうと思う。
■酩酊チキンレース
私は 飲酒し始めると、「ほろ酔い」で止めることができない。
もっと、次の扉を開けば もっと明るい何かが待っている、という漠然 かついい加減な期待感に取り憑かれて、とにかく酒を煽る。
酒を煽るたびに 次の扉が開く気がする。
こういう飲み方が、板につき始めたのは 30代ぐらいからだったかもしれない。
スーパーに行っても、アルコール度数が強いものを買う(ただし、飲みやすいものがベスト)
焼酎とかウィスキーとかウォトカ、ジンなどが多かった。
それらを 喉の奥に放り込むようにして呑む。一息で飲み下す。
体質にもよるだろうが、私の場合は 強い酒を呑むと喉の奥から脳天にかけて 震えが走り抜ける。
その儀式を超えると にわかに喉の奥から暖かさが広がり 段々と体がほぐれてくるし、心もほぐれてくる。
そして、段々と杯を重ねてゆくのだが 自分の許容量を超えるタイミングが もちろん毎晩やってくる。
そういうときは大体 一口分ちょいのアルコールが手元に残る。
つまり、コップに残った一口分の酒などである。
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眼の前に 一口分のアルコール度数の高い酒が残っている。
体としてはもう、酒は飲めないという感じがしている。
ここ数十年の休日は すべからく二日酔いで後悔している。
なんなら先週も酷い二日酔いであり、結局 家で一日寝ていたではないか。
この酒はもう、捨てるか?いや、そんな事はしない。
酒飲みは そんなこたァ、しないでしょ!
残った酒を捨てるなんざァ、ンーなの 酒飲みの風上にもおけねェ!
飲めない酒を コップに注いでしまった自分への罰である。
むしろ、この一口分を飲み下してしまえば 私は赦されるのだ。
私の回りには 無数の原始人が囲んでいる。それぞれ木の棒をもってリズミカルに吠え、棒で地面をドンドンと叩いている。
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「ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!」
あかあかと燃える松明(たいまつ)が周囲をオレンジ色に照らしている。
眼の前にはグラスに残った 一口分のアルコール。
「もう辞めておけ」と白い服を着た 誰かがささやく。
「こいつをやっつけて、お前の強さを見せつけてやれ」赤いやつがささやく。
「これが最後の聖戦だ」と私はつぶやく。
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主人公の強さを強調するために モンスターが登場するシーンがあるが、このときのモンスターもこのような心境なのだろう。
(もちろん こういうシーンのモンスターは 一方的に主人公にやられてしまう)
私はしばらく、コップと対峙していたが おもむろにコップを掴み 銀色に光る液体を 喉の奥に投下し一気に飲み下す!
私の回りの原始人たちが一斉に 勝利の雄叫びを上げる。
喉の奥には 強い酒独特の不味さが残る。
しかし、私は勝利したのだ。
私は 今夜飲まなければならなかった 酒を全て飲んだ!飲んでやった!
もう、誰にも文句は言わせない。
なぜなら、私は コップの中の・酒を・全て・飲み下して・やったのだ!
世界よ!どうだ!この偉業を見ていたか!?
今、この瞬間、こんなにすごい偉業を成し遂げた男は私だけだ。
私は拍手喝采を全身に感じるとともに、「ようやく眠ることができるという権利」(褒美)を手にすることができそうだ。
なお、体が追加されたアルコールの処理に大忙しとなりはじめる。
脳はもうアルコールででろでろにふやけて豆腐みたいになっている。
トイレに行くため コタツから立ち上がる。
思いの外 平衡感覚がおかしくなっているらしい。
その瞬間、頬に風が走る。以前にもこういう事があった。
それはいつだったか?
いや待て。そんな事を考えている場合ではないと思う。
「これはまずいな」と感じて右手を動かすつもりだったが どうやら間に合わなかったようだ。
壁に手をつこうと思ったが 壁らしきものが少し手に触れた。
なぜ、そうなったか不明だが…ははぁ、どうやら 私は倒れかけているらしいな。
なんで倒れかけているのだろう?以前にも こういう事があった。
それはいつだったか?
…ということを わずかに感じ取ったとき
誰かが 私の顔を木の板で思い切り ひっぱたいた!!
誰もいないこの部屋で、悪意を持った誰かが 私の横っ面を木でできた板で思い切り ひっぱたいたのだ!
誰だ!!
…わかっている。この部屋に誰もいないのはわかっている。
以前にも こういう事があった。
それはいつだったか?
そして、私はいま、床に倒れている。
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倒れても泥酔しているので さほど痛みは感じない。
「泥酔していてよかった」と思いながら ゆっくり慎重に 膝をついて半身を起こす。
初めてアムロが動かしたガンダムのようにゆっくりと動く。
(その時のセリフは「こいつ、動くぞ」だったっけ…などと思いながら)
そして、泥酔ガンダムは、千鳥足で ユニットバスに向かう….。
翌日、酷い二日酔いで後悔して16時ごろまで 寝床から動けない、というのが毎週末のイベントであった。
こんな生活を十年以上は続けていた。